November 13, 2019 / 8:20 AM / a month ago

コラム:米中摩擦に揺れた今年の通貨番付、円は来年前半に弱含みか=尾河眞樹氏

[東京 13日] - 今年の外国為替市場は通商問題を巡る米国と中国の激しいせめぎ合いに一喜一憂する展開となった。両国の通商交渉は大詰めを迎えているが、年末までにまだ市場に波乱があるかもしれない。年初からの通貨の強弱感を確認し、来年の注目通貨について考えてみたい。

 11月13日、年初からの通貨の強弱感を確認すると、最も強かったのはカナダドル、続いて円だった。写真は2016年1月21日、中国の北京で撮影(2019年 ロイター/Jason Lee)

<上昇率トップはカナダドル>

まず、年初来のG10通貨の対円での騰落率をみると、最も上昇したのはカナダ(加)ドルだった。とはいえ、上昇幅はわずか2.4%。加ドル以外のG10各国の通貨は総じて、少なくとも現時点では、対円で下落している。

従って、円は2位で、今年は円相場が相対的に強かったことを示している。3位は英ポンドで、0.2%の下落とほぼ横ばい、4位は米ドルで0.6%の下落と、こちらもほぼ横ばいだった。

さらに、5位のスイスフラン(下落幅は2.2%)、6位の豪ドル(同3.4%)、7位のユーロ(同4.5%)、8位のデンマーククローネ(同4.5%)と続く。対円で一段と下落した下位グループは、9位がノルウェークロ―ネ(同6.11%)、10位がニュージーランド(NZ)ドル(同6.16%)、11位がスウェーデンクローナ(同9.2%)だった(すべて11月11日時点)。

<来年のポンドは「弱い通貨」に>

今年の為替相場には、いくつかの特徴がみられる。ただ、ポンドについては、やや「例外」としておきたい。欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)をめぐる混乱がポンド相場に大きく影響したことで、他の欧州通貨とは値動きが異なっているためだ。

G10通貨の中で今年最もボラティリティが激しかったペアはポンド円だった。3月頃の高値から、「合意なきEU離脱」への懸念が高まるなか、1時は15%ほど下落した。しかし、この際に積みあがったポンドの巨大なショート(売り持ち)ポジションが、EU離脱延期と共に一気に巻き戻され、終わってみれば「往って来い」で年初の水準まで持ち直した。

2020年のポンド相場は、引き続きEU離脱に翻弄されるだろう。早速、1月末にEU離脱の期限が訪れるため、それを見守るしかない。

ただ、筆者は「EUと英議会で離脱協定が合意できればポンドは上昇する」との見方には懐疑的だ。2016年の国民投票から3年以上の歳月が過ぎても、まだ先行き不透明な状況は変わっておらず、離脱を巡る国民の意見も割れたままだ。企業にとってこうしたビジネス環境は決して良いとは言えないし、すでに本社をロンドンからフランクフルトやパリに移転する企業も出ている。

英国の4─6月期国内総生産(GDP)成長率が前期比マイナス0.2%と、8年半ぶりのマイナス成長となったことにもEU離脱を巡る政治的混乱の影響が表れている。7─9月期はプラスに転じたとはいえ、前期比0.3%という低迷した水準だ。

英国民の分裂や政治の混乱が続けば英国経済にとってさらなる足かせとなろう。目先、ポンドがもう一段上昇したとしても、来年通年でみれば再び下落し、弱い通貨のグループに入るのではないかとみている。

ポンド以外の通貨について、今年の特徴を整理してみると、第1に、円は相対的に強く、第2に米ドル、加ドルなど、北米通貨も強いことが挙げられよう。

第3に、ユーロをはじめとする欧州通貨は全般的に弱く、第4には、グローバルに「リスクオン」相場であるにも関わらず、「リスクオン・オフ」の影響を受けやすいはずの豪ドルやNZドルといったオセアニア通貨も弱さが目立つ。

<米ドルは来年前半に強含みも>

このようにグループ分けしてみると、結局のところ今年は、米中貿易摩擦が大きく為替相場に影響してきたことがわかる。米国はその震源地であるにも関わらず、景気への影響はさほど深刻なものとはならなかった。

もちろん、製造業をはじめとする企業の景況感が悪化し、市場では一時米景気後退懸念が高まる局面がみられたものの、年間を通してみれば、雇用環境は総じて良好で個人消費も強く、株価は史上最高値水準にある。今後、米連邦準備理事会(FRB)による「予防的」な利下げも奏功し、景気が持ち直すに従ってドルは来年前半にかけて強含むとみている。

お隣のカナダも、良好な米経済と堅調な原油価格に支えられて、経済は相対的に堅調だった。それでも米国が3回も利下げしたため、加中銀の利下げ観測が高まる局面もあったが、結果的には政策金利は据え置かれ、10月の声明でも「保険としての予防的な利下げについては議論している」と示唆されるに留まった。

なお、加中銀の政策金利は現在1.75%だが、実はG10通貨のなかで最も高い。FRBの利上げサイクルは2015年12月に開始したが、加中銀は2017年10月にようやく利上げを開始した。このため、「相対的に金利の低い地味な通貨」というイメージが強かったが、現在はリスク選好度の高い時にはG10の中で最も買われやすい通貨となっているのだ。

2020年は米大統領選をにらみ、トランプ大統領が支持率アップを狙った政策を強化する可能性があり、それによるリスクオンが少なくとも年の前半までは続きそうだ。それを踏まえれば、加ドルは特に対円では、来年も強い通貨グループに入る注目通貨になると予想する。

<ドイツ不安定化の影>

米中貿易戦争による悪影響を、いわば「とばっちり」のような形で受けたのが欧州やオセアニア通貨だ。ユーロ円は年間を通して軟調に推移し、一時は年初来8%安まで値を下げる場面もみられた。ドイツは対中、対米の輸出が落ち込むなど、通商摩擦の影響をダイレクトに受けた。

ユーロ圏の景気悪化により、ECBは追加緩和、いわゆる「マイナス金利の深掘り」と量的緩和の再開を決定。ただ、更なる緩和策にも限りがあるうえ、マイナス金利の深掘りや量的緩和には、ECB理事から反対の声も多い。

こうしたなか、このところ議論が高まっているのは財政政策による景気刺激策だ。ただ、財政政策で重要な役割を果たすはずのドイツは、肝心のメルケル首相が依然として財政政策には慎重なうえ、同首相の政治的な求心力も弱まっている。

9月と10月にドイツの東部ザクセン州とブランデンブルク州、テューリンゲン州で行われた州議会選挙は、いずれも極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進。メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)の後退が浮き彫りとなった。

CDUにとって財政均衡は最重要政策の一つであり、支持基盤を維持したいとなれば、財政出動は容易ではなさそうだ。米中摩擦が落ち着けば、2020年のユーロ円は上昇する可能性はあるものの、ドイツの不安定化などの政治環境や米欧の貿易摩擦も踏まえれば、上昇幅は限られよう。

今年、豪準備銀行は3回、NZ準備銀行は2回(2回目は50ベーシスポイント)の利下げを決定し、それぞれ政策金利は0.75%、1.00%となった。これらはかつて「高金利通貨」と呼ばれ、リーマンショック前の政策金利がそれぞれ7.25%、8.25%だったことを考えると、隔世の感がある。

<クロス円に一時的な下落リスク>

既に米ドルよりも政策金利が大きく下回っている環境にあっては、オセアニア通貨の相対的な流動性の低さを踏まえれば、あえてボラティリティのリスクを取って積極的に買う理由には欠ける。

ただ、中央銀行の声明などを読む限り、特に豪州の利下げ局面は一巡した様子であること、また、米中摩擦も一段落しそうであるうえ、来年もしばらくは米株高などリスクオンの地合いが続く公算が大きいことを踏まえれば、豪ドル、NZドルは、来年大幅高は期待しがたいものの、少なくとも一段の下落は免れそうだ。

これらを踏まえると、G10通貨の中で来年前半の注目通貨は加ドル、米ドルなどの北米通貨、次に横ばい圏は豪ドル、NZドルと続き、欧州通貨は一時的な上昇はあってもトレンドとしては弱い環境が続くとみている。

問題は円の順位だが、年前半のリスクオン相場では相対的に弱くなりがちだろう。ただ、注意しなければならないのは、米中貿易摩擦が激化した今年の8月、これらのG10通貨は対円ですべて下落したということだ。何らかのきっかけで市場がリスクオフに傾けば、これらクロス円相場が一時的に下落するリスクは見ておくべきだろう。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

尾河眞樹氏

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

(編集:北松克朗)

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