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コラム:長期金利上昇は景気回復のサインか 問われるFOMCの説明力=尾河眞樹氏

[東京 11日] - 3月に入り、ドル/円の上昇が加速。早くも一時109円台に乗せる場面がみられた。正直なところ、筆者の想定よりも速いペースの上昇だ。ドルの名目実効為替レートをみると、2月下旬頃から上昇が鋭角になっている。 

 ドル急上昇の背景にあるのは足元の米実質金利の上昇だ。これが「良い金利上昇」なのか、それとも「悪い金利上昇」なのか、この先の展開を予想するうえで重要になるのは3月16、17日に開かれる米FOMCの判定だ。写真はワシントンのFRB本部。2019年3月撮影(2021年 ロイター/Leah Millis)

ドル急上昇の背景にあるのは足元の米実質金利の上昇だ。これが「良い金利上昇」なのか、それとも「悪い金利上昇」なのか、この先の展開を予想するうえで重要になるのは3月16、17日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)の判定だ。

<改善示す米経済指標>

昨年3月のコロナショック以降、米長期金利は米連邦準備理事会(FRB)の強力な金融緩和によって低く抑えられ、今年1月末までは1.0%付近で推移してきた。

一方、期待インフレ率(BEI=ブレークイーブンインフレ率)の右肩上がりのトレンドは続き、2%を超す水準が継続。実質金利(名目金利-期待インフレ率)は概ね-1.0%前後と、大幅なマイナス圏にあった。

しかし、2月に入り、米長期金利は景気回復への期待感などから上昇ペースが速まった。2月下旬に、期待インフレ率の上昇が2.2%台を天井に歯止めがかかってきたところで、実質金利はマイナス0.6%付近まで急上昇した。

景気回復への期待感の高まりは、各経済指標が軒並み改善していることが背景にある。2月17日に発表された1月の米小売売上高は前月比5.3%増と、市場予想の同1.1%を大幅に上回った。2月の米ISM製造業景況指数は60.8と、2018年2月以来、3年ぶりの高水準を記録。2月の米雇用統計も非農業部門雇用者数は前月比37.9万人増と市場予想の20万人を大幅に上回るなど、米経済の改善を示す兆候は随所に現れている。

コロナワクチン接種の急速な普及やバイデン政権による追加の経済対策、さらには金融緩和からの出口戦略を先取りする見方などがあいまって、金利の上昇モメンタムはなお残っている。

<イエレン財務長官は「良い金利上昇」と指摘>

実質金利の上昇は、企業にとって資金調達コストの上昇を意味し、景気を冷やすことになる。この実質金利の急上昇が警戒され、2月末にはNYダウが2日間で1000ドルを超えて下落するなど、米株価が崩れる局面がみられた。 

現在の金利上昇は、経済にとって「良い」のか、「悪い」のか。「良い金利上昇」とは、実体経済の回復を伴った穏やかなインフレの上昇と、これによる長期金利の上昇を示す。一方、「悪い金利上昇」とは、たとえば財政懸念や、あるいは供給不足の中での急激な需要増などによりインフレ率が急伸し、これと共に長期金利が急上昇することを表している。

市場参加者は現在、足元の長期金利上昇がこのどちらなのか判断しかねており、神経質になっているようだ。2月の米コアCPIが前年比1.3%と伸びが鈍化したことで、インフレに対する不安はいったん和らぎ、2月末の株価急落時にみられたような市場の混乱はとりあえず収まったかに見えるが、まだしばらくは市場のボラティリティーが高まる局面はあるかもしれない。 イエレン米財務長官は3月5日、メディアのインタビューで、「米長期金利の上昇は、インフレ懸念の高まりではなく、市場参加者がより強い回復を期待している兆しだ」との考えを示し、「良い金利上昇」であるとして、市場参加者の懸念を一蹴した。イエレン財務長官は、FRB議長時代に「高圧経済」、つまり経済の過熱感をある程度容認し、金融緩和や財政刺激策を続けることを主張していたが、その考えは今も変わらないようだ。  一方で、FRBの金融政策は、極めて微妙な時期に差し掛かっている。足元の米長期金利の上昇を抑えつつ、同時に将来の出口戦略を徐々に市場に刷り込んでいくという、難しいかじ取りが求められる。その際に株価暴落などのショックを与えないようにするためにも、市場とのコミュニケーションは重要だ。

パウエルFRB議長にとって、そうしたコミュニケーション力が試される局面は早々に訪れそうだ。3月16、17日のFOMCでは、メンバーの政策金利見通し(ドットチャート)が公表される。米国経済のV字回復や大型経済対策を受けて、利上げの見通しの分布は、前倒しの方向に変化しよう。また、経済・インフレ見通しも上方修正されることになるだろう。

<ドル円、当面は高値圏のレンジ相場か>

こうしたメッセージが、今後金融環境が引き締まるという危機感につながれば、市場が再びリスクオフに傾く可能性が高い。それを抑えるために、パウエル議長は記者会見等で、緩和スタンスを維持する姿勢を強く示すかもしれない。市場では一部、米長期金利のさらなる上昇を抑えるために、FRBがツイスト・オペ(長期国債の購入を増やし、短期国債の購入を減らす)に踏み切るとの期待もあるようだ。

もしFRBがコミュニケーションに失敗すれば、株価の急落を招く可能性もある。その場合は、米長期金利の上昇とともにドル高が進む一方、リスクオフの円高圧力も強まるなか、ドル円はやや円高に振れ、ユーロ円や豪ドル円などのクロス円は全般的に下落することになるため、注意が必要だ。

ドル/円は、昨年3月のコロナショック後の高値111円71銭から今年1月安値の102円59銭の61.8%戻し(108円23銭)を終値ベースで上抜け、76.4%戻しの109円56銭や、昨年6月高値の109円85銭などが次の上値メドとして視野に入る。相場は勢いづくとオーバーシュートしがちなため、同水準までの上昇は見ておいたほうがよさそうだが、110円の大台を一直線に超えていくかといえば、それは難しいように見える。

理由は、日米実質金利差の水準と比較した際に、ドル/円にやや行き過ぎ感があるからだ。年明けから米10年物の実質金利は-1.09%をボトムに低下に歯止めがかかり、この頃から徐々に日米の実質金利差とドル円相場の相関性が回復してきた。2月以降、日米実質金利差が拡大(マイナス幅が縮小)するに従ってドル円は上昇。ただ、実質金利差との相関からみた適正水準(107円ちょうど付近)を足下のドル円は大きく上回っている。FRBによるテーパリングの開始を市場が早々と織り込むなかで、ドル高に一時的に勢いがついたようだ。

パウエル議長が繰り返し述べているとおり、インフレ率、失業率ともにFRBの目標には及ばず、FRBはしばらく現行の緩和策を維持する構えだ。となれば、短期金利がゼロ付近に抑えられるなか、足下の長期金利上昇も、徐々に勢いが衰えていくと予想する。

したがってドル/円が上昇トレンドに入ったとの見方に変わりはないものの、少なくともこの1-2カ月は、足下の高値圏でのレンジ相場に入るとみている。一方で、景気の回復が顕著になってきた際に、それでもばく大な資金を投じる景気刺激策とFRBの強力な緩和が継続された場合には、将来市場がショックにさらされるリスクもはらむ。市場がインフレによる「悪い金利上昇」を織り込み始めれば、思わぬ株安や円高を招くリスクもあるため、注意したいところだ。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

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編集:北松克朗

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