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コラム

コラム:日本に生産ショック、主軸の自動車不振が深刻 年内3次補正も

[東京 30日 ロイター] - 5月鉱工業生産は、予想されていたとはいえショッキングな数字だった。「四番打者」とも言える自動車の不振が主因であり、世界の自動車需要を見通せば、主軸の不振で日本経済の停滞が長期化する可能性がある。自動車産業は裾野が広いだけに他の産業への波及効果もあり、年内の3次補正編成は必至の情勢になってきたと言えるだろう。

 6月30日、5月鉱工業生産は予想されていたとはいえショッキングな数字だった。写真は神奈川県川崎市にある自動車工場。5月18日撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

<株高と同時進行の生産急減>

今回の生産データ発表とマーケットの反応は、まさに「コロナ的世界」の典型だった。5月生産は前月比マイナス8.4%と市場予想の同5.6%よりも落ち込んだが、東京市場は「完全に無視」(国内金融機関)。日米欧の中銀が緩和マネーを潤沢に供給、世界中で金利が低下し、その上に信用緩和で社債も中銀が購入し、結果として「株式市場は最も安全で有利な市場」(国内証券)となってしまった。国際通貨基金(IMF)も「金融市場と経済見通しの間にかい離が生じている」との報告書をまとめている。

ところが、注目していた市場もあった。いつもは無反応を決め込んでいる原油市場だ。30日のアジア市場では、米WTI先物CLc1が一時、1%程度下落した。日本の生産の不振は世界経済停滞の長期化リスクを意識させ、原油需要の弱含みをイメージさせたらしい。

<ドミノ的生産減少の構造>

原油市場の連想は、決して間違っていないと指摘したい。もっと日本経済に引き付けて5月鉱工業生産のデータを分析すると、自動車産業が受けた新型コロナウイルスの感染拡大による打撃は、「想定以上」であると言える。

生産データを業種別にみると、「自動車工業」は前月比マイナス23.2%。前年同月比は同61.2%と目を覆いたくなる惨状だった。

自動車産業は裾野が広いため、他の業種にもドミノ的にマイナス効果が及んだ。設備投資に関連する「生産用機械工業」が前年同月比同21.6%、自動車用照明器具などの「電気・情報通信工業」が前年同月比同23.3%、タイヤなどの「その他工業」が前年同月比同23.3%と総崩れ状態だった。

また、生産全体に関して先行きも楽観できない。30日の鉱工業生産発表の会見で経産省幹部は、新型コロナウイルスによる影響について、企業は精緻に織り込んでいないため、生産計画が「必ずしも保守的でない」と説明。実際、5月の生産実績は計画の2倍もマイナス幅が拡大。6月の生産も前月比マイナスにとどまる可能性があると指摘した。「5月に底を打ったか分からない」とも述べ、6月の生産回復の鍵は輸出の回復が握っているとの見解を示した。

<みえない生産反転のきっかけ>

だが、世界最大の市場である米国におけるコロナ感染者数が、足元で増勢に勢いが付き出し、経済の「Ⅴ字回復」に暗雲が漂っている。

自動車各社は日本から一定数を輸出しており、複数の自動車会社に至っては、対米輸出の帰すうがその会社の命運を握っているところもあり、先行きは不透明なままだ。

日本国内をみても、夏のボーナスは経団連が把握する大企業に限ってみても、前年比マイナス6%となっており、雇用・所得環境は厳しさを増している。コロナ感染の第2波が襲ってくれば、再び、休業要請が政府から出てくる産業分野も予想され、雇用されている立場からみれば、今後の雇用が保証されているとの「実感」が、次第に薄れがちになるリスクがある。

そのような「防御的」な心理が強い中で、果たして1台につき数百万円する自動車を購入しようとする人がどれくらいいるのか、ということが問題だ。コロナ問題の影響が「収束」したと思える環境が整うまで、自動車や住宅などの消費は手控えが主体となる公算が大きい。

生産からの視点でみれば、主軸の自動車生産が前年同月比プラスに浮上するまでに、相当の時間がかかると予想される。2021年中に19年のレベルまで生産が戻ればいいが、このハードルは相当に高いと指摘したい。

なぜなら「ウイズ・コロナ」時代は、社会的距離の保持が求められ、従来型の「集客」ベースのビジネスは、損益分岐点が大幅に上昇するからだ。政府・与党には関係する業界団体から「収容人員を従来の定数の50%に制限されると、多くの業種で黒字化が難しい」との声が寄せられているという。

つまりサービス産業の多くでは、利益が出ず、業態やビジネスモデルの転換を求められるということだ。どんなに短めに見積もっても、今後数年間は、国内総生産(GDP)の過半数を占める非製造業の利益率が落ち、個人の購買力低下を伴って自動車などの売り上げ不振が長期化することも予想される。

<今から必要な「安全ネット」>

生産水準の低迷が長期化すれば、自動車産業に象徴される製造業は大きな危機に直面しかねない。構造改革には時間がかかり、短期間で効果の出る処方せんは政府にも持ち合わせがないだろう。

そこで、経営不振の長期化による資本の毀損に直面した企業の「救済」を目的にした新スキームが必要になるのではないか。また、コロナ対応の結果、経営が悪化している病院などへの「財政支援」も喫緊の課題として浮上。今年の秋冬から襲来するかもしれないコロナ感染の第2波に備えた対応にも、相当額の国費が必要になる。

年内の2020年度第3次補正予算編成は避けられない事態であり、政府債務の膨張に対し、財政・金融政策がどのように立ち向かうかも、今から検討すべき課題であると指摘したい。

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編集:田中志保

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