[東京 15日 ロイター] - 来年の日本経済にとって厄介なのは、利上げを進める米国の景気減速が確実で、輸出主導の回復が難しいことだが、足元でさらに難問が浮上してきた。ゼロコロナ政策の緩和にかじを切った中国に混乱の兆しが見えることだ。もし、一部で予測されているように来年の旧正月前後に感染者が急増した場合、ゼロコロナ政策に回帰して経済の動揺が長期化するリスクも出てくる。
来年前半にかけて物価上昇が目立ち、個人消費に下押し圧力がかかる日本経済にとって、米中からの「逆風」が外需に加わると、ゼロ成長を強いられるシナリオも浮上する。5月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)を広島で開催し、あわよくば直後の衆院解散を模索する可能性がある岸田文雄首相にとって、来年前半の景気動向は「頭痛のタネ」になりかねない。
<足元の中国経済、ゼロコロナで落ち込み>
15日に公表された中国の経済指標は、足元の急減速を象徴する結果となった。11月鉱工業生産は前年比2.2%増と、前月の5.0%増から伸びが大幅に鈍化。11月の小売売上高は前年比5.9%減少と10月の0.5%減からさらに落ち込んだ。
1─11月の不動産投資は前年同期比9.8%減と、1─10月の8.8%減から落ち込みが加速。同じ期間の新規着工(床面積ベース)も同38.9%減少し、1─10月の37.8%減からマイナス幅が拡大した。
この中国経済の急減速は、ゼロコロナ政策による厳しい行動規制の結果とみられ、15日に発表された日本の11月貿易収支でも、対中輸出は数量ベースで前年比16.4%減と大幅に落ち込んだ。
<12月以降は感染拡大リスクに直面か>
市場では、中国当局によるゼロコロナ政策の緩和で中国経済の急回復を期待する声が多数派だが、直近の動向をみると、期待とは逆方向の現象がみられる。北京市内では病院の発熱外来への受診者が急増していると一部で報道されている。
また、ノムラの首席中国エコノミスト、ティン・ルー氏の顧客向けリポートによると、中国インターネット検索最大手の百度(バイドゥ)のサイトでは、新型コロナ関連のキーワードでの検索回数が急増。首都・北京など主要都市で、局所的に感染が急増している可能性があるという。
中国のコロナ感染対策に詳しい一部の専門家の間では、中国企業が製造したコロナワクチンはメッセンジャーRNAワクチンではないため感染抑止効果が低く、ゼロコロナ政策を緩和した場合、感染爆発に近い現象が起きるのではないかとの懸念が出ている。ノムラのルー氏は来年1月下旬の春節(旧正月)ごろに、かつてない規模の感染拡大が起きると予測している。
<中国失速に2つのルート>
もし、感染拡大が現実化した場合、2つのルートで経済下押しの圧力が増大することになる。1つは、中国当局がゼロコロナ政策に戻り、大幅な行動制限が実施され、工場などの生産停止が長期化し、その影響が世界のサプライチェーン(供給網)に波及する事態だ。グローバルにマーケットはリスクオフの要因として反応するだろう。
もう1つは、不動産関連の取引が事実上、凍結されることによって関連融資が不良債権化し、中国の金融システムを動揺させるルートだ。
中国の来年1─3月期の国内総生産(GDP)は大きくスローダウンし、国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)が予想する23年の5%成長はスタートから挫折しかねない。
日本にとっては、対中輸出の不振が表面化してGDPを押し下げるだけなく、対中依存度の高い企業の収益見通しの下方修正要因になりかねない。
<0.5%成長なら、対米輸出に下押し圧力>
一方、14日の米公開市場委員会(FOMC)終了後に公表された23年の米経済のGDP成長率は0.5%だった。マーケットの多数派は23年後半に2回の利下げを織り込んでいるが、14日に公表されたドットチャートの中心値をみると、23年末のFFレートは5.0─5.25%で24年末が4.0─4.25%だった。つまり、この予測通りに展開すれば、23年中の利下げはないことになる。
住宅投資を中心に大幅な需要減が23年に起きるとすると、日本からの対米輸出も相応の減速を覚悟した方がいいだろう。11月の貿易統計で数量ベースの対米輸出は前年比1.0%増と小幅ながらプラスを維持した。しかし、来年は半ば以降に目立って減速する公算が大きくなると筆者は予想する。
このように23年の外需は、米中向けの輸出に急ブレーキがかかり、GDPベースでの外需寄与度はマイナスに転落して推移する可能性が高まっている。
<内需に物価高の重圧>
一方、内需は企業の設備投資がコンスタントに出ると予想されるものの、個人消費の先行きは不透明だ。大きく影響するのは物価動向だろう。消費者物価指数(CPI)は年明けに政府による電気料金等への支援が始まり、いったん押し下げられることになるが、4月以降は電気料金や電車やバスなどの交通機関の値上げが控えており、日銀が見通しているようにCPI上昇率が下がっていく展開は考えにくくなっている。
直近の日銀短観でも、仕入れ価格判断のプラス幅が販売価格判断のプラス幅を大幅に上回っている状況が続き、企業に値上げを決断させるエネルギーは溜まったままだ。世界と比べて周回遅れとなっている日本の物価上昇は、今のところピークがいつ到来するのか見通せないと言っていいだろう。
5月の広島サミットで国際的なリーダーとしての存在感を示したい岸田首相にとって、その後の衆院解散は非常に魅力的なシナリオと映っているのではないか。
だが、その時に外需、内需とも逆風に直面していては、野党に突け入るすきを与えかねない。23年度予算案が成立した後は「景気失速リスク」に対応した総合経済対策と補正予算案の検討が、政治課題として浮上していることもあり得るだろう。
それほどに23年前半の日本を取り巻く内外の経済情勢は、厳しさを増しているのではないか。
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