January 15, 2018 / 7:46 AM / a month ago

コラム:日銀政策、コアインフレ1%台で修正あるか=村嶋帰一氏

[東京 15日] - 最近の原油相場の上昇を映し、日本の消費者物価指数(CPI)は生鮮食品を除くコアCPIでみて今年3月に前年比1.1%に伸びを高め、10月までは1%台で推移すると試算される。

年明け後、日銀による国債買い入れオペの減額を受け、海外投資家の間で、日銀の政策変更に対する思惑が強まったが、インフレ率が高まる中、こうした傾向は今春にかけて続くか、あるいは、さらに強まる可能性があろう。

米連邦準備理事会(FRB)の利上げ以上に、日銀、そして欧州中銀(ECB)の政策変更が金融市場の焦点となっている感が強く、米利上げに連動したドル高の可能性は当面、遠のいているように見受けられる。

<原油相場上昇でインフレ見通しが変化>

原油相場の一段の上昇や円高ドル安の進行を受け、今後のコアCPIの推移について、機械的な試算を行ってみた。試算の前提は、1)原油価格は1月10日時点のWTI原油先物価格のパスに沿って推移する、2)ドル円相場は1ドル111.5円で横ばい、とした。

これらに基づくと、コアCPI・前年比(直近11月は0.9%)は、今年2月に1.0%、3月には1.1%まで伸びを高め、10月まで1%台を維持すると試算される。従来、コアCPIが半年以上の期間にわたって前年比1%台を維持する可能性は低いと予想していたが、原油相場の一段の上昇に伴い、見通しがかなり変化した。一昨年来、コアCPIの前年比1%台での推移が、日銀による政策修正の必要条件になるとの見方があったが、この条件はひとまず満たされそうである。

ちなみに、2月の全国CPIは3月23日、3月分は4月20日に発表される(3月分の公表スケジュールはまだ正式に発表されていない)。コアCPIが前年比1.1%に達することは金融市場にはまだ完全には織り込まれていないとみられ、実際にこの通りの結果が出てきた場合には、新日銀総裁の下での初会合となる4月26―27日開催の金融政策決定会合を前に、金融政策変更への思惑が一段と強まることも想定される。

新年の外国為替市場では、日銀の国債買い入れオペ減額により、海外投資家の間で、政策変更への思惑が強まり、円高ドル安が進行したが、彼らの思惑が正しいにせよ、そうでないにせよ、こうした市場の構図が当面、続く可能性が否定できなくなっている。

<それでも政策変更は難しいか>

ただ、当社は、コアCPIの前年比1%台での推移が、日銀の政策変更に直結する可能性は低いとみている。コアCPIは前年比1%台で推移するとみられるとはいえ、原油相場の上昇に伴うエネルギー(電気、ガス、ガソリン)の寄与度拡大に負うところが大きい。エネルギー及びその他特殊要因(保険医療サービスなど)を除いた「特殊要因調整後コアCPI」(概念的には「生鮮食品・エネルギーを除くCPI」に近い)の前年比は、今年後半も0.5―0.6%のレンジにとどまると予想している(直近11月は0.3%)。

年明け後の市場動向が示唆する通り、日銀の政策変更自体が円高ドル安をもたらし、インフレに下押し圧力を及ぼす可能性があることを踏まえれば、より大きなインフレの「のりしろ」がないと、物価情勢の改善を理由にした政策変更は難しいように思われる。ちなみに、1ドル5円の円高ドル安は、「生鮮食品・エネルギーを除くCPI」を0.2%程度押し下げると試算される。

「食料・エネルギーを除くCPI」の中身をみると、2016年秋の米大統領選後の円安ドル高が手伝い、財インフレは改善傾向をみせている一方、サービスインフレには持続的な高まりの兆候がみられない。「食料・エネルギーを除くCPI」の3分の1が財、3分の2がサービスであることを踏まえれば、エネルギーなどを除いた基調的なインフレ率が持続的な形で高まり、例えば節目の1%程度で安定するためには、サービスインフレの高まりが必須条件となろう。

サービスインフレの先行きを占う上では、個人消費の足取りと並んで、賃上げ率が重要な要因となる。企業収益の回復などを背景に、今年の春闘では平均賃上げ率(定期昇給を除く)が2017年春の0.5%弱から0.7―0.8%に高まると予想される。ただ、この程度の賃上げ率の改善では、サービスインフレ、あるいはインフレ全般を強く押し上げるには力不足だろう。

この間、日銀が強調してきたように、消費関連業種では、人手不足の強まりや人件費の高まりを受けて、省力化投資やビジネスプロセスの見直し(収益性の高い事業に集中することで、労働投入量を減らすなどの対応)に取り組む企業が増加している。こうした企業努力が続き、あるいは強まっていけば、労働生産性の伸びが改善することで、賃上げが財・サービス価格に波及するのを遅らせることが考えられる。加えて、株価上昇の直接的な恩恵を受けやすい高級消費を除けば、個人消費の足取りが緩やかにとどまっていることも、インフレの抑制要因になるとみられる。

以上の諸点から、当社は、上で述べたコアCPIの見通しの下でも、日銀が政策修正に踏み切るハードルは高いと判断している。

<新たな総括的検証の可能性>

日銀が今年、金融政策の修正に踏み切るシナリオの1つとして、金融政策の「総括的検証」を新総裁の下で再度、実施し、現行政策の便益とコストのバランスに関して新たな評価を提示することが考えられる。こうした評価の変更は、インフレ実績やインフレ見通しなどの経済ファンダメンタルズとは独立的に行われる可能性がある。これはいわば「君子豹変型シナリオ」とでも呼ぶべきものである。

具体的には、日銀が、現行政策の中長期的な「金融の安定」に対するリスクを強調し、それに対処するために、政策フレームワークを変更することが想定される。このシナリオの下では、4月上旬に就任する新総裁が、同月26―27日の金融政策決定会合でスタッフに対して、中長期的な「金融の安定」に対する影響の分析を含む「総括的検証」を準備するよう指示し、6月14―15日もしくは7月30―31日の会合でその結果が明らかになるといった展開が想定される。

このシナリオの場合、10年国債利回りターゲットの小幅引き上げといったファインチューニングにとどまらず、より抜本的な政策フレームワークの変更(マイナス金利の撤廃や国債利回りターゲットの10年から5年へ変更など)が実施される可能性があろう。

ただ、当社は、黒田東彦現総裁が続投することで、少なくとも当面は、金融政策の基本的路線が維持されると予想している 。このため、2018年中に、上記のシナリオが現実になる確率は20%にすぎないとみている。一方、中長期的な確率はそれよりも高いだろう。

*村嶋帰一氏は、シティグループ証券調査本部投資戦略部マネジングディレクターで、同社チーフエコノミスト。1988年東京大学教養学部卒。同年野村総合研究所入社。2002年日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社(現シティグループ証券)入社。2004年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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