October 31, 2018 / 10:15 AM / 16 days ago

コラム:「カナリア指標」が告げる米景気後退のタイミング=鈴木健吾氏

[東京 31日 ロイター] - 10月には米長期金利が約7年ぶりの水準まで上昇し、その後これを嫌気して米国株が急落。リスクオフムードがまん延する中、ドル円相場も月初の114円台から一時111円台前半まで下落した。

 10月31日、米国経済のカナリアは鳴いているのだろうか──。さまざまな「カナリア指標」から米景気後退局面入りを警戒するのは時期尚早だと、みずほ証券チーフFXストラテジストの鈴木健吾氏は指摘する。NY証券取引所で2016年9月撮影(2018年 ロイター/Brendan McDermid)

米国の景気拡大も10月で112カ月を数え、利上げ効果もあって、住宅関連指標が弱含む中、市場では今回の株価急落と米国経済の後退局面入りを結び付けて警戒感が強まったようだ。しかし結論から言うと、米景気後退を警戒するのは時期尚早だ。少なくとも来年半ばにかけては、素直に米国経済の強さを評価してもよいのではないかと考えている。

何らかの危険が迫っていることを知らせてくれる前兆を「炭鉱のカナリア」と呼ぶ。これは有毒ガスを人間よりもカナリアが先に察知して知らせてくれることに由来する。ガスを察知したカナリアは大騒ぎするわけではない。いつもさえずっているカナリアが黙り込むことで人間は危機が近づいているのを知る、ということのようだ。

<米景気後退入りは3─4年先>

米国経済のカナリアは鳴いているのだろうか。そのサインとして広く知られているのが長短金利の逆転だろう。筆者がメドとして使用している米10年債利回りと政策金利であるフェデラルファンド(FF)レートは現状、それぞれ約3.1%と2.25%(上限)にある。米連邦準備理事会(FRB)が今後ドットチャートで示している通りに今後利上げを継続した場合、2019年終盤にかけてFFレートは3.25%へ上昇し、2020年前半には3.50%に達するとみられ、この頃に10年債利回りとの逆転現象が起きるのではないかと予想している。

ちなみに長短金利の逆転が起きてから実際に景気が後退局面入りするまでのタイムラグは、過去の例ではおよそ1年半程度かかっている。上記の例に当てはめると、米経済の後退は2021年半ば以降、つまり3年先ということになる。

同じく金利に絡むカナリア指標としては、実質短期金利と潜在成長率の逆転やインフレ率および失業率に対して機械的に連動させる「テイラールール」の適正金利とFFレートの逆転などが挙げられる。

期待インフレ率が2%程度で変わらないとすると、足元で0.25%程度(FFレート2.25%─2.00%)の実質短期金利は、FRBの利上げによって2019年に1.25%、2020年に1.50%に達するが、それでも2%程度とされる潜在成長率には届かない。これ以降に逆転があったとしても、タイムラグも合わせると景気後退入りは3、4年先の話となりそうだ。

政策金利の適正水準を示すとされるテイラールールと実際の政策金利の逆転も、過去の景気後退局面の前に出現している。過去の経験則から言えば、FFレートがテイラールールの適正金利を1.5%程度上回ると景気が後退に向かう傾向がある。

足元のテイラールールによる適正金利は5.25%となり、これを1.5%上回るFFレート(6.75%)は現実的ではない。テイラールールで使用する均衡実質金利を2%から1%に、自然失業率を5%から4%に引き下げて計算すると、適正金利も3.25%まで引き下げられるが、これをFFレートが1.5%上回るには4.75%まで利上げする必要がある。実際には難しい話だ。実現したとしても3、4年後になりそうだ。

<中間選挙以降、ドル115円目指す展開に>

その他のカナリア指標を見てみよう。

失業率が底をつけ、その後0.5%程度上昇すると1年弱のタイムラグを経て景気後退となるパターンが見られるが、9月の米失業率は49年ぶりの低水準となったばかりで上昇の兆しは今のところ見られない。

景気先行指数が前年同月比でマイナスとなると、やはり1年弱のタイムラグの後、景気後退局面を迎える傾向があるが、これも足元では上昇基調を継続している。これまでの動きを見る限り、来年中のマイナス入りもないとみている。

労働分配率も、60%台前半で底を打った後、60%台後半まで上昇すると、その後に景気後退局面が訪れている。足元の労働分配率は62%程度。同指数は動いても年数%程度であり、来年中に60%台後半に乗せるのは難しいだろう。

企業利益率(=企業利益/国民所得)がピークから3%程度低下した場合も、その後多少遅れて後退局面を迎える。今回の景気拡大局面では、企業利益率は2012年に14%台でピークを迎えているが、今でも13%近い水準を維持している。現在行われている7─9月期の決算発表は全般的に良好な数字で、これが12%を割り込むのは当面先と考えている。

このようなカナリア指標は他にもあり、実際にはこれらを組み合わせて景気動向をウオッチしているわけだが、これまで述べた通り米国経済の後退は、そのサインが出てくるのが早くても来年後半、実際の後退は3年後以降になりそうだ。

米国経済のカナリアは鳴き続けている。少なくとも年内から来年前半にかけては、米国のファンダメンタルズは為替市場でドル支援材料になりやすいと予想している。年内についても、11月6日の米中間選挙という政治リスクを乗り越えれば、年末にかけて改めてFRBの利上げやファンダメンタルズが見直され、ドル円は1ドル=115円を目指す展開は十分にあり得ると考えている。

鈴木健吾氏(写真は筆者提供)

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below