April 12, 2018 / 8:17 AM / 4 months ago

コラム:視界不良の日米首脳会談、最悪のシナリオは何か=村嶋帰一氏

村嶋帰一 シティグループ証券 チーフエコノミスト

 4月12日、シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏は、来週の日米首脳会談では、トランプ大統領(写真右)が安倍首相(同左)に対し、円相場に言及するかどうかも重大な焦点になると指摘。米ニューヨークで2017年9月撮影(2018年 ロイター/Kevin Lamarque)

[東京 12日] - 17―18日に行われる日米首脳会談では、1)北朝鮮問題への対応、2)日米の通商関係、の2つが主要テーマとなる見通しである。特に、後者に関してどのような議論が行われるかは、後述する理由から不透明感が極めて強く、何が飛び出すか分からない情勢だ。金融市場が想定外に大きく反応する可能性は否定できない。

すでにホワイトハウスは、会談で議論される主要2テーマを明らかにしている。2日付の声明では、「トランプ大統領と北朝鮮の金正恩・最高指導者(朝鮮労働党委員長)の会談を前に北朝鮮への最大限の圧力を維持するための国際行動について議論」「日米の公正で互恵的な通商・投資関係を拡大する方策を探る」としている。ややうがった見方をすれば、北朝鮮問題と通商問題に同じ比重を置いているように見受けられる。

今回の会談での通商問題に関する議論については、何が出てくるのか非常に読みにくいように思われる。その第1の理由は、日米関係を担当する米国側の主要ポストの一部が空席にとどまっていることである。

ティラーソン前国務長官は更迭され、ポンペオ中央情報局(CIA)長官が後任に指名されたが、まだ着任していない。さらに、アジア太平洋地域担当の国務次官補の指名もまだ議会で承認されていない。こうした中、日本の外務省や経済産業省は首脳会談の準備に苦慮していると報じられている。

<確信犯的なトランプ氏の対日強硬姿勢>

ただ、より重要なのは、トランプ大統領の通商政策に対する強硬姿勢が、日米会談の行方を見通しにくくしていることだ。

3月下旬に米国は鉄鋼とアルミニウムの輸入に新たな関税を導入したが、日本はその対象から除外されなかった。除外された国・地域は、1)米国と自由貿易協定(FTA)の交渉中か、2)対米で貿易赤字を抱えている国・地域、のように見受けられる。

米国が日本を鉄鋼・アルミの関税対象から除外しなかったのは、熟慮の結果かもしれない。トランプ大統領は日本との二国間FTA交渉を開始し、11月の中間選挙の前に自動車や農産物など「誇示できる」分野で日本政府から譲歩を引き出したい意向とみられる。3月下旬のトランプ大統領の発言(「安倍晋三首相はいい奴で友人だが、いつも微笑んでいるのは、『こんなに長い間、米国を利用できたなんて信じられない』という意味だ。しかし、もうそうしたことは終わりだ」)も当社の見方を裏付けていよう。

日本政府側は、米国と二国間FTA交渉を開始する可能性を強く否定している。3月に米国を除く11カ国が署名した「包括的および先進的環太平洋連携協定(CPTPP)」のような複数の国による枠組みの方が適切と考えているためだろう。

日本政府がいずれ二国間FTA交渉に同意する可能性はないとは言い切れないが、来週、それに同意する可能性は極めて低いだろう。このため、今回の日米首脳会談の焦点は、安倍政権がどのような譲歩をみせるか、またトランプ政権がそれで満足するかどうかだろう。

しかし、現時点で安倍政権がトランプ大統領に提示できる「お土産」は限られるというのが、日本政府側の大方の見方のようである。一方、日本政府には第1の議題である北朝鮮問題に関し、米朝首脳会談での拉致問題の提示をはじめ米政権側に要求すべきことがたくさんある。

<日本は「お土産探し」に苦慮>

中国は、対米関係の緊張を和らげるため、貿易・ビジネス慣行を修正して歩み寄る余地は大きいとみられるが、日本は1980年代と90年代の対米貿易摩擦への対応として、すでにさまざまな措置を講じている。

例えば、1993年に開始した日米包括経済協議では自動車・同部品が優先分野とされ、日米は、1)外国(米国)車の対日アクセス促進、2)外国製部品の販売機会の拡大、3)日本が行う規制緩和措置(重要保安部品の削減を含む)、などで合意した。さらに、包括協議の枠外で、日系自動車メーカーによる北米製部品の購入と北米での完成車生産の拡大も約束した。その結果、米国の対日自動車・同部品輸出は90年代半ばに増加した。しかし、5年も経たないうちに米国の対日自動車・トラック輸出は包括協議以前の水準に逆戻りした。

今回、米国は妥協を引き出す主要な交渉分野を自動車と農産物に設定したい考えかもしれない。実際、自動車・同部品は、昨年の対日貿易赤字の78%を占めている。2017年の米国の日本車・同部品輸入額が559億ドルだった一方、米国製自動車・同部品の対日輸出額は24億ドルにとどまり、535億ドルの大幅赤字だった(対日貿易赤字全体は688億ドル)。

このことは、今後の日米貿易交渉で自動車業界が再び主役になる可能性を示唆する。しかし、前述の通り、日本政府と国内自動車メーカーは80年代と90年代にすでにさまざまな対応策を講じており、政府がこの分野で新たに取り得る措置は非常に限定的だろう。

一方、農産物の分野でも、牛肉の関税引き下げなどの妥協は非常に困難とみられる。まず、農産物で米国に大きく譲歩すれば、3月に合意したCPTPPの実施が複雑化する可能性がある。さらに、内閣支持率が低下する中で9月に自民党総裁選が迫り、2019年の春には統一地方選、夏には参議院選が実施される。こうした政治日程と安倍政権の支持率低下を踏まえると、現在のタイミングにおける農産物分野での譲歩は政治的には得策でないだろう。

このため、日本政府は他分野での控えめな譲歩で米政権の要求をかわそうとするとみられる。具体的な妥協策を予想するのは非常に難しいが、1)米国からの軍装備品購入の拡大という(暗黙の)約束をする、2)公的金融機関による融資を通じて米国の主要分野(エネルギーなど)への日本企業の投資を支援する、などが考えられる。

しかし、トランプ大統領がこうした「お土産」で満足するかは全くの未知数である。前述の通り、トランプ政権では主要ポストの空席が多く、事前の協議やコンセンサス作りと最終的な合意が正常な条件下に比べてはるかに困難になるかもしれない。

最後に、今回の日米首脳会談では、トランプ大統領が円相場に言及するかどうかも重大な焦点となろう。当社は言及しないと想定しているが、トランプ大統領は就任間もない時期に、マネーサプライを使って米国に付け込んでいるとして、日本を含む複数の国を為替操作国だと非難した。また、韓国は米韓FTAの見直しで、「為替特別条項」の受け入れを余儀なくされた。

今回の日米会談でも、トランプ政権は日銀が超金融緩和を継続し、それが円安圧力になっていることに言及する可能性がある。そうすることで、通商問題で譲歩するよう圧力をかけるかもしれない。これは日本にとっての最悪シナリオと思われる。

村嶋帰一 シティグループ証券 チーフエコノミスト(写真は筆者提供)

*村嶋帰一氏は、シティグループ証券調査本部投資戦略部マネジングディレクターで、同社チーフエコノミスト。1988年東京大学教養学部卒。同年野村総合研究所入社。2002年日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社(現シティグループ証券)入社。2004年より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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