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コラム

コラム:デジタル・バンクランと債券急落、年後半の日本経済に下押し圧力

[東京 22日 ロイター] - シリコンバレー銀行の破綻で始まった米欧金融不安は、足元で小康を取り戻しているものの先行きの不透明感は払しょくされていない。背景には、世界的な超緩和策の後の急速な利上げで債券市場が急落している現象と、デジタル・バンクランと呼ぶべき21世紀型の取り付けが組み合わさり、新たなトラブルの多発リスクが存在しているからだ。

 3月22日、シリコンバレー銀行の破綻で始まった米欧金融不安は、足元で小康を取り戻しているものの先行きの不透明感は払しょくされていない。写真は13日撮影(2023年 ロイター/Dado Ruvic)

米国では、金融機関による貸し渋りが表面化する可能性があり、金融の引き締まりを背景に実体経済の大幅減速が視野に入ってきた。このことは日本経済にとっても重大な要因となる。今年後半に輸出失速をきっかけとした日本での景気後退が現実化する危険性が出てきたと指摘したい。

<米利上げと債券損失の波紋>

22日の東京市場では、日経平均が一時500円を超す上昇となった。イエレン米財務長官が21日の講演で「中小金融機関で預金の流出が発生し、他に波及する恐れがある場合、同様の措置(預金の全額保護)が正当化される可能性がある」と述べ、市場に安心感が広がった。

また、スイスの金融大手クレディ・スイス救済でAT1債(その他ティア1債)の価値をゼロとする措置が取られたことを受け、英欧の金融監督当局が20日、このような状況でまず損失を負担するのは株主で、債券保有者はその後になると明確に指摘したことも市場の動揺を抑制する効果を生んだ。

ただ、これで市場の懸念が完全に払しょくされたと考えるのは早計だろう。今回の米欧金融不安には、根深い構造問題が隠されているからだ。

1つ目は、世界的に長期化した超金融緩和によって、大規模な銀行から中小金融機関にいたるまで、より高金利の金融商品に殺到した現象がある。超緩和政策が永遠に続くのであれば、この現象のリスクは隠されたままだった。

しかし、その後のインフレ高進を受けた急速な利上げによって事態は急変する。イールドカーブは急速にスティープ化し、債券を組み込んだ各種の金融商品は大幅な価格下落に直面した。

シリコンバレー銀行のケースが典型的だが、保有していた米国債に18億ドルの損失が発生。破綻の大きな原因となった。この構図は、決してシリコンバレー銀に特有ではない。もっと複雑な仕組みの金融商品を保有している大手金融機関にも、金利上昇に伴うリスクが及んでいる。

先に指摘したイエレン財務長官による預金の全額保護の対象を拡大する用意があるとの発言は、裏を返せば、経営破綻の予備軍が少なからずあることを示唆したと受け止める必要があると筆者は指摘したい。

<デジタル・バンクランの脅威>

さらに大きな要因は、銀行経営の悪化を招くかもしれない情報が発信されてから極めて短期間に破綻に追い込まれたという現実だ。

SNSの普及によって、ひと昔前なら「口コミ」で広がった悪い情報が瞬間的に拡散されるようになった。シリコンバレー銀の場合、増資がうまく行かなくなったと報道されてから破綻まで実質的に2日間しか経過しなかった。

これには、ネット経由で預金を引き出せる現在のシステムも大きく影響している。かつてのように銀行の店頭に預金者が並ぶ風景がないまま、預金の大幅な減少を招くことが現実化した。これは「デジタル・バンクラン」(デジタル化時代の取り付け)と呼ぶべき現象と言える。

<先行指標のジャンク債市場>

このように今回の米欧金融不安では、債券バブル崩壊直前のような債券急落とデジタル・バンクランが組み合わさった構図を形成しており、今後、どのような展開をたどるのか予断を許さない。

1つの目安として注視すべきは、米国のジャンク債(低格付け債)市場の動向だろう。金利上昇の波を真っ先に受ける市場であり、ここで価格暴落が起きれば、他の市場に波及する可能性が高まる。

また、足元の金融不安が米欧の金融機関による貸し渋りに発展する可能性も出てきた。アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミスト、トーステン・スロク氏は18日のノートで、最近の銀行セクターの窮状によって既に金融環境は引き締まりつつあり、この1週間の動きは150bpの利上げに相当すると指摘している。

すでにレバレッジドローン(低格付け企業への融資)は、足元で大幅に縮小しており、信用収縮の影が見え始めている。

この先のリスクとして、銀行による貸し渋りが低格付けの融資先企業の財務体質を悪化させ、ローン担保証券(CLO)の劣化に飛び火するという事態が懸念される。もし、ここまでリスクが拡大すると、サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題と類似の危機発生の可能性が出てくることに注意が必要だ。

<米景気失速リスク、日本経済に大きな負担>

米欧金融不安が深刻化するなら、貸し渋りに代表される信用収縮が表面化しかねず、米景気が想定を超えて失速ないし後退する懸念が高まる。その影響は、日本経済にも当然、波及してくる。日本政府の2023年度成長率見通しは1.5%、国際通貨基金(IMF)の日本の見通し(23年)は1.8%だが、これを大幅に下回ることも予想される。

米景気の急ブレーキは中国の対米輸出を鈍化させ、今年後半の回復が期待されている中国経済の下押し圧力となる。日本にとっては、1番目と2番目の輸出先がともに景気悪化方向に振れることを意味する。

足元における日本株の反発を見て、米欧金融不安の影響は「峠を越した」と思うのは、かなりのリスクを背負い込むことを意味するだろう。

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