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コラム:原油が実体経済のミラーに、乱反射する途上国リスク

[東京 21日 ロイター] - マイナスに転落するという異例の事態に陥った原油相場は、世界の金融・資本市場を大きく揺さぶった。大恐慌以来の景気後退と国際通貨基金(IMF)が警鐘を鳴らしても、ジャンク債まで買い入れる米連邦準備理事会(FRB)が防波堤になるとみていたマーケットの「安心感」にひびが入った。原油市場は株式市場に代わって実体経済を映し出す「ミラー」となり、乱反射した光が、ジャンク債市場や途上国経済のリスクを浮き彫りにする展開がやってきそうだ。

各国の中央銀行が買い支えている株式市場より、原油相場のほうが実体経済の直近の状況をより正確に反映している可能性がある。写真は2010年4月、カリフォルニア州フェローズで撮影(2020年 ロイター/Lucy Nicholson)

<置き場のない原油>

20日の取引で米WTI先物の期近5月物CLc1の清算値が1バレル=マイナス37.63ドルになったのを見て、やはり原油も金融商品の1つであると確信した人が多かったに違いない。

しかし、急落の背景には、米オクラホマ州クッシングの原油受け渡し場所の貯蔵施設が満杯になりそうだ、という思惑があった。物理的に「置き場がない」という現実を見せつけられ、FRBの「何でも買う」姿勢に勇気づけられてきた金融市場関係者にも、戦慄(せんりつ)が走ったようだ。

言い換えれば、原油市場はマネーの世界と実物経済の世界をブリッジする役割を果たしている今や数少ない市場の1つになっているということだ。

<中銀支援で安全資産化する株>

コロナ危機の前までは、曲がりになりにも株式市場が、実体経済の先行きを示す先行指標的な機能を担っていると思われてきた。

ところが、「移動規制」を課されて需要が蒸発するようになくなったコロナ危機を受け、主要中銀がこぞって大量の資金を市場に供給し、FRBにいたってはジャンク債の購入にまで踏み込んだ。

2020年の世界経済がマイナス3%成長に転落するとIMFが予測しても、FRBなどの中銀が「支える」姿勢を見せ、企業はつぶれないとの見方が市場に台頭。米株を筆頭に世界の株価は、足元で回復基調を鮮明にしてきた。

つまり、株式市場が示す株価は実体経済のリスクを織り込んだ先行指標ではなく、当局が支えている「安全資産」に変貌しようとしていたと言えるのではないか。

<原油余剰が示す世界経済のマイナス成長>

この安心感に冷水を浴びせたのが、今回の原油急落だ。先物の限月交代に絡む特殊な動きという要素もあったが「FRBも原油までは買えない」(国内金融関係者)ということで、コロナ危機による世界的な需要減少を反映し、原油が余ってしまうという現実が、そのまま価格に反映された。原油市場は実体経済を映す鏡となり、そのことを世界中が改めて認識したというのが、20日から21日にかけて起きた現象の意味だ。

石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの産油国が5月、6月に日量970万バレルを減産するとの合意に達したが、コロナ危機の下では、日量3000万バレル近くの余剰が出ると予想されており、当初から需給バランスは回復できないとの見方が強かった。

そこに最近の米国内における「経済再開」を巡る意見の対立が加わり、5月中に経済が動き出すという期待感に逆風が吹き出してきた。もし、6月になっても経済の再開が思うように進まなければ、原油の余剰は解消されず、本当にタンクが満杯なり、原油価格に下押し圧力がかかるだろう。

見方を変えれば、原油価格の動向を見ていれば、株価を見ているよりも実体経済の直近の状況をより正確に把握することができるということだ。

<懸念される途上国の危機>

原油価格の大幅下落が続けば、米国のシェール業者の経営が苦しくなり、資金を調達してきた米国のCP、社債市場にも大きな「波」がやってくる。FRBがジャンク債まで買う方針を示しているが、本当に支えきることができるのかどうかは、前代未聞の事態なので確定的なことは言えない。

さらに世界経済の収縮は、体力の弱い途上国を直撃する。債務再編案を巡り大詰めの交渉を迎えているアルゼンチンだけでなく、多くの途上国は外貨の資金繰りが苦しくなり、連鎖的な危機がやって来る可能性がある。

<5月に緊急事態から脱出できるか>

一方、コロナ感染拡大のピークがこれから到来する恐れがある日本では、外需の落ち込みだけでなく、内需の落ち込みがさらに大きくなる。自粛要請された中小零細の飲食店だけでなく、幅広い分野の企業で大幅な業績悪化が現実化する。そこに原油価格の大幅下落が加われば、物価の押し下げを伴って「デフレ心理」が再び高まりかねない。

21日の日経平均.N225が前日比388円余り下げたのも、世界的な需要減退を吸収できる体力が果たして日本にあるのかどうか、という本質的な警戒感が表れたのかもしれない。

この危機シナリオを覆す力があるとすれば、それは5月6日に緊急事態宣言が解除され、経済の本格的な再開に日本政府が踏み切るという展開になった場合だろう。

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編集:久保信博

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