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コラム:騒ぐ申年、日米欧金融政策に潜むリスク=岩下真理氏

[東京 21日] - 2016年の干支は丙申(ひのえさる)。日本の株式格言によれば、「辰巳天井、午尻下がり、未は辛抱、申酉騒ぐ」と比喩される。安倍政権誕生後の12―13年の辰巳年の株価は大幅上昇。14年の午年は12月上旬に高値をつけて尻上がり。15年の未年は6月下旬に高値をつけて夏場に急落、その後は辛抱の時間になった。

 12月21日、SMBCフレンド証券・チーフマーケットエコノミストの岩下真理氏は、16年は日米が選挙の年であるため政治要因も考える必要はあるが、日米欧の金融政策が引続き相場の重要材料であることは変わらないと指摘。提供写真(2015年 ロイター) 

来たる申年の「騒ぐ」は、株式市場では活発な商いがイメージされる。1949年から2014年で日経平均株価の年間騰落率を見ると、12種類の干支のうち申年は第7位で9.9%高(該当5回のうち年間の勝敗は4勝1敗)と、直近2年の午4.5%安、未6.7%高よりも良いパフォーマンスだ。

同じ丙申だった1956年の日本では、経済白書の「もはや戦後ではない」とのフレーズが流行した。来年は7月頃の参議院選挙を控え、政府のデフレ脱却宣言はあるのか、注目される年となろう。

15年を振り返ると、日米欧金融政策の思惑に揺れた1年だった。1月に欧州中銀(ECB)が量的緩和(QE)導入を決定(3月実施)。春から夏はギリシャと中国要因で不安心理は強まり、秋以降は米連邦準備理事会(FRB)の利上げ視界入りとECB・日銀への追加緩和期待の綱引きとなった。

12月だけを見ると、市場を失望させたECBと日銀の施策に比べて、正常化を決めたFRBが一番評価されたと言えよう。16年は日米が選挙の年であるため政治要因も考える必要はあるが、日米欧の金融政策が引き続き重要材料であることは変わらない。 

<イエレン・サンタの贈り物は「緩やかな利上げ」>

12月15―16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、9年半ぶりの利上げを全員一致で決定。フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25―0.50%レンジに引き上げた。一方で声明文とイエレンFRB議長会見を通じて、今後の利上げペースは緩やか(gradual)であることを強調するだけでなく、保有債券を再投資する既存政策の維持により、緩和的な金融環境を保つ構えを明確に示した。

市場の大きな混乱は招かず、待った甲斐のあるクリスマス・プレゼントと言えよう。イエレン・サンタの贈り物、利上げのキーワードは「gradual」だ。FOMCメンバーの政策金利見通し(ドットチャート)の中央値に沿う利上げを考えると、16年1.375%、17年2.375%の水準到達には、16―17年ともに年4回(FOMC年8回開催)の25ベーシスポイント(bp)ペースで利上げを続けていけば可能となる。

しかし、来年も難しい舵取りは続く。利上げは経済指標次第という姿勢である以上、常に不確実性は伴う。米国の直近の「景気の谷」はリーマンショック後の09年6月。戦後の平均的な拡大期間は58.4カ月(5年弱)。今回はこの平均期間を1年半も過ぎ、景気は成熟段階にあるため、いつ後退局面となってもおかしくはない。

また、イエレン議長は会見で「インフレ率が目標を下回っている状況が一時的ではなく、労働市場が引き締まっても変わらないなら、確実にわれわれは利上げを休止する」と述べた。そもそも市場は現時点でFRBの来年の利上げを3回程度しか見込んでいない。かくいう筆者も来年3月、6月、12月の3回の利上げを予想する。当面は次回利上げが3月に実施できるかを見極めていくことになろう。焦点は引き続き賃金上昇と緩やかな成長持続が可能であるかだ。

重要な経済指標は雇用統計、1月29日発表の10―12月期雇用コスト指数(賃金の先行指標)、各種物価動向となろう。1月は10―12月期の企業決算発表シーズンであり、原油安とドル高の影響を吟味する時間帯となりそうだ。

<ECBの闘いは長期戦へ、物価変動に注意>

一方で、12月3日にECBが決定した量的緩和拡大策は、市場では期待外れと受け止められた。ドラギ総裁のリップサービスに対して5人の反対票があり、ECB内は一枚岩ではない。デフレを懸念するECBにとって、日銀がこれまで費やした時間を思えば、デフレとの闘いは始まったばかりだ。

12月発表のECBスタッフの経済見通しでは、16―17年の為替想定が1ユーロ=1.09ドル。さらなるユーロ高は望まれていないだろう。ECBの緩和余地は残されており、3カ月に1回の経済・物価見通しで点検しつつ、半年サイクル(半年延長の区切り)で政策を再考していくと推察される。

それでも15年の痛い思い出は、春にユーロ圏消費者物価が前年比プラスに反転したのをきっかけに、強烈な独国債と通貨ユーロの巻き戻し相場を繰り広げたことだ。その教訓から、来年も予想外の物価上昇に注意が必要な地域である。

<日銀も長期戦の構え、1月追加緩和は望み薄>

15年12月17―18日開催の日銀金融政策決定会合は、結果発表後の混乱という点で記憶に残るものとなろう。日銀は今回の施策が追加緩和ではなく補完である点を正確に伝えるために、発表方法を工夫すべきだったのではないか。同時に筆者が強く感じたのは、市場の日銀追加緩和への根強い期待だ。

15年を振り返っても、物価見通しの下方修正に合わせる形で、特に緩和観測が盛り上がったのは展望レポート発表時の4月、10月だった。結局、日銀は、4月と10月に物価目標の達成時期を後ずれさせるにとどまり、追加緩和は講じなかった。

その点、今回の補完措置は現行政策の維持で2%を目指すための環境を整えた(長期戦の構え)と思われるが、同時に緩和政策の手詰まり感も露呈したように見える。16年も引き続き、日銀の2%目標達成に向けた本気度が問われる展開が続きそうだ。

今回の補完措置導入により、来年1月の展望レポートで原油価格の想定を機械的に修正することによって物価見通しを下方修正しても、追加緩和に動くとは考え難い。10月時点で後ずれした物価目標達成時期(16年度後半)を再度見直すタイミングは来年4月だろう。物価の基調が明らかに変化し、物価2%達成が極めて難しいと判断する状況証拠がそろわなければ、最後の追加緩和検討には至らないとみている。当面は来年度の賃金動向が重要な鍵を握る。

<原油動向は引き続き最大のリスク>

12月4日に石油輸出国機構(OPEC)が新たな生産目標を設定しなかったことをきっかけに、原油安が再び加速している。11日に国際エネルギー機関(IEA)は月報で制裁解除によるイラン増産の影響もあり、世界石油市場の供給過剰状態が「少なくとも16年末まで続く」との見通しを発表。さらには18日、米国で40年ぶりに原油輸出を解禁する法案が成立し、ニューヨーク原油先物(WTI)は一時34.29ドルと約6年10カ月ぶりの安値まで下落した。

昨夏の原油急落から1年5カ月を経て、世界経済に与えた影響を振り返ると、当初想定ほど原油輸入国の交易条件の改善、景気のプラス面が大きく出ていない。一方で米国エネルギー産業の痛手とその悪影響の波及、産油国の景気下振れ、物価上昇率の鈍化というマイナス面が想定以上に大きく感じられた。その結果からは、再び原油安が止まらなければ、世界経済全体へのマイナス面、中央銀行の緩和策長期化が意識されやすいだろう。

筆者は16年の世界経済のテーマを、新興国経済の減速に歯止めがかかるか(年後半に成長率は回復できるか)だと見ているが、原油動向は引き続き最大のリスクだ。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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