February 27, 2020 / 5:49 AM / a month ago

コラム:新型ウイルス感染 、2011年と近似する消費者心理の綾=熊野英生氏

[東京 27日] - 新型コロナウイルス感染の不安が引き起こす経済的影響は、段々と悪くなっている。国内での感染者の感染経路がたどれなくなって、どこから感染が広がるのか、多くの人々がわからないと思うように変わってきたからだ。

2月27日、新型コロナウイルス感染の不安が引き起こす経済的影響は、段々と悪くなっている。写真は2018年10月、都内で撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

「特定できない」ということを、「不特定多数の中に入ると全て危険だ」と直結して考える理屈はおかしい。とは言っても、現実にそう思う人が増えているのだから、イベントや集会を中止するのは仕方がない。一時的には、我慢するしかない。

<自粛で落ち込んだ2011年の消費>

筆者が強調したいのは、この疑心暗鬼を放置すると、経済活動への悪影響が図り知れないくらいに大きくなることだ。思い出してほしいのは、2011年3月11日の東日本大震災後の自粛ムードである。

当時もイベントや集会が次々に中止されて、国内経済活動が必要以上に冷え込んだ。当初は、放射能の影響もあり、風評が間違っていると断定しにくかったので、現在の新型ウイルスよりもずっと深刻だったと思える。

しかし、当時の人は勇気があったと思うのは、自粛をし過ぎると自分の首を絞めるだけだと発言していたことだ。福島を応援しようとか、意識的に2次被害を回避しようという国民の声が、あの時には湧き起こった。

今回も、企業の内外で様々なイベントが中止されていて、無言の自粛ムードが広がっている。2011年のときと本当によく似ている状態だ。早く当時のように、過度な自粛が自分の首を絞めると気付く人が増えてほしいものだ。もしも、感染のリスクが大きければ、正しく判断して、マスク着用やアルコール消毒の徹底などを推進した方がよい。

<大震災後は、3カ月で回復の兆し見えた消費者心理>

人々が外出を手控えることは、食料品購入など必需品以外のあらゆる小売・サービス活動を抑制する。今後、自粛だけでなく消費全般が減っていく可能性が高い。それがどこまで長引くのかは見通せないが、2011年3月以降の消費マインドの変化は、最も悪いシナリオを想定するときには参考になるだろう。

内閣府の「景気ウォッチャー調査」における現状判断DIは、震災の発生した3月から3カ月間は大きく落ち込んで、6月には一服している。同調査が2002年1月に始まって過去最低を記録したのは2011年4月だった。この経験からは、消費者心理の悪化が当初3カ月間は厳しく、その後は改善していくことを教えてくれる。

今後の日本経済を展望すると、2020年4月は高等教育無償化により、年間8000億円の減税が行われ、6月はキャッシュレス決済のポイント還元の終了に伴う駆け込み需要が消費刺激になる。そして、7月24日からの東京五輪がより大きな消費刺激として、新型コロナのダメージをかなり吸収することになろう。

もちろん、悪いシナリオとして、東京五輪の中止・延期という可能性はある。例えば、日本での感染拡大が広がって、米国などが日本への渡航を禁止するような措置を採れば、連鎖的に海外から日本へ渡航する外国人が来られなくなって、東京五輪の見直しとなりかねない。

現在は、それがないシナリオをメインに考えて、2011年のパターンと同じであっても、2020年2月から4月までの3カ月間で最悪期を過ぎるだろうと予測する。

<中国とのサプライチェーン見直しも>

今回が2011年と似ているのは、製造業の取引がサプライチェーンの毀損(きそん)によって一時的にストップする事態が起きていることだ。当時は、日本から海外に輸出する部品や素材が止まったり、国内での部品供給が停滞した。今回は、中国から供給される部品などが停止し、日本企業の生産活動が混乱する状態である。

2011年には、輸送用機械の落ち込みが一時的に大きくなった。その状況を振り返ると、やはり3─6月まで生産が低下した。2011年秋には輸送用機械の生産は上昇基調に移行していった。今回も、武漢市には日本企業の現地法人がいくつかあり、嫁働再開に手間取っている。2011年の際は、供給先をシフトさせて生産回復したが、今回も数カ月くらいかけて生産水準が戻っていくだろう。

ただ、今回の教訓を受けて、生産が回復しても中国に部品供給を集中させることにリスクを感じ、他のアジア諸国に供給先を分散する動きが出てくると予想される。今後、中国との取引量が増えていくかどうかは、不確実性を伴う。

<早期終息のSARSは参考になるのか>

現時点で、新型コロナウイルスの感染拡大が3カ月間で落ち着き、経済が正常化するだろうと言えば、多くの人から楽観的過ぎるとしかられそうだ。

筆者も、めどとして3カ月間での終息を念頭に置いたシナリオを立てている。楽観的な情報として、中国本土での1日当たりの感染者数がピークアウトしているという見方がある。

湖北省を除く中国本土では、1日当たりの感染者数の増加が2月3日に890人とピークになった。1月20日から数えて約2週間後である。それが2月19日には45人まで減った。2月3日のピークから約2種週間で少なくなっている。

なお、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)のときは、最後の感染者が6月15日に出てから20日間くらい様子をみて、国際保健機関(WHO)が7月5日に終息を宣言した。

今回も、終息宣言は実体に比べて遅れるだろう。今後の動向はまだ未知数の部分が大きいが、各国での感染者数が時々刻々と発表され、その中から回復した人も多くいるというデータが明らかになると、未知なるものが人々の心理に与える不安も少しずつ小さくなってくるだろう。予断を強くは持たずに経過をみていきたい。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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編集:田巻一彦

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