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コラム:米FRBのゲームプランに変更なし=村嶋帰一氏
2017年9月21日 / 05:16 / 1ヶ月後

コラム:米FRBのゲームプランに変更なし=村嶋帰一氏

[東京 21日] - 米国の消費者物価指数(食料・エネルギーを除く「コアCPI」)が3月以降、予想外の下振れを始めたことで、金融市場では低インフレが長期化するとの思惑が急速に強まった。

この結果、12月に利上げを再開し、さらに2018年、累次にわたって利上げを実施するという米連邦準備理事会(FRB)のゲームプランに対する懐疑論が勢いを増した。

ただ、直近3カ月間のコアCPIは底堅さを取り戻しており、今後も、FRBが利上げを実施できる程度の伸びは確保できそうな状況である。この間、金融市場の見方は大きく振れたが、結局のところ、FRBのゲームプランには変更なしということだろう。

<8月コアCPIは2月以来の伸び>

8月の米コアCPIは前月比0.2%上昇し、2月(0.2%)以来の高い伸びとなった(四捨五入前のベースでは0.248%と1月以来の高い伸び)。コアCPIは3月に唐突に前月比マイナスに転じ、4―7月も4カ月連続で0.1%の上昇にとどまったが、8月は久方ぶりに持ち直した。

インフレの基調を見極めるため、イエレンFRB議長がインフレ下振れの一時的要因として指摘してきた「携帯電話サービス」と「処方薬」、そして、月々の振れが大きい「家賃・帰属家賃以外の宿泊費(ホテル代など)」「航空運賃」の4つをかく乱的な影響を及ぼす品目(=特殊要因)としてコアCPIから除外すると、1月の前月比0.31%上昇、2月の0.23%上昇の後、3―5月は四捨五入後で0.1%上昇にとどまったが、6月は0.17%、7月は0.15%、そして8月は0.21%上昇と、持ち直している。

3―8月の6カ月間の伸びは年率で1.59%まで回復しており、1.5―2%のレンジに入った。この点は、コアインフレの底堅さを物語るものと評価できる。

さらに、やや細かい話になるが、「携帯電話サービス、処方薬、航空運賃、宿泊費(家賃・帰属家賃以外)の4品目を除くコアCPI」を、財とサービスにブレークダウンすると、財は7月に前月比0.21%低下した後、8月も0.16%低下と、しつこい低下基調が続いている。

年明け以降、国内自動車販売の減速に伴う需給バランスの悪化が、財価格の下押し圧力となってきた。ただ、調整が進んだ結果、下押し圧力が弱まり始めた可能性が高い。また、一時的な要因であるが、ハリケーン被災地での自動車の買い替え需要が、自動車需要と価格を支える可能性が出始めている。

一方、サービスは7月の前月比0.26%上昇の後、8月も0.33%上昇。こちらも3―5月の低い伸びから持ち直している。より具体的には、3月以降、いったん鈍化した「帰属家賃」「医療サービス」が持ち直し傾向にある。全体として、サービスインフレには安定感がうかがえる。こうした中、インフレが3―5月のような形で下振れる可能性は低くなっているように見受けられる。

<インフレの基調は年率2%弱か>

今後についてだが、仮に以下のような機械的な仮定を置くと、コアCPIの伸び率は年率1.89%、前月比では0.16%となる。

●財(処方薬を除く)の伸びは、自動車価格の下落を一因に下振れが始まる前の今年2月までの12カ月間と同じとなる(年率0.93%低下)

●サービス(携帯電話サービス、航空運賃、家賃・帰属家賃以外の宿泊費を除く)は、3―5月の弱いデータを含む最近6カ月間と同じ伸びになる(年率2.91%上昇)

●携帯電話サービス、処方薬、航空運賃、家賃・帰属家賃以外の宿泊費の寄与度は全体としてゼロになる

つまり、インフレの基調は年率で2%弱とみられ、「1%から1%台半ば」は現在の基調ではないと判断される。

なお、インターネット販売のシェアの高まりに伴う従来型小売業発のディスインフレ(物価上昇率の鈍化)圧力は今後も続くと予想されるほか、貸家の空室率の底打ちに伴い、家賃の伸びも徐々に鈍化する可能性が高い。これらはインフレ率を2%弱に抑制しようが、「1%から1%台半ば」まで押し下げる力はないとみられる。

<2017年末、18年のドット中央値は動かず>

20日に終了した米連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、広く予想されていた通り、バランスシート縮小を10月に開始することが正式決定された(政策金利は据え置き)。一方、金利政策に関する情報発信、つまりFOMC参加者の政策金利見通し(ドットプロット)とイエレン議長の記者会見は、FOMCの利上げ戦略に大枠で変化がないことを示した。金融市場からみれば、タカ派色の目立つ情報発信だったと言えよう。

ドットプロットについては、2017年末、2018年末の中央値には前回6月から変化がなかった。2017年末の中央値は前回の1.375%のままであり、この点は年内あと1回の利上げを意味する。年内の政策金利据え置きを予想する参加者の数は前回の4人から変化がなかった。加えて、2018年末についても、前回の2.125%(来年3回の利上げを意味)から変化がなかった。FOMCの当面のゲームプランには変更がないことになる。

長期の政策金利見通しの中央値は、前回6月の3.0%から2.75%に低下した。ただ、前回3.0%を予想した8人の参加者のうち2人が2.75%に見通しを引き下げれば、中央値も2.75%に低下する状況だったため、特段のサプライズはない。この間の低インフレが影響したものとみられる。

やや興味深いのは、今回新たに示された2020年末の見通しの中央値が2.875%となり、長期見通しの2.75%よりもやや高くなったことである。この点からは、タカ派的な印象を受ける。

一方、経済見通しに対する変更は限定的だった。国内総生産(GDP)成長率(10―12月期の前年同期比)については、今年の見通しが前回6月の2.2%から2.4%に上方修正されたほかは、ほとんど変化がなかった。2017年の上方修正は、一部、ハリケーンに伴う復興需要を映したものとみられる。

また、コア個人消費支出(PCE)デフレータの見通し(10―12月期の前年同期比)については、2017年が前回6月の1.7%の上昇から1.5%に、2018年も2.0%から1.9%に下方修正された。これは、3月以降のコアインフレの下振れによるものとみられる。携帯電話料金引き下げなどの影響は、前年比ベースではその後1年間残ることになる。いずれにせよ、コアPCEデフレータ(あるいはPCEデフレータ)の伸びが2.0%に達するのは2019年にずれ込むことになる。

ただ、イエレン議長は、会合後の記者会見で、この間の低インフレは「経済情勢全般とは関係のない要因(一時的な要因)を主として反映したものである」という見解を改めて繰り返した。8月CPIが底堅い内容だったことを受けて、こうした見方に自信を強めたように見受けられる。実際、2019年のコアPCEデフレータの見通しは前回の2.0%のまま据え置かれた。

こうした状況の下、12月12―13日開催のFOMC会合で追加利上げが行われると当社は予想している。今回のFOMC会合の結果を受けて、金融市場でも、12月利上げの織り込み度合いが60%台半ばまで上昇した。また、2018年も3回の利上げを見込んでおり、金融市場の織り込みが不十分とみている。金融市場では当面、FRBのゲームプランを再評価する動きが続くことになるのではないか。

*村嶋帰一氏は、シティグループ証券調査本部投資戦略部マネジングディレクターで、同社チーフエコノミスト。1988年東京大学教養学部卒。同年野村総合研究所入社。2002年日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社(現シティグループ証券)入社。2004年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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