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コラム:米大統領選後のドル円、「ハネムーン」に波乱は起きるか=尾河真樹氏

[東京 12日] -11月3日投開票の米大統領選に向け、両陣営が大詰めのデッドヒートを繰り広げている。共和党のマイク・ペンス副大統領と民主党のカマラ・ハリス副大統領候補が相まみえた10月7日のテレビ討論会で、ハリス候補はトランプ政権の失政、特に新型コロナウイルスへの対応のまずさを強調。一方、ペンス副大統領は民主党のバイデン大統領候補が唱える増税やフラッキング(シェールの採掘技術)の禁止措置などによる経済へのダメージを主張した。

10月12日、11月3日投開票の米大統領選に向け、両陣営が大詰めのデッドヒートを繰り広げている。写真は9月、オハイオ州クリーブランドで開かれた大統領候補塘路雲海に出席したトランプ米大統領(左)とバイデン前副大統領(2020年 ロイター/Brian Snyder)

これに先立ち、9月29日に行われたトランプ大統領、バイデン大統領候補によるテレビ討論会ではほとんどまともに議論されなかった政策面について、副大統領候補の討論会ではお互いの主張がそれなりに示されたと言えよう。答弁中の相手の発言を遮ったり横やりを入れたりすることもほとんどなかったため進行もスムーズで、用意された全てのトピックについて議論が交わされた。ただ、両者とも、主張するばかりで質問に対してはあまりストレートに回答していない印象を受けた。

フェアに見る限り、討論の優劣はほぼ五分五分だったように思うが、強いて言えば最後の質問はハリス氏に若干有利働いたのではないか。その質問は学生からのもので、端的に言えば「国民の分断と協調についてどう考えるのか」という内容だった。ペンス氏は「米国の特徴である自由な議論を重視しているのであり、討論の場を離れれば、米国人同士今も協調できている」という主旨の回答をしたが、ハリス氏は「過去4年間のトランプ政権がこうした分断を作ったのであり、それを変えるためにも我々が政権を取る」と切り返した。

10月11日時点のリアル・クリア・ポリティクスの各種ブックメーカの集計によれば、勝率はバイデン氏67.5%、トランプ氏32.8%と、バイデン氏が優勢となっている。副大統領討論会直前、6日時点の同オッズは64.0%対35.4%だったため、討論会によりじわりと差が開いている。これを踏まえれば、今回の副大統領候補によるテレビ討論会は有権者にとって、ややハリス氏が優勢だったと映ったようだ。

<トランプ岩盤支持層に揺らぎも>

さらに注目すべきは、9月末のトランプ、バイデン両氏によるテレビ討論会以降、トランプ大統領の支持率が下がり続けていることだ。ラスムッセンの世論調査によれば、トランプ大統領を「強く支持する」とするコアの支持は9月28日時点で37%あったが、10月7日には34%に低下した。保守派寄りと言われ、トランプ有利となりやすいラスムッセンの調査でさえ、トランプ大統領の支持低下を示している点は、少なくともここ数日間でトランプ氏が勢いを失いつつあることを示唆していると言えよう。

トランプ大統領は90分間の討論会中に73回もバイデン氏の発言を遮るなど、大統領らしからぬ態度が目立った。また、10月2日には新型コロナウイルスに感染し入院。その後も「いい気分だ。新型コロナを恐れることはない」などとツイッターに投稿した。コロナ感染を懸念してテレビ討論会をオンラインにする方針が示されると、「意味がない」とこれを拒否。ここ数日間でトランプ大統領が重視しているコアの支持層が失われつつあるのは、米国大統領という世界のリーダーとしての資質に対し、国民から疑問符がつけられているからではないだろうか。

<バイデン氏当選なら株価にはプラス>

何が起こるかわからない大統領選について、現段階でその結果を決めつけるのは時期尚早だが、少なくとも米メディアはこぞって「バイデン優勢」を報じている。仮にバイデン氏が勝利すれば、金融市場はどう反応するのだろうか。

今回のテレビ討論会でも話題になったように、バイデン氏は増税を主張しているため株安になるとの見方も散見されるが、そうとは言い切れないのではないか。むしろ、共和党は小さな政府を志向し、民主党は財政バラマキ型だ。今まさに米議会で議論されている追加の経済対策法案を巡っては、民主党が「1.6兆ドル(約169兆円)の共和党案では足りない」と言って揉めているのだ。

トランプ政権はこれに譲歩し、9日には規模を1.8兆ドルに引き上げる案を議会民主党に再提出したが、2.2兆ドル規模を求める民主党案とは規模だけでなく内容面でも依然開きが大きく、合意への道筋は見えないままだ。

バイデン氏は法人税率引き上げと富裕層の増税を掲げているが、これは大企業や富裕層から徴収して中小企業や低所得者層に振り向ける、いわば所得の再配分である。実際には、社会保障やヘルスケア、インフラ投資などのバイデン氏の経済政策を積み上げると、今後10年間の歳出の増加額は増税額の約3兆ドルを優に上回り、5兆ドルを超えるとの試算も多い。

増税で賄えない分については国債を増発することになり、その分金利の上昇を抑えようと、米連邦準備理事会(FRB)による国債買入れも増加する公算が大きい。したがってバイデン氏勝利の場合は、株式市場にとってはプラス、ドルにはマイナスとなりやすいのではないか。ただ、この場合株価がポジティブに反応するとすれば、ドル安とともに円も売られやすくなるため、ドル/円でみたときには一方的な円高とはなり難いだろう。

<過去6回の選挙後相場はドル高/円安>

さらに重要なのは大統領選と同時に実施される米連邦議会選挙で、上院と下院でどちらの政党が過半数を獲得するかが注目される。大統領がバイデン氏、上下両院も民主党という、いわゆる「トリプルブルー」となった場合には、政策を推進しやすいため、市場には好感されるだろう。大統領がトランプ氏で、上院が共和党の場合も然りだ。

問題は、大統領がバイデン氏で上院が共和党、あるいは大統領がトランプ氏で上院が民主党というように、大統領と上院の多数党にねじれが発生するケースだ。この場合、議会での「フィリバスター」と呼ばれる審議妨害や、大統領による拒否権発動などで法案が成立しにくくなり、政策の実行に支障をきたす可能性が高まる。したって、市場はこれをネガティブに捉えるだろう。

過去6回の大統領選において、選挙後のドル/円相場の動きをみると、リーマン・ショックのあった2008年を除く全てのケースにおいて、ドル高/円安になっていることが分かる。これは、新大統領が選挙中に示してきた経済対策や構造改革などの公約を実行することへの期待が大きいと思われる。これまでの傾向を考慮すれば結局のところ、トランプ氏、バイデン氏のどちらが勝ってもしばらくの間、少なくとも100日間のハネムーン期間中は株価やドル/円は堅調に推移する公算が大きい。

ただ、問題は新型コロナの影響で郵便投票がこれまでにない規模になるため、投票日から選挙結果が出るまでに相当な時間がかかりそうなことだ。今回の大統領選では、前回2016年の大統領選の投票総数の6割に当たる、8000万人が郵便投票する可能性があるという。結果が明らかになるまで、時間の経過と共に選挙結果の市場への関心や影響も徐々に小さくなると思われるため、リスクオンが続いたとしても、2016年のようなドル/円の大幅な上昇は期待できそうにない。

結局のところ、ドル/円は104─108円程度のレンジが続くのではないか。また、仮に選挙結果が僅差となり勝敗を巡って訴訟などに持ち込まれる事態となった場合には、反対に政治的な空白が嫌気され、株安・円高のリスクが高まるだろう。

 *本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

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編集:北松克朗

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