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コラム:火種残る「コロナ後」の経済回復、ドルは余剰感拡大も=尾河眞樹氏

[11日 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染拡大によって混乱していた金融市場に、このところ、楽観ムードが戻っている。5月8日に発表された4月の米雇用統計では桁違いの雇用減少が確認された上、失業率は14.7%とリーマン・ショックの最悪期である10%を大きく上回った。それでも雇用が市場予想ほどは落ち込まなかったという理由から、米株価は上昇。VIX指数(ボラティリティー・インデックス=恐怖指数)も約2カ月ぶりに30を下回った。

5月11日、新型コロナウイルスの感染拡大によって混乱していた金融市場に、このところ、楽観ムードが戻っている。都内のオフィスビルで7日撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

3月に成立した連邦政府による2兆3000億ドル規模の大型経済対策法で、州政府が支給する失業保険に週600ドルもの増額が盛り込まれたため、このメリットを享受しようと一時的に失業者が急増している可能性もある。また、景気の大幅な落ち込みは、感染対策として経済活動を人為的にストップしていることが要因であり、ビジネスが再開されれば景気は徐々に回復する、との見方もできる。

ただ、問題は、経済活動が再開されてもすべてが「元通り」にはならない可能性が大きいことだ。例えば、人の移動や消費行動には大きな変化がありそうで、体験型の、いわゆる「コト消費」以外の消費はオンラインが主流になるだろうし、わざわざ出張せずとも、会議も極力オンラインで済ませるようになるかもしれない。5月7日に米高級デパートのニーマン・マーカスによる連邦破産法11条の申請は、そうした変化を象徴する動きとも言える。

多くの企業が政府の支援策によって急場はしのいだとしても、新ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)がもたらした社会の構造変化についていけなければ、生き残るのは難しい。今回のコロナ騒動が人々のライフスタイルにまで変化をもたらすほどの大きな出来事だった可能性を踏まえれば、いま足元で続いている株高は、あくまで中央銀行の大規模な緩和政策に支えられた金融相場であって、実体経済が直面している状況とはかい離しているように見える。

<ドル円、大幅な下落にはブレーキも>

当社は2020年4-6月期に米国経済は底打ちし、その後は緩やかに回復するとの見通しをメインシナリオとしている。ただし、回復ペースはあくまで緩やかで、2年経ってもコロナ問題が発生する前のピークである2019年10-12月期の水準は取り戻せないとの見方だ。いわゆる、V字回復とL字回復の中間で、底は打つものの上昇角度が鈍い「レ点」や「ナイキ(ブランドマーク)型」の景気回復を想定している。本稿ではこのメインシナリオに加えて、V字回復、L字回復の3つのシナリオを踏まえて、それぞれの為替相場見通しについて考えてみたい。

まずメインシナリオの場合だが、6月末にかけていったん105円付近までドル安・円高が進行し、その後は緩やかに年末にかけて108円付近まで値を戻すとみている。現在の市場の楽観ムードとは裏腹に、ドル円は軟調地合いとなっているが、これは、むしろ米連邦準備理事会(FRB)による資金供給が効力を発揮しているためといえよう。

3月は市場がコロナ・ショックでパニックに陥る中、基軸通貨であるドルの需要が高まって、ドル高が一気に進んだが、市場環境の改善を受けて、この調整によるドル安局面が続いているとみている。

日銀は4月27日の金融政策決定会合で、国債購入枠の上限撤廃や社債などの買い入れ枠を従来の3倍近くに増やすなどの追加緩和策を発表した。ただ、FRBと日銀のバランスシート比率でみると、FRBの資産購入によるバランスシートの拡大は急激で、日銀のペースを大きく上回っており、市場ではドルの余剰感が広がっている可能性が高い。

6月にかけて徐々に日米欧で経済活動が再開され、市場心理の改善と共にリスクオンの地合いが続くのであれば、3月とは反対の動きが広がって、目先ドルには下落圧力がかかりやすくなるのではないか。

<V字回復でも急激なドル円上昇はない見通し>

とはいえ、ドル円がリーマンショックの時と同様に、1ドル90円台まで一気に下落するかといえば、そうはならないとみている。まず、リーマンショックの時と違い、日米の長期金利差はすでに縮小しており、これ以上縮まる余地は少ない。加えて、リスクオンの時には、基軸通貨であるドルと同様に、流動性、信用力ともに高い円も売られやすくなっており、これがドル円下落のブレーキとなる公算が大きい。したがって、ドル円が100円を大きく割り込むほどの一方的な下落トレンドになるとはみていない。

これに対し、楽観シナリオ、つまりV字回復の場合は、ドル円相場の戻り歩調はやや加速する公算で、ドル円の年末予想値は110円付近と想定している。それでも、米国の金融引き締めが早期に実施される可能性は低く、急激なドル円上昇は見込んでいない。

<感染再拡大に加え、新興国・欧州リスク>

他方、悲観シナリオについてはどうだろうか。市場環境が再び悪化するケースとして、以下の3つを想定している。

第1に、主要国が経済活動を優先し、拙速に外出自粛を緩めることで、感染拡大の第2波が発生するケースだ。この場合、経済活動は長期に停滞が続き、それが嫌気されて世界的に株価が急落するなど、リスクオフの地合いとなる公算がある。

第2に、新興国で感染が一段と拡大し景気がさらに悪化すれば、資金が逃避し通貨の急落や財政危機などの「新興国リスク」に発展するケースが挙げられよう。このケースでは、これらの国々へのエクスポージャー(与信や証券投資)が大きい欧米の金融機関にもショックが波及するリスクが浮上しかねない。

ジョンズ・ホプキンス大学の調査では、5月7日時点でロシアの累計感染者数が世界第5位に増加。また、アフリカでも感染拡大が続いていることに対し、世界保健機関(WHO)が警鐘を鳴らしていることも気がかりだ。累計感染者数が世界第8位のブラジルや9位のトルコでは、それぞれの政治要因など個別の問題もあるものの、明らかにコロナ・ショックをきっかけに通貨の下落に拍車がかかっている点には警戒が必要だ。

第3に、欧州問題も大きなリスクのひとつになるだろう。コロナの感染者数が世界第2位のスペイン、3位のイタリアでは、高い死亡率(それぞれ11.8%、13.9%)が問題視されている。

そもそも医療崩壊を招いた原因の一つとして、欧州債務危機により南欧諸国に強いられた緊縮財政による医療支出の削減があるとの指摘もある。世界保健機関(WHO)によれば人口1000人当たりの医師の数は、スペインは2008年の4.6人から2016年に3.8人、イタリアも同4.2人から4.0人と、明らかに欧州債務危機を挟んで減少しており、国民の不満は高まりやすい環境だ。

ドイツ連邦憲法裁判所は5月5日、欧州中央銀行(ECB)が2015年に導入した量的緩和策の一部について、「ECBの権限が不当に拡張された」との理由から、違憲とする判決を下した。コロナによる景気悪化に歯止めをかけるため、世界中で金融緩和や財政出動など政府・中央銀行が矢継早に政策を発動しているなかでのこうした判決は、南欧諸国とドイツの溝を一段と深める可能性がある。

EU内での不協和音が高まるなか、来年にも総選挙を控えるドイツの政局、イタリアの財政懸念など、欧州の火種は枚挙にいとまがない。仮に、これまで述べたリスクのどれかが表面化した場合の悲観シナリオでは、ドル円は1ドル=100円を下回り、95ー97円程度までの円高が進行する可能性があると予想する。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

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編集:北松克朗

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