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コラム

コラム:米中失速リスク、来年の賃上げに暗雲 日銀判断にも影響

[東京 17日 ロイター] - 2023年1─3月期の日本の国内総生産(GDP)は3期ぶりのプラス成長となったが、輸出の不振が目立った。4月以降は、米中をはじめとする世界経済の減速が輸出企業に逆風となり、政府・日銀が注視する来年の賃上げに暗雲が漂い出した。連続した大幅賃上げがとん挫する気配が濃厚になれば、植田和男総裁が率いる日銀の政策判断にも大きな影響を与えそうだ。

 2023年1─3月期の日本の国内総生産(GDP)は3期ぶりのプラス成長となったが、輸出の不振が目立った。写真は2020年、東京都内で撮影(2023年 ロイター/Peter Casey-USA TODAY Network)

17日発表のGDPの特徴を要約すれば「弱い外需と強い内需」と言えるだろう。輸出は前期比4.2%減となり、外需寄与度はマイナス0.3%。一方、個人消費は同0.6%増、民間設備投資が同0.9%増となり、内需寄与度はプラス0.7%となった。

4月以降はどうなるのか。世界経済1位の米国と2位の中国の先行きに減速懸念が広がっており、日本の外需は今後、一段と逆風にさらされる可能性が高まっている。

<米経済、利上げ効果の減速>

まず、米国では米供給管理協会(ISM)が5月1日に発表した4月製造業総合指数は47.1と6カ月連続の50割れ。米商務省が16日発表した4月の小売売上高(季節調整済み)は前月比0.4%増と堅調さを示したものの、米アトランタ地区連銀が公表している「GⅮPNOW」は16日時点で、今年第2四半期のGDP成長率を2.6%と予測。前回8日時点の2.7%から小幅の下方修正となっている。

米経済は米連邦準備理事会(FRB)による利上げの累積的効果がようやく出てきており、3月からの米地銀破綻による金融引き締まり効果も加わって、今年夏場から秋にかけて一段と景気減速が鮮明になる公算が大きくなっている。

<中国にバランスシート不況の気配>

また、ゼロコロナ政策を転換し、Ⅴ字回復が期待されていた中国経済も足元で「変調」がみられる。中国国家統計局が16日発表した4月鉱工業生産は前年比5.6%増と、市場予想の10.9%増を大幅に下回った。

4月の小売売上高も前年比18.4%増と予想の21.0%増に届かなかった。前年がゼロコロナ政策で極めて低い水準であるため、上昇率がかさ上げされており、中国経済の実態は非常に弱いとみるべきではないか。

その証拠の1つが、中国国家統計局が16日発表した4月の不動産投資と販売の大幅な減少だ。国家統計局データに基づきロイターが算出した結果では、4月不動産投資は前年比16.2%減と、3月の7.2%減から落ち込みが加速した。

4月の不動産販売(床面積ベース)も前年比11.8%減少と3月の3.5%減からさらに落ち込んだ。背景には、高水準の債務を抱える開発業者への金融面での締め付けで資金繰りが悪化し、住宅プロジェクトの建設が滞ったという事情がある。

販売価格も下落しており、中国国家統計局が17日発表したデータを基にロイターが算出した4月新築住宅価格は前年比0.2%減。12カ月連続のマイナスとなった。3月は0.8%下落していた。政府の支援策を受けて、前月比では4カ月連続の上昇となったが、上昇幅は縮小している。

住宅建設業者の業績悪化は銀行の不良債権増加につながっているだけでなく、プロジェクト停止などの影響による価格下落は、企業や個人の資産劣化につながり、マクロ的には、日本が1990年代に経験した「バランスシート不況」に近い状況になっている可能性もある。

そのケースでは、金融緩和が効きにくく、ストック調整がある程度進ちょくするまで、経済が上向かない危険性がある。

このように見てくると、2023年の米国と中国の経済は、成長率が加速するのではなく、減速する可能性が高まっているとみるべきだと筆者は考える。

<復調するインバウンド>

そこで問題になるのは、日本経済への影響だ。外需は4─6月に続き、7─9月期も落ち込むが予想される。期待は外国人旅行客の購買力と日本国内での個人消費の盛り上がりだ。

観光庁によると、今年1─3月期の訪日外国人旅行消費額は1兆0146億円と2019年同期比11.9%減まで回復してきた。中国が日本への団体旅行を認めていないため、中国からの観光客による消費額は1069億円と全体の10.5%にとどまっているが、19年1─3月期は36.9%を占めており、今後の拡大に関係者の期待が集まっている。

今年の大型連休中の航空各社やJRの動向をみると、19年の実績に接近もしくは一部では上回る航路・線区も出ている。

この傾向が夏場から秋に継続すれば、内需が国内景気を支えて外需のマイナスを補う構図が予想される。

<物価高や外需悪化・株安連鎖のマイナス>

しかし、日本経済回復のシナリオには、いくつかの障害が待ち受けている。1つは国内物価の上昇継続の可能性である。日銀は年度後半に消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の上昇率が鈍化し、前年比1%台後半まで低下すると予想しているが、電力7社は6月から個人向け電気料金の値上げすることが政府によって承認された。

また、食品を中心に製品値上げの動きは夏場以降も継続しそうで、サービス価格の値上げとともに物価動向は予断を許さなくなってきた。物価の高止まり長期化は、日用品を中心とした購買を抑制し、消費全般の増加傾向の足を引っ張りかねない。

さらに輸出系企業の業績がこの先、米中経済の悪化で下振れしそうだとなれば、株価が下押し圧力を受け、企業経営者や個人のマインドを冷やすことにもなる。日本国内の経営者や消費者は横並び意識が強いため、いったん「危ない」との認識が広がると、マクロ的にも大きなパワーを発揮しやすい。

<来年の賃上げ率ダウンなら、日銀も慎重な判断に>

そうなると、政府と日銀が非常に重視している賃上げの連続性にも「黄信号」が点灯するリスクが浮上するかもしれない。日本の賃上げは、輸出系を中心とした大企業・製造業が主導権を握ってきており、外需の大幅な減速が現実化しそうだ、と判断すれば、今年のような3%台の賃上げ方針を撤回する可能性が出てくる。

一方、内需の好調に支えられている非製造業には、人手不足の圧力がかかっているので、輸出系にならって賃上げをトーンダウンさせられない事情がある。製造業と非製造業の綱引きは、過去のデータをみれば、製造業が「常勝」だった。

今回、どうなるのかは現時点ではっきりしないが、過去と同じパターンを踏めば、賃上げ率カット、購買力の低下、国内販売の減少、というスパイラルに逆戻りするリスクがある。

来年の賃上げが今年の半分程度になるなら、植田日銀総裁は金融政策の変更にかなり慎重になるのではないか。

外需の落ち込みが企業業績の悪化、そして賃上げ鈍化につながる負のスパイラルに陥るのかどうか、これから約半年間の動向が大きな分かれ道になりそうだ。

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