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コラム:輸出不振で日本経済失速の懸念、植田日銀は慎重な政策判断か

[東京 16日 ロイター] - 財務省が16日に発表した2023年1月貿易収支で、日本の貿易赤字は3兆4966億円と単月で過去最大の赤字幅を記録した。背景には対中輸出の大幅減少継続があり、この流れが継続すると今年1─3月期の国内総生産(GDP)は、輸出不振を主因に前期比マイナスとなる懸念が台頭しそうだ。

 日本の景気を下押しする要因が増えれば、4月に植田和男新総裁の下でスタートする日銀新体制の日本経済を巡る情勢判断が慎重になり、市場でささやかれている超緩和策の修正に踏み出す判断は、先送りされる可能性が出てきたと筆者は考える。写真は2012年12月、都内で撮影(2023年 ロイター/Yuriko Nakao)

日本の景気を下押しする要因が増えれば、4月に植田和男新総裁の下でスタートする日銀新体制の日本経済を巡る情勢判断が慎重になり、市場でささやかれている超緩和策の修正に踏み出す判断は、先送りされる可能性が出てきたと筆者は考える。

<対中輸出落ち込み、継続なら影響拡大>

1月貿易統計では、輸入が前年比17.8%増の10兆0477億円に膨れ上がったところに目が行きがちだが、今年の日本経済の先行きを展望する上では、輸出の不振に注目するべきだ。

輸出全体では、前年比3.5%増の6兆5511億円と増えているものの、対中輸出が前年比17.1%減の9674億円にとどまったことが目立った。中でも数量ベースは、同30.7%減と大きく落ち込んだ。

中国は昨年12月にゼロコロナ政策を大胆に転換。経済活動を優先させる方向にかじを切り、市場の一部では、中国経済のV字回復を期待する声も出ていた。しかし、今月10日に発表された1月生産者物価指数(PPI)は前年比マイナス0.8%と市場予想を超えて落ち込み、中国の実体経済が依然として「フル稼働」には程遠いことを示唆していた。

中国政府も危機感を持ったのか、16日に国家発展改革委員会(発改委)と財政省が、住宅への支出を促し、新型コロナウイルス禍で蓄積された個人の貯蓄を消費に向かわせる政策を立案すると発表した。

ただ、政策効果が出るまでには、半年以上はかかるとみられ、中国経済が本格的に回復してきたと実感できるのは、今年夏場以降になるのではないか。

日本にとって米国と並んで2大輸出先である中国経済がしばらく停滞する可能性が出てきたことは、少なくとも今年1─3月期の国内総生産(GDP)の外需がマイナス寄与になる懸念を高めるだろう。

<消費に物価高の波紋、日本経済に停滞色も>

内需も足元の物価上昇率の加速を受けて、消費の足取りに力強さが見られない。家計調査をみても、消費支出(2人以上の世帯)は11月が前年比マイナス1.2%、12月が同1.3%と水面下に沈んでいる。

昨年10─12月のGDPでは、インバウンドが0.2%のプラス寄与となった。インバウンドの増加は日本経済にとって数少ない光明と言えるが、この先も物価高が継続し、消費の足を引っ張る状況を勘案すると、力強さに欠ける輸出の状況が続くことは、日本経済の成長にとって極めて影響が大きいと言わざるを得ない。少なくとも今年前半までは、潜在成長率を下回る停滞した状況が続きそうだ。

<不透明感強まれば、植田次期総裁は慎重な判断も>

日本経済の先行きに不透明感が強い中で、4月には植田氏を総裁に迎えて日銀の新体制がスタートする。市場は、長期金利の0.5%の上限引き上げなどを含めたイールドカーブコントロール政策(YCC)の修正や、その先の撤廃を見越した黒田緩和の「総括検証」が行われるのではないか、といった思惑が交錯している。

しかし、日本経済の先行きに不透明感が立ち込めていると日銀が判断した場合、長期金利が上昇し、連動して円高に振れるような市場の地合いが生まれたら、それは「景気にマイナス」と判断するのではないか。

長期金利の上昇圧力が増し、円高になるような政策の打ち出しは「不適切」と判断すれば、市場がそのような思惑を生じさせやすい情報発信も控えると筆者は予想する。

植田新総裁は、合理的な思考と情報発信を自身のカラーと認識されているとみられ、弱い経済の先行きを示すデータには、それにふさわしい対応をするだろう。

その意味で、1月貿易収支における3兆円を超える貿易赤字と、その裏にある中国経済の先行き不透明感による対中輸出の失速状況は、大きな予兆となるのではないか。

植田日銀の4月のスタートは、極めて慎重な政策スタンスを発信する場になると予想する。

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