February 27, 2018 / 1:25 AM / 4 months ago

コラム:消費増税前の大型景気対策、「要否」を問う=村嶋帰一氏

[東京 27日] - 2019年10月に予定される消費税率引き上げと同年以降の東京五輪関連需要の効果剥落を前に、安倍政権は財政拡張に舵を切る構えをみせている。

2月20日に開催された経済財政諮問会議では、民間議員が、消費増税と東京五輪に起因する需要の変動に対して「機動的な財政運営」で対応する重要性を強調。安倍晋三首相も、「2014年の消費税率引き上げ時の経験に鑑み、消費税率引き上げによる需要変動を平準化する具体策を政府一丸となって検討する必要がある」と応じた。

安倍首相は、2014年の消費増税の悪影響が役人の楽観的見通しに比べて大きく、また長引いたと考えているとみて間違いないだろう。このため、安倍政権は今回、2014年の消費増税前の2013年に導入した補正予算と同等かそれを上回る財政出動を打ち出し、また景気刺激型の2019年度当初予算を編成する可能性が高い。

ただ、以下で議論する通り、米国と同様に、財政刺激策が過大となるリスクが否定できなくなっている。

<マイナスの影響は前回を大きく下回る可能性>

2019年10月の消費増税の悪影響は2014年4月の前回よりもかなり小さくなると当社は想定している。2014年には、消費税率が5%から8%に3%ポイント引き上げられたことで、消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は2.0%上昇、この分、消費者の実質購買力が押し下げられた。

一方、2019年10月の税率引き上げは2%ポイント(8%から10%)であり、また軽減税率が食品・新聞購読料に適用されるため、コアCPIへの押し上げ効果は1.0%にとどまる。

加えて、安倍政権は、消費増税に伴う増収の一部を教育無償化などの社会保障政策に充てることをすでに決定している。当社の試算によると、教育無償化によりコアCPIは約0.6%押し下げられる。このため、消費増税と教育無償化がコアCPIに及ぼす影響はネットで約0.4%にとどまる。実質購買力の低下を通じた個人消費への下押し効果は前回2014年を大きく下回る可能性が高い。

他方、東京五輪関連の非住宅建設投資(民間による都市再開発事業を含む)は2018年にピークを付けるとみられ、2019年以降は実質国内総生産(GDP)成長率への寄与度がマイナスに転じる公算が大きい。

ただ、外国人観光客を増やすための政府の施策が手伝い、インバウンド消費はGDP成長率へのプラス寄与を続けると見込まれる。このため、広義の東京五輪関連需要(非住宅建設投資とインバウンド消費)の寄与度の合計は、2018年のプラス0.3%ポイントの後、2019年、2020年も辛うじてプラスを保つと試算される。

以上の通り、消費増税と東京五輪関連需要の効果剥落に伴う景気下押し効果は、2014年に比べると限定的にとどまるとみられ、消費増税前の駆け込みとその反動を超えて、経済情勢が劇的に変化する可能性は低いように思われる。

<大型景気対策はほぼ確実、一段の財政悪化懸念>

ただ、経済財政諮問会議での議論を踏まえると、予定通り消費増税の実施を最終決定する際には、大規模な財政出動を併せて発表するのはほぼ確実とみられる。経済対策(及びその裏付けとなる予算措置)は、2014年の増税前の2013年度・補正予算と同程度かそれをやや上回る規模になると当社は想定している。安倍首相は、前回消費増税前の政策措置が不十分だったと考えているとみられ、同じ轍(てつ)を踏むことは避けようとする可能性が高い。

2014年4月の消費増税の悪影響を打ち消すために策定された2013年度・補正予算の歳出規模は5.5兆円(GDP比1%強)だった。来年の消費増税に対応した経済対策(あるいはそれを裏付ける2018年度・補正予算または2019年度・当初予算)は、2013年度・補正予算と同程度かそれを幾分上回る可能性が高いだろう。

経済対策の中身については、1)観光振興を含むインフラ投資、2)低所得世帯への現金支給、3)耐久財の購入促進策(世界金融危機後に実施されたエコポイント制度やエコカー減税に類似した対策)が想定される。今回は、経済対策が「too little(過小)」ではなく「too much(過大)」となり、非効率的な支出が増えると同時に、一段の財政悪化を招く事態が懸念される。

<財政再建は日銀頼み、緩和出口も後ずれか>

むろん、政府は今年6月に新たな財政再建プランを策定する予定だ。内閣府はすでに1月、2027年度までの財政見通しを公表している。これによると、2027年度までの平均名目GDP成長率を2.0%と想定する基本シナリオでは、国・地方の基礎的財政収支(震災関連の復興予算を除く)は2027年度でも8.5兆円(GDP比1.3%)の赤字と試算されている。

政府は新財政再建プランで、基礎的財政収支の黒字達成時期とそのための手段を示す見通しである。ただ、安倍首相がこれまで財政改革にさほど力を入れてこなかったことを踏まえると、歳出、歳入のいずれの面でも大胆な措置が出てくる可能性は低いように思われる。

いずれにしても、基礎的財政収支を黒字化させる新たな目標年度は、安倍首相の自民党総裁としての次期任期の終わり(2021年9月)よりはるか後になる可能性が高く、黒字化に向けた説得力のある計画を示すのは次期政権の課題になろう。

そうした中、安倍首相の財政再建プランは、日銀による超低金利の維持に大きく依存せざるを得ない。国・地方の債務残高のGDP比率(震災関連の復興予算を除く)は、2027年度までの名目GDP成長率を平均2.0%とする内閣府のベースラインケースでは、2017年度の189%から小幅に低下し始め、2020年度は185%、2027年度は181%と試算されている。

一方、2027年度までの名目GDP成長率を平均1.6%とし、政府の平均資金調達コストは内閣府と同じ前提とする当社のベースケースでは、債務残高GDP比率は2017年度の190%から2027年度には191%にわずかだが上昇する。

ただ、内閣府と当社のベースケースより平均資金調達コストが0.5%ポイント高い「金利上昇ケース」では、債務残高GDP比率は2027年度に200%に上昇する。このように、名目GDP成長率と平均資金調達コストの前提をわずかに変えるだけで、債務残高GDP比率は大きく変化する。

政府は昨年、「債務残高GDP比率の安定的な引き下げを目指す」という新たな財政目標を導入した。上のシナリオ分析からは、平均資金調達コストを低水準に維持することが目標達成に極めて重要になることが分かる。

当社は日本のインフレが今後もかなり低水準で推移し、日銀の出口戦略(定義はどうあれ)を後ずれさせる可能性が高いとみている。しかし、本稿で論じた財政見通しは、日銀に対して、金利をより長期間、人為的に低水準に維持し、出口戦略を先送りさせる追加的な圧力になることも考えられる。

*村嶋帰一氏は、シティグループ証券調査本部投資戦略部マネジングディレクターで、同社チーフエコノミスト。1988年東京大学教養学部卒。同年野村総合研究所入社。2002年日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社(現シティグループ証券)入社。2004年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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