October 21, 2015 / 8:08 AM / 4 years ago

コラム:「ドル125円」のカギ握る日米金融政策=鈴木健吾氏

[東京 21日] - 夏場以降、中国経済への懸念や米国の早期利上げ観測などが新興国経済を中心に不安の連鎖を招き、国際金融市場の動揺へとつながった。こうしたなか、為替市場はリスク許容度を注視する状況となり、世界の株式市場に振り回される局面が多くみられた。

つまり、株式市場が下落するなどリスク許容度が縮小すると新興国通貨売り・先進国通貨買いとなり、逆にリスク許容度が拡大すれば新興国通貨が買われ、先進国通貨が売られるといった場面が増えた。言うなれば、「新興国通貨vs先進国通貨」の構図だ。結果、同じ先進国に分類されるドルと円は方向感を失い、8月末から10月初旬にかけて1ドル=120円近辺でもみ合う動きが続いた。

しかし、10月に入り発表された米国の雇用統計や小売売上高がさえない結果となり、米連邦準備理事会(FRB)の年内利上げ観測が急速に後退すると、これを受けて株式市場や新興国通貨は反発し、ドル安・円高の動きも観測されている。米利上げ観測の後退をきっかけに為替市場のドライバーが「リスク許容度」から「ファンダメンタルズや金融政策」に回帰しつつあるようだ。

そのため、来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)や日銀金融政策決定会合に対する注目度があらためて高まっている。

<FRBの利上げは来年3月に先送りか>

まず米金融政策のポイントを整理しよう。来週27―28日のFOMCについては、金融政策の現状維持がほぼ市場のコンセンサスとなっている。中国経済の減速や金融市場の不安定化に対する懸念が払拭(ふっしょく)されたとまでは言い切れない状況にあることに加えて、米国経済や労働市場の動向をまだ見極める必要があると考えられるためだ。

したがって、ドル円など為替相場の行方を左右するポイントは、声明文での景気認識や物価見通し、外部環境への見通しに変化が生じ、それが年内利上げの有無を判断する材料になるかどうかだろう。

では、12月FOMCでの利上げの可能性はどうか。筆者は、米国経済の先行きについては、比較的楽観している。確かに夏場以降の混乱によって成長シナリオの実現に遅れが出ているものの、減速は一時的にとどまり、来年にかけて緩やかな成長が続くとみている。実際、ISM非製造業指数は高水準を維持しているほか、新規失業保険申請件数やロイター/ミシガン大学消費者信頼感指数からは米国の労働市場や消費の底堅さもうかがえる。

ただ、異例の金融緩和からの出口という未踏の領域に踏み込むことになるため、FRBはこれまでもかなり慎重に利上げが可能かどうかの見極めを行ってきた。外部環境や米国経済の不透明は徐々に払拭されていくと考えられるものの、慎重なFRBを納得させるまでには今しばらく時間がかかるだろう。利上げのタイミングについては、これまでメインシナリオとしてきた今年12月よりも来年3月になる可能性が高い状況になったと判断している。

<日銀とFRBがゼロ回答ならドル116円へ一時下落も>

次に日銀金融政策のポイントについて考えてみよう。次回30日の会合では、今後の金融政策運営方針を示す展望レポートが発表される。今回の展望レポートでは経済・物価見通しが下方修正されるとみられるため、金融市場ではこうした動きと合わせて追加緩和が決定されるとの見方が根強い。

黒田日銀総裁は今月7日の記者会見で、「所得から支出への前向きな循環メカニズムはしっかりと作用し続けている」「物価の基調は着実に高まってきている」という従来同様の景気に対する比較的強気な発言を繰り返していた。

ただ、昨年10月31日に追加緩和が決定された際も、その3日前に黒田総裁は参議院財政金融委員会で「2015年度を中心とする時期に2%の物価安定目標が達成される可能性が高いという政策委員会のこれまでの見方は変わっていない」と述べるなど、強気の見通しを崩していなかった。今月7日の発言を額面通りには受け取れないだろう。

追加緩和の要否に関わる主要サーベイや指標などの結果は強弱まちまちだ。日銀短観(9月調査)は、全体的に底堅さを示した業況判断DIに加えて、高水準の企業収益、人手不足感の強まり、堅調な設備投資計画など、所得から支出への前向きな循環メカニズムが働いているという日銀の主張を支持する内容となっている。

また、日銀が物価の基調を判断するにあたって、独自に算出している消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)は上昇率が高まっており、物価の基調は着実に改善しているという判断につながっている。これらの点からすれば、追加緩和の必要性は低いと判断される。

ただし、鉱工業生産は2四半期連続で減産となる可能性が高いほか、新興国経済の減速懸念がくすぶるなかで、先行きの業況判断は総じて低下しており、企業が警戒感を有している可能性がうかがえる。

さらに、生鮮食品を除く消費者物価指数は前年同月比でマイナスに転じているほか、販売価格判断DIや企業の物価見通し、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI、国債利回りから物価連動国債の利回りを差し引いたもの)などは総じて低下しており、期待インフレ率が上向いているとは言えない。

このまま企業マインドや期待インフレ率が慎重化すれば、設備投資のほか、企業の価格設定行動や物価上昇に欠かせない賃上げの動きにも影響が及ぶ可能性も否定はできない。結果、企業や家計のデフレマインド転換が遅れるリスクは高まることになる。

黒田総裁はすでに原油価格下落による物価安定目標の達成時期の後ずれを容認する発言を行っているものの、仮に大方の予想通り経済・物価見通しを下方修正しても追加緩和などの行動が伴わない場合、物価安定目標の達成に対する本気度に疑問符がつく可能性がある。

以上のように、次回会合では現状維持、追加緩和どちらの可能性もあり得るが、日銀が見通しとして掲げる2016年度前半ごろまでに消費者物価上昇率2%の達成は難しいとみられること、企業の先行きに対する警戒感やインフレ期待低下への対応、政府や市場への配慮などから、10月か11月にも追加緩和に踏み切る可能性は高いとみている。

むろん、10月末に日銀とFRBがともにゼロ回答となれば一時的にドル安円高圧力が強まり、ドル円は8月の安値116円近辺へ下落する可能性もある。しかし、その後の展開としては、日銀が比較的早い段階で追加緩和に踏み切れば120円近辺を回復し、年末から年初に向けて再び米国の利上げ期待が高まれば125円方向へじり高となるというのが筆者のメインシナリオだ。

米経済指標や中国の指標などの思わぬ好転により、FRBが12月利上げに踏み切れば、年内に125円を上抜く可能性も残されているのではないか。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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