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コラム:コロナ対応で政権支持率に明暗、注目すべき通貨は=尾河眞樹氏

[東京 17日] - 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への政策対応は、どの国のリーダーにとっても等しく困難である。経済を回そうとすれば感染者が増えるし、これを避けるため行動制限をかければ、経済が悪化する。まさに「あちらを立てればこちらが立たなくなる」という状況だ。

 8月17日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への政策対応は、どの国のリーダーにとっても等しく困難である。尾河眞樹氏のコラム。2016年1月撮影(2021年 ロイター/Jason Lee)

<苦悩する首脳>

米調査会社モーニング・コンサルトが公表しているデータをみると、各国首脳の苦労が浮き彫りになってくる。日、米、加、英、独、仏、伊のG7にブラジル、インドを加えた9カ国でみると、支持率から不支持率を引いた「ネット支持率」は、7月末時点でインドのモディ首相の40%が最も高い一方で、最も低かったのは-34%で日本の菅首相となっている。しかし、21年の1月末比の変化をみると、これら9カ国のうち、ネット支持率が上昇したのは、英国のジョンソン首相(+4%ポイント)と、イタリアのドラギ首相(+5%ポイント)のみであった。ネット支持率が最も高いモディ首相でさえ、1月末比では-16%ポイントと大きく低下しており、全体として、人々の政治に対する不満が高まっている様子が見て取れる。(注:ドラギ首相は就任後の2月17日からの比較)

<目を引く英国の健闘、通貨ポンドにも好影響>

中でも目を引くのは、ジョンソン英首相のネット支持率の改善ぶりで、1月末時点の-15%から5月には一時+5%と、20%ポイントも改善。足元はデルタ株への不安からかネット支持率は再びマイナスに転じているが、それでも1月末比では改善している。同首相は世界に先駆けて英国のワクチン接種開始を決定。先進国では英国の接種率が最も高く、2回目の接種を終了した国民の割合が、8月13日時点でほぼ6割に達している。これにより、今年に入ってデルタ株の感染者数が増加しても、重症化率は低く抑えられてきたうえ、7月下旬以降は1日あたりの新規感染者数も急速に低下傾向となっている。

同首相は「ワクチンによって感染と死亡の関係を断ち切ることができた」と述べ、7月19日からほとんどの行動制限を解除した。こうしたパンデミックに対する対応の速さ、これによる景気のV字回復などが、同首相のネット支持率の改善につながり、それはそのまま通貨の強さに素直に反映されているようだ。

ポンドは、これら9カ国の通貨のうち、年初来で対円・対ドル共に最も大きく上昇している。もっとも、英国は昨年1月に正式に欧州連合(EU)を離脱しており、これが景気の足かせになるとの見方が続いていたことや、英中銀(BOE)が直近までハト派な姿勢を貫いていたことなどによって、ポンド上昇に対する期待は薄かった。このため、かえって今年のポジティブサプライズが大きくなり、これがポンドの一段の大幅上昇に一役買ったとも言えそうだ。また、英国ではマスク着用の制限が解除されたものの、多くのレストランや店舗では、自主的に来店者のマスク着用の義務化や入店制限などを行っていると聞く。したがって、デルタ株の不安は、最もうまく対応した英国でさえも、まだ部分的に経済に影を落としている状況だ。

<ポンド円は堅調持続へ>

BOEは8月5日に行われた金融政策委員会(MPC)で、金融政策を据え置いたものの、21年末のインフレ見通しを従来の2.5%から4.0%へと引き上げた。加えて、声明では「予測対象期間内に緩やかな金融政策の引き締めが必要になる公算が大きい」との見解を示すなど、これまでのハト派姿勢から微妙な変化がみられた。今後21年末にかけて、米連邦準備理事会(FRB)の緩和からの出口戦略がクローズアップされていくなかで、ドル高圧力が強まれば、ポンドも小幅ながら対ドルで下落する局面があるかもしれない。しかし、BOEでも緩和からの出口の議論が始まりつつあることや、日銀の出口が最も遠いと思われることを踏まえれば、ポンド円は市場全体が極端なリスクオフにならない限り、今後も当面の間堅調な地合いが続くと予想する。

<厳しいかじ取り迫られる米国>

各国首脳のネット支持率に話を戻そう。ジョンソン首相とは反対に、先進国でネット支持率が最も悪化したのは、意外にも米国のバイデン大統領だった。今年1月末時点の21%から7月末時点の11%まで、10%ポイントも低下している。

主な要因は不支持率の上昇(33%→40%)だ。不支持率については、ギャラップ調査などでも同様の結果が得られており、1月時点の37%から7月には45%に上昇した。ギャラップで、同期間のバイデン大統領の支持率変化を支持政党別にみると、共和党支持層で12%から11%とほぼ変わらず。しかし、民主党支持者では98%から90%に低下。特に無党派層は61%から48%と、低下ぶりが顕著だ。

民主党内でのバイデン大統領の支持率低下には、民主党左派の支持離れが影響しているのではとの見方がある。8月10日に米上院で可決されたインフラ投資計画は、5年間で1兆ドルと、3月末に発表された2.2兆ドルから大幅減額となった。共和党との合意を目指した結果、規模を縮小せざるを得なかったうえ、財源としていた大企業向けの増税案も、いったん棚上げとなっている。大統領選で、民主党左派の支持を得ようと、気候変動問題やインフラ投資、大企業増税に積極的な姿勢を示していたバイデン氏も、このところ共和党への歩み寄りが目立つのは、民主党左派にとってみれば失望だろう。

加えて、足元のインフレ高進も無党派層の支持率低下に影響している可能性がある。来年の米中間選挙に向けて、バイデン大統領がこれをどう挽回するのかに注目が集まる。支持を得ようとすれば、景気支援策の手を緩めることはできないし、株価を維持しようとすれば金融政策もハト派の方が好ましく、パウエルFRB議長も基本的には緩和的なスタンスを維持しつつ政府と協調しようとするだろう。

一方、仮にインフレが一段と急伸するようなことになれば、国民の不満がさらに高まり、「無党派層」の支持はさらに低下しかねない。この場合、金融引き締めを余儀なくされるだろうが、急激な引き締めは株価の下落や景気悪化につながるリスクをはらむ。バイデン大統領は、景気刺激策を行いつつも、インフレにも目配りをしなければならないという、極めて難しいかじ取りを迫られている。

<リスクオン地合い、当面は変化なし>

難しいのはバイデン大統領ばかりではない。カナダは9月20日、ドイツは9月26日に総選挙を控える。日本では、菅首相が9月末には自民党総裁任期を迎える。また、来年は仏大統領選(4月)やブラジルの大統領選が予定されるなど、コロナ禍での選挙が目白押しだ。政策が困難を極めるなかでどの首脳もネット支持率は低下しており、不支持率の引き下げが急務とすれば、既に4回利上げに踏み切ったブラジルは別として、先進国ではコロナ対応を優先し、財政支出と緩和的な金融政策のポリシーミックスを続けることになりそうだ。こうした背景から、筆者はFRBが来年1月までにテーパリングを開始するものの、利上げ自体はまだ先で、23年になると予想している。したがって、リスクオンの地合いは当面続き、ドル円の上昇も緩やかなペースにとどまるとみている。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

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(編集 橋本浩)

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