November 29, 2018 / 9:47 AM / 17 days ago

コラム:市場に行き過ぎた悲観論、ドルは来年118円も=鈴木健吾氏

[東京 29日 ロイター] - 米国株を中心とした株式市場の不安定な動きや、米中対立への警戒感などから、世界経済、とりわけ米国経済に対する悲観的な見方が強まっている。戦後2番目の長さとなった米国の景気拡大局面もいよいよ終焉(しゅうえん)を迎え、来る2019年の景気減速局面入りに備えなければならないといった論調だ。

 11月29日、米国株を中心とした株式市場の不安定な動きや、米中対立への警戒感などから、世界経済、とりわけ米国経済に対する市場の悲観論は行き過ぎであり、いくつかのドル円押し上げ要因から、来年半ばにかけてドルは118円程度まで上昇する局面があると、みずほ証券の鈴木健吾氏は予想する。写真は米ドルと日本円の紙幣。都内で2011年8月撮影(2018年 ロイター/Yuriko Nakao)

パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の発言も変化した。10月3日には政策金利が中立金利に到達するまでは「遠い(long way)」としていたが、11月28日には「わずかに下回る(just below)」と述べ、あと数回程度でいったんは利上げが打ち止めになる可能性を示唆した。

この発言直後、米金利が低下、為替市場ではドルが売られ、米株は上昇した。時間がたつにつれ、株の上昇に押されて金利も徐々に上昇に転じ、米10年債利回りは3%割れせずに前日比で若干上昇して引けた。利上げ打ち止めが示されても、米金利の低下余地が限定的だったことは印象的だ。米株が上昇し米金利もさほど低下しなければ、ドル円の下落反応も限られるだろう。

<行き過ぎた悲観論>

実際、足元の米国経済はそれほど警戒が必要なのだろうか。米指標をみると、確かに住宅関連指標の悪化やレバレッジドローンを通じた企業債務の増加傾向など警戒が必要なものもある。

しかし、企業債務よりもずっと大きな家計や金融機関の債務は低下傾向が続いている。また、前回のコラムにも書いた通り、潜在成長率と実質短期金利の逆転などといった将来の不景気到来を告げる信号はまだほとんど点灯していない。物価の上昇も緩やかで、労働市場の改善や堅調な企業利益のもとで個人消費や設備投資が底堅く推移し、それがさらなる所得や生産増加をもたらす米国経済の好循環は維持されている。これを減税や歳出拡大といった財政政策が下支えする構図も変わっていない。今後は、FRBの利上げ期待後退もこの下支え要因に加わることとなる。基本、悲観論は行き過ぎとの筆者の見方に変化はない。

最近の米国経済に対する悲観論を耳にすると、真逆だった昨年末の状況が思い起こされる。トランプ政権が難しいとみられた減税法案の成立に成功し、米株は史上最高値を更新。楽観的な雰囲気が支配的な中で年越しを迎えたが、2018年に入ると序盤からトランプ政権の通商政策などリスクが台頭。2月にかけてドルは一方的に下落し、米株も急落する展開となった。

相場の格言に、「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」という言葉がある。皆が来年の景気減速を警戒し、さあ準備をしなければという雰囲気の中で、その通りに減速局面がやってくるだろうか。10年近いディーラー経験ですっかり天邪鬼(あまのじゃく)が染みついた筆者には、「これだけ見方が悲観に片寄れば、来年は案外いい年になるかもしれない」とすら思えてくる。

<ドル円の押し上げ要因>

また、市場では前述の米景気減速懸念のみならず、イタリアの財政問題や英国の欧州連合(EU)離脱問題、米中の対立、原油価格の下落など、さまざまなリスクが意識される状況にあるが、為替市場でリスク回避の円高は限定的にとどまり、足元のドル円は年初来高値である10月4日の114.55円からわずか1.5%程度下の高値圏を推移している。

この背景には、1)いくつかのリスクが緩和に転じたこと、2)ドルと円が同方向に動く傾向が強まったこと、3)投資資金などのマネーフロー、4)金融政策の方向性などがあるとみている。

緩和したいくつかのリスクとは、米国が通商問題に関し、カナダなどの友好国を中心に対話姿勢に転じたことや、米中間選挙を通過したこと、夏場に強まった新興国に対する懸念の後退などが挙げられる。目先も米中首脳会談や12月6日の石油輸出国機構(OPEC)総会などを経て、米中摩擦や原油価格の下落といったリスクが緩和すればドル円のさらなる押し上げ要因となるだろう。

ドルと円の方向性については、米国経済の独り勝ち状態が続いたことで、円と同様にドルも安全通貨としての性格が強まっていることがポイントだ。この場合、リスクオフでは円が買われるがドルも買われる傾向が強まったことで、ドル円の円高圧力が限定的になっている。

マネーフローとは、日本の対外直接投資や対外証券投資、貿易黒字の減少などだ。対外直接投資は96年以降で最高を記録した昨年の同時期にはやや劣るものの、それでも高水準を維持している。対外証券投資も9月までの合計で過去3位だった一昨年の年間合計額に迫る勢いだ。また、(10月以降急落しているが)原油価格の上昇により貿易黒字額が大きく減少していることも重要だ。今年9月までの黒字額は合計で1.9兆円ほどだが、昨年同時期の3.8兆円の半分にすぎない。このようなフローがドル円を高値圏に押しとどめている可能性がある。

日米金融政策の方向性の違いも引き続きドル円の押し上げ要因だ。米国の利上げがあと数回程度で打ち止めになる可能性については前述の通りだが、これまでFRBが積み上げた利上げによって、日米10年国債利回り格差は今月、2007年以来約11年ぶりの3.10%台まで拡大した。

この水準はキャリートレードによる円売りが進んだ2006年ごろの水準にも非常に近い。キャリートレードには金利差と低ボラティリティーが必要だが、これまでは金利差が十分に拡大していなかった。あと数回程度でFRBの利上げが終わったとしても、十分に拡大した金利差がキャリートレードを通じてその後もドル高円安をもたらす可能性がある。

もう1つ、金融政策の方向性の違いには量的緩和の方向性もある。日銀は量的緩和を継続中だが、FRBは月額500億ドルペースで米国債等への再投資を縮小し、バランスシートの圧縮を進めている。これまでも資産の縮小・拡大格差はドル円を下支えしてきたが、今後も来年夏ごろまでにFRBの資産が4500億ドル程度減少し、日銀の資産が20兆円程度増えることで、2円程度のドル高円安効果があると試算している。

今後もいくつかのリスクが先鋭化したり、FRBの利上げ停止が現実化したりする場面においてはドル円が下押す場面はあるだろう。しかし、上記の通り、少なくとも来年半ばにかけての米国経済に対して基本的には強気の見通しを維持していることや、ドルも安全通貨化することでドル円のリスク耐性が強まっていること、さらにフローや金融政策の方向性などから、来年半ばにかけてドル円は118円程度まで上昇する局面があるのではないかと予想している。

鈴木健吾氏(写真は筆者提供)

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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(編集:伊藤典子)

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