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コラム

コラム:3%賃上げに日本株下落の暗雲、早くも岸田政権の正念場か

[東京 31日 ロイター] - 米利上げの加速観測をきっかけに日本株にも下落圧力がかかってきた。日経平均がこの先2万6000円を割り込むようなら企業経営者の心理を冷え込ませ、岸田文雄首相が企業に要請している3%賃上げの可能性を低下させかねない。首相の提唱する「新しい資本主義」にとって3%賃上げは不可欠なピースであるだけに、ここで挫折すると政権の先行きに暗雲が漂うことになる。

 米利上げの加速観測をきっかけに日本株にも下落圧力がかかってきた。日経平均がこの先2万6000円を割り込むようなら企業経営者の心理を冷え込ませ、岸田文雄首相(写真)が企業に要請している3%賃上げの可能性を低下させかねない。首相官邸で2021年10月に代表撮影(2022年 ロイター)

<年初から一時3000円下落した日経平均>

岸田政権にとって、足元の日本株急落は想定外だったのではないか。日経平均は1月5日に2万9338円16銭の高値を付け、市場には3万円回復の期待感が高まった。しかし、27日には2万6044円52銭まで下落した。28日にはいったん大きく反発したものの、週明け31日は再び下落して寄り付いた。3週間で3000円を超す下げを演出したのは、米連邦準備理事会(FRB)と言っていいだろう。

パウエルFRB議長は26日の会見で、次回の3月を含めて今年あと7回ある米連邦公開市場委員会(FOMC)ごとに利上げする可能性を明確に否定しなかったため、市場では年内7回の利上げがあるとの観測が浮上。FRBの資産圧縮(QT)も早めにスタートするとの声が広がり、急速な引き締めに身構える市場参加者がにわかに増加した。有力な市場参加者の中には、年内の利上げ幅を125ベーシスポイント(bp)に引き上げ、早ければ6月にもQTが開始されると予想を変更する向きも出てきた。

米利上げの加速観測は、ナスダックを中心に下落圧力が強まる形になり、市場が重視する200日移動平均を下回って「調整局面」との見方が広がっている。

<米利上げ加速観測と米株変調の関係>

他方、足元の米景気は新型コロナウイルスのオミクロン変異株の拡大で、消費に水が差されようとしている。12月米小売り売上高は前月比マイナス1.9%と落ち込んだ。2021年10─12月期の米国内総生産(GDP)は前期比プラス6.9%だったが、そのうち在庫投資が4.9%ポイント寄与。それを除いた伸び率は同1.9%だった。

マーケットでは、2022年1─3月期の米GDPは2%前半に減速するとの予想が多く、その程度の経済の強さで利上げを重ねていけば、年後半に米経済は失速するのではないかとの懸念もささやかれ出した。それが足元での「米株変調」現象の大きな理由だろう。

<岸田政権は「株安放置」の思惑>

ナスダックの下落に連動して下げやすい日経平均だが、ここに来て日本株に特有の下げ要因が意識され出している。岸田政権が「株安放置」のスタンスではないかという疑惑だ。岸田首相は25日の衆院予算委での質疑で「株主資本主義からの転換は、重要な考え方の1つ」と述べた。

筆者は、賃上げや設備投資に資金をあまり投入せず、増配や自社株買いで短期的に自社株の値上がりを狙うことに傾斜する経営者の姿勢はあまりに安易であり、これが日本経済の成長力を弱めている大きな要因の1つであると考えている。質疑の中で企業の配当金の割合が大幅に上昇しているとの指摘に対し、企業の分配の問題は重要であると指摘した岸田首相の考え方は妥当だと考える。

しかし、株価の大幅な下落に対し、何らメッセージも発しないのは、やはり「無警戒」との批判を招くのではないか。なぜ、そのように指摘するのか──。それは、株価下落を奇貨として、経営者が3%の賃上げ要請を拒絶する可能性があるからだ。

<株下落進行なら賃上げの障害に>

株価下落の悪影響には、心理的な面と実体経済への悪影響の2つのルートがある。先行するのは心理面だ。株価は将来の経済変動を先取りして動いていると言われることが多く、大幅な下落は将来の不確実性の拡大を意味すると経営者が受け止める可能性がある。特に過去20年間以上も、賃金コストを圧縮することで国際競争力を維持してきたと認識してきたはずの日本の経営者にとって、株安イコール賃上げ圧縮というスタイルは、採用しやすい選択肢の1つと言える。

実体経済への波及として、最も早く表面化するのは保有株式の減損リスクである。2021年3月の日経平均の月中平均は2万9300円台だが、もし、2万6000円まで下落すると約1割の減損を強いられることになる。その結果、設備投資や研究・開発費への支出を絞るような「守り」の姿勢に傾きやすくなる心理が経営陣の中に広がるだろう。

また、富裕層だけでなく自宅で株式トレードをやってきた個人投資家の損失も大きくなっていることも予想され、消費を抑制する力として働く可能性がある。株価の下落から一定のタイムラグを持って国内総生産(GDP)に下押し圧力がかかることになる。

それだけではない。岸田首相が最も力を入れている「新しい資本主義」にも大きな打撃となりかねない。岸田首相は施政方針演説で、春闘に向けて「賃上げ率の低下トレンドを一気に反転させたい」と強く訴えた。

賃上げを起点に所得増と消費増が連動し、企業の売上高・収益が拡大して積極的な投資につながり、生産性と国際競争力が向上して日本の成長力が久しぶりに向上する、とのデザインを描いていたと思われる。その好循環こそが安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」とは異なった「新しい資本主義」の具体的なあり方だと訴えたかったはずだ。

ところが、想定外の日本株下落で最も重要なピースであった3%の賃上げが挫折することになれば、岸田政権の推進力が大幅に落ちることになりかねない。

<物価高による実質購買力の低下、支持率に直結>

世界的なインフレの流れを反映し、日本でも食料品を中心に製品値上げが広がり出しており、4月以降の消費者物価指数は総合で2%に乗せる可能性が高まっている。日銀の黒田東彦総裁は18日の会見で、エネルギーや原材料価格の上昇による物価押し上げ効果は一時的と説明したが、その後に加わった外的環境の変化がある。ウクライナを巡る米国とロシアの対立激化である。一部の識者は「キューバ危機」以来の緊張の高まりであると指摘し、エネルギーと原材料価格の上昇は長期化する様相を強めている。

もし、株安基調が継続するようなら日本では、物価上昇と小幅な賃上げの組み合わせによる実質購買力の低下と個人消費の低迷が到来する可能性を高めるだろう。消費が振るわなければ国内景気は停滞感を強め、その中で物価が上昇するスタグフレーションの前兆のような現象が現れることも予想される。

その場合は岸田政権が最重視する今年夏の参院選を前に、支持率が低下するシナリオが現実化することも視野に入れざるを得なくなるだろう。

足元の株安を放置したり無視するスタンスは、決して岸田政権の未来を明るくすることにはつながらないことがはっきりしてきたのではないか。米利上げ加速の流れが、岸田政権を運命の分かれ道へと押し出している。

●背景となるニュース

・岸田首相が施政方針演説、「賃上げ率一気に反転」 四半期開示を見直し

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