January 23, 2019 / 8:03 AM / 9 months ago

コラム:2大リスクに身構えるドル円相場、決裂なら104円も=鈴木健吾氏

[東京 23日 ロイター] - 年末年始の金融市場はリスクオフが加速し、異様な雰囲気となった。中でも、米アップルの売り上げ見通し下方修正を受け、日本が休場の1月3日朝方、ドル円は108円台から約1分強で104円台前半に急落し、その30分後には107円台に戻すという、いわゆる「フラッシュ・クラッシュ」を演じた。

 1月23日、米中貿易摩擦と英国のEU離脱交渉が決裂した場合、今年は非常に暗い年となり、ドル円はリスク回避の円買いで104円を目指す可能性が高まるとの専門家の見方も。写真は離脱に反対する人。ロンドンで17日撮影(2019年 ロイター/Clodagh Kilcoyne)

米連邦準備理事会(FRB)による2019年の利下げ実施を織り込む動きが加速していたこともあり、今年は米国のリセッション入りとともに、さらにリスクオフが加速するとの悲観的な見方が市場に広がった。

一方、筆者は「さすがにやりすぎ」との立場だった。その理由として、1)米企業業績の伸びは2018年よりは鈍化するものの、それでも予想EPS(1株当たり利益)はプラス成長が予想されていること、2)PMI(購買担当者景気指数)など先行指標には悪化がみられるものの、遅行指標は近い将来のリセッション入りを示唆していないこと、3)ドル円の急落は日本の休場といった特殊な季節的要因が大きいとみられること──などが挙げられる。

市場に参加者が戻るとともに、ドル円は年初の急落分を埋め戻し、S&P500指数も12月半ばの水準へ上昇、米政策金利先物も2019年に1回利上げの確率が1回利下げの確率を上回る状況に戻ったことなどから、やはり年末年始の動揺は行きすぎだったとみてもよいのではないか。

だが、状況は決して楽観視できない。特に1─3月期にはその後の世界経済の方向性を決定付けるインパクトの大きい政治的リスクがいくつか控えているからだ。その代表格が米中貿易摩擦と英国のEU(欧州連合)離脱(ブレグジット)だろう。

<中国が一定の譲歩か>

米中は昨年12月1日の首脳会談で、2019年から25%としていた米国の対中関税引き上げを3月1日まで猶予し、緊張緩和に向けた話し合いを行うことで合意した。1月初めに北京で行われた次官級協議に、対米通商交渉責任者である劉鶴副首相の出席が伝えられるなど、問題解決に向けた中国側の積極的な姿勢がみられ、トランプ米大統領も「中国との交渉は非常にうまくいっている」とツイートした。

その後も、ムニューシン米財務長官が対中関税の一部または全部の撤回を提案したと報じられたり(財務省は否定)、現実的にはかなり困難だろうが、中国が今後6年間かけて対米貿易黒字をゼロにする計画を提案したと伝えられたりするなど、緊張緩和に向けた努力は継続しているもようだ。しかし、21日にトランプ大統領が「中国は遊ぶのをやめ、本当の取引をすべきだ」とツイートした通り、交渉は難航しているとみられる。

1月30日―31日には劉鶴副首相が渡米し、ライトハイザー米通商代表部代表(USTR)やムニューシン財務長官などと閣僚級の貿易協議を行う予定。期限とされる3月1日まで40日を切る中、緊張感が高まっている。

米中間には知的所有権や安全保障を巡る摩擦もあり、貿易問題で決裂して関税合戦が再開されれば、不安定さを増す両国の株価や、陰りがみえる経済に大きなダメージとなり、世界経済に急ブレーキをかける恐れがある。それだけに、中国が一定の譲歩を提示し、トランプ政権がこれを受け入れる可能性が高いのではないだろうか。筆者は、3月までに一定の合意に至ると予想している。

<ブレグジット混迷でも市場は冷静>

ブレグジット問題は、英下院が15日、反対432票、賛成202票の歴史的大差でEU離脱協定案を否決した。これを受けてメイ首相は21日、最大の争点である北アイルランドとの国境問題に関する部分を修正するなどの代替方針を議会に提示した。

しかし、一度合意したEUが変更を認めるとは思えない。また、原案をほぼ踏襲しているこの代替方針で英議会を説得するのは力不足だろう。29日とされる採決でも否決される可能性が高い。そうなれば、離脱期限の3月29日に何の合意もない無秩序な離脱に突き進み、欧州経済が混乱に陥る可能性が高まる。

にもかかわらず、市場は冷静だ。下院が離脱協定案を否決した週のポンドは、主要先進国の通貨に対して上昇した。

これは、英国が無秩序な離脱を回避するために3月29日の期限を先送りし、あわよくばその間に2回目の国民投票を行って、EU残留を選択する可能性を市場が期待しているものとみられる。

実際、下院議員の大半は無秩序な離脱を望んでいないとされ、超党派の議員が(2月26日までに英国が離脱協定を批准できない場合には)離脱期限を先送りするための法案を提出するとの報道もある。

イングランド銀行(英中央銀行)は、無秩序な離脱となった場合、英国経済は金融危機時の6.25%を超える年率8%のマイナス成長に陥り、商業不動産価格は48%程度下落すると試算。直近2%台前半の物価上昇率は6.5%に跳ね上がるなど、大混乱に陥ると予想している。

筆者は離脱期限が2019年末ごろまで先送りされ、その間に国民投票が再び実施される可能性が高いのではないかとみている。期限の先送りが決まるだけでも、リスクオンの材料となりそうだ。

3月にかけて米中協議が決裂し、英国が無秩序離脱を選択すれば、それ以降は非常に暗い年となり、ドル円はリスク回避の円買いで104円を目指す可能性が高まるだろう。しかし、米中の合意とブレグジットの期限延期を予想する筆者は、どちらかと言えば楽観的だ。4月以降、夏場にかけてドル円も115円方向を試す展開を想定している。

それまでは現状の109円台を中心に、107円─112円程度のレンジでもみ合いつつ、2大リスクの行方を見極める動きとなるのではないだろうか。

鈴木健吾氏(写真は筆者提供)

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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編集:伊藤典子

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