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コラム:2%物価目標、本当に望むなら一段の政府対応が不可欠=門間一夫氏

[東京 2日 ロイター] - 米国と欧州の間で経済情勢の違いが目立ってきている。経済協力開発機構(OECD)の3月見通しによれば、米国の今年の経済成長率は6.5%と予測されており、昨年12月見通し(3.2%)に比べて大幅上方修正となった。ユーロ圏の見通しは3.9%成長と昨年12月時点(3.6%)からほとんど変わっておらず、足元の回復はもたついている。こうした米欧の差は、コロナ感染やワクチン接種状況の違いに加えて、米国の巨額財政支出による面が大きい。

 米国と欧州の間で経済情勢の違いが目立ってきている。OECDの3月見通しによれば、米国の今年の経済成長率は6.5%と予測されており、昨年12月見通しに比べて大幅上方修正となった。ユーロ圏の見通しは3.9%成長と昨年12月時点からほとんど変わっておらず、足元の回復はもたついている。門間一夫氏の分析。写真はワルシャワで2011年1月撮影(2021年 ロイター/Kacper Pempel)

欧州連合(EU)では昨年7月、7500億ユーロにのぼる「復興基金」の設立が合意された。財源をEU共通債で調達する点が、市場でも大いに好感された。ただ、この基金は2021─26年と中期的に活用されていくものであり、当面は批准手続きが遅れるリスクにも注意が必要だ。感染再拡大で短期的には景気下振れリスクが強まる中、欧州の財政政策は米国に比べて規模も機動力も力不足との感は否めない。

このため金融政策の方向性も、米欧で異なってきている。米国では、米連邦準備理事会(FRB)による資産買い入れの減速(テーパリング)が、年内にも議論になり始めるとの見方が少なくない。市場は先行きの利上げもやや前倒しになると予想し始めており、長期金利も上昇してきている。これに対し欧州中央銀行(ECB)は、米国金利上昇の影響を遮断する意味合いもあって、3月の政策理事会で資産買い入れペースの加速を決めた。

<財政政策は金融政策の「波及経路」と説明するECB>

欧州における財政政策のあり方は、当面の景気をどう支えるかだけでなく、コロナ後の中長期的な経済成長にもかかわる課題である。

EUの財政を巡る現行の枠組みは「安定成長協定」で定められており、加盟国は原則として、財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以内にするとともに、政府債務残高をGDP比60%以内に低下させることが求められている。コロナ禍で一般免責条項が発動され、上記ルールはいったん凍結されているが、現在の経済見通しを前提とすれば2023年には復活することになる。

ただ、この財政ルールについてはコロナ前から、より成長重視へと見直す議論が始められていた。さらにその後のコロナ対応により、政府債務残高のGDP比60%以内への低下を目指すことは、多くの国で強い負荷のかかるルールとなってしまった。2023年以降に適用されるルールは、以前とは異なる内容になる可能性が高い。

財政ルールの見直しには、物価目標を達成できずにいるECBも強い関心を寄せる。ECB自身、昨年から始めた包括的な政策点検(戦略レビュー)の中で、財政政策と金融政策の関連性についても議論している。

これに関連してECBのシュナーベル理事は「ゼロ金利制約の下での非伝統的な財政・金融政策」と題する講演を2月に行った。興味深いのは、財政政策を金融政策の「波及経路」と位置づけている点である。ECBの国債買い入れで実現されている低金利を、民間だけでなく政府もしっかり活用してほしいというわけだ。

「金利がゼロまで低下したら、後は財政政策の出番」というのは常識にかなっており、ケインズ経済学が全盛だった時代には「流動性のわな」として学問的にも認知されていた。「期待に働きかければゼロ金利でも金融政策は有効」と主張する近年の主流派経済学の方が、よほど常識から外れているように思う。

その意味では、グローバル金融危機やコロナ禍を奇貨として、財政政策の重要性が再び注目されるようになったことは正しい方向性である。さらに「ポリシーミックス」という従来の発想を超えて、財政政策は金融政策の波及経路という捉え方をすると、マクロ経済政策を巡るより本質的な論点が浮かび上がってくる。

<物価目標も財政政策の仕事か>

財政政策が金融政策の波及経路だとすれば、金融政策が2%インフレを目指して行われている以上、波及経路上にある財政政策はその実現を邪魔してはならないし、むしろ2%物価目標に協力することが望ましい、という理屈になる。

ユーロ圏では基調的なインフレ率が1%前後で定着しており、目標の2%近辺へと上方シフトする兆しはない。通常、これは金融政策が力不足だからだという説明になる。しかし、財政政策が金融政策の波及経路なら、ユーロ圏が低インフレから抜け出せないのは、金融政策自体が力不足だからではなく、金融緩和が伝わる過程で政府がその効果を弱めてしまっているからだ、という話になる。せっかくの超低金利なのに、もっと国債を発行して資金を使わない政府が悪い、というわけである。

ユーロ圏の財政ルールは1990年代後半にできたものである。ドイツの10年金利が5─6%はあった時代であり、当時はそういう金利観が財政を巡る議論の前提であった。

しかし、近年は慢性的な低金利である。今後も、たとえ金利を少し上げられる局面が訪れたとしても、わずかなショックですぐにゼロ金利やマイナス金利に戻ってしまう可能性が高い。そうした低金利環境を前提とすれば、財政がもっと積極的な役割を果たしうるよう、ルールを改めるべきではないか、とECBは考えているのである。

欧州の財政ルールを巡る議論は、米国の動向からも影響を受けるだろう。米国では、過度なインフレを懸念する声が上がるほどの財政支出が発動され、インフラ投資などの追加策も検討されている。

ただし、本当にインフレ圧力が高まり過ぎるような場合には、FRBが利上げによってそれを2%前後に抑えることは十分可能である。物価目標が達成され金融政策も正常化されるのだから、FRBにとってむしろ理想的なシナリオである。

FRBは2%物価目標を9年前に正式導入して以来、日本ほど完敗ではないにせよ、きちんとは達成できずに苦しんできた。それが大規模な財政政策が打たれたとたんに楽々達成できたということになれば、欧州の低インフレはやはり財政政策に原因がある、という議論に説得性が加わるだろう。

<2%物価目標の妥当性も問うべき>

日本はどうだろうか。日銀の金融政策はECB以上に緩和的と言ってもよい。マイナス金利の幅こそ欧州の方が深いが、長期金利のコントロールや株式の上場投資信託(ETF)の買い入れなど、他の中央銀行がやらない「禁じ手」まで日銀は使っている。それでも日本のインフレ率はユーロ圏よりさらに低く、2%物価目標にはかすりもしない。

財政政策が金融政策の波及経路であるなら、日本の物価が上がらない原因も、日銀の落ち度ではなく、財政の出し方が少な過ぎるからだということになる。2013年に政府と日銀が共同声明で2%物価目標を掲げた際、それを日銀の責任としたところに間違いがあったのであって、政府の責任、少なくとも共同責任にすべきだったということになる。

日銀は先月、「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」を行い、ETF買い入れの事実上の抑制などを決めた。日銀が、さすがに従来のペースではETFを買い続けられないと考えたのは、異次元緩和をこの先に何年、何十年続けなければならないのか見当さえつかないからである。

2%インフレが日本経済に真に必要だと言うのであれば、それを金融政策だけに任せ続ける政府は無責任である。金融緩和自体は異次元なのだから、その効果が2%インフレにまで波及するよう、財政支出などあらゆる経済政策を動員すべきである。

逆に2%インフレがそこまで必要でないと言うのなら、その程度のことのために、超低金利の長期化で金融機関や家計に事実上の「恒久税」を課すのもおかしい。いずれが正解であれ、そこをまじめに議論することが本当は重要なのである。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラム向けに執筆されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*門間一夫氏は、みずほ総合研究所のエグゼクティブエコノミスト。1981年に東京大学経済学部を卒業後、日本銀行に入行。86年に米ウォートンビジネススクール留学。調査統計局長、企画局長を経て、12年に日銀理事(13年3月まで金融政策担当、以降、国際担当)を歴任。16年に日銀を退職し現職。

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編集:田巻一彦

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