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コラム:10月追加緩和は期待薄、統計精度に課題=岩下真理氏
2015年10月23日 / 09:04 / 2年後

コラム:10月追加緩和は期待薄、統計精度に課題=岩下真理氏

[東京 23日] - 筆者にとって10月と言えば、日銀追加緩和の問い合わせに忙殺される日々だ。それは9月にリーマンショックが起きた2008年以降の7年間で、2009年と2013年以外の年は全て10月の金融政策決定会合(2回のうちのいずれか)で追加緩和が決定された実績が物語る。

10月は「日銀秋祭り」なのだ。特に昨年のハロウィーン緩和はサプライズ決定であり、黒田日銀総裁の言葉を額面通り受け取れない気持ちを、市場参加者に植え付けた。

そして今年も、市場は追加緩和観測に振り回されながら、30日会合の結果を待つことになる。過去の事例から、結果発表が13時30分を過ぎると政策変更の可能性が高いようだ。

筆者は前回コラムで、「日銀が追加緩和を検討せざるを得なくなる状況とは、2つの重要指標(生産統計と日銀短観・9月調査)が筆者予想より悪いものとなった場合や、外部環境で中国が今後何も対策を講じず、米連邦準備理事会(FRB)が年内利上げできないとの見方が強まって株安・円高が進行する場合に限られるのではないか」と指摘した。

前者の2つの指標は、弱い生産とほどほどに良い9月短観となり1勝1敗。後者の海外情勢では、26―29日開催の中国共産党中央委員会第5回全体会議(5中全会)で5カ年計画の重点施策発表に伴って景気対策を講じる姿勢が示されれば朗報だろう。一方で米国では、年内利上げ観測は一段と後退したが、幸いにも極端な株安・円高は進行していない。

黒田総裁は7日の定例会見で、展望レポート経済・物価見通しについて、実質国内総生産(GDP)、消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の数字は下方修正となっても、物価の基調の判断とは異なると説明した。また、昨秋との相違点として、企業の価格設定行動の変化と賃金の2年連続上昇を挙げているが、1番目は短期間に変わり得るものではないし、2番目は春闘待ちと言われたに等しい。

10月前半に景気判断を変えなかったので、緩やかな回復シナリオは維持と見るべきだろう。経済・物価見通しを下方修正し、2%の物価目標達成時期を後ずれさせても、追加緩和の検討には至らないとの明確なメッセージだ。筆者は、追加緩和なしとの予想を維持する。

22日の欧州中央銀行(ECB)理事会後の会見では、ドラギ総裁が低インフレ予想の長期化、新興国の景気減速懸念を背景に、「金融政策の緩和度合いを12月の理事会で見直す必要がある」と発言し、追加緩和の可能性を示唆した。さらに中銀預金金利について「今回は議論した」と言及、昨年9月にマイナス0.2%に引き下げた当時の「政策金利は全般に下限に達した」からの方針転換がサプライズだった。

市場は12月の追加緩和催促相場となり、ユーロ安、欧州発の株高・債券高となっている。ECBの姿勢を踏まえて、一部に日銀が追随するとの見方も出ているが、足元の株高・円安進行なら、むしろ日銀は追加緩和をする必要はない。ECBがするなら、日銀も付利を引き下げると考えるのはあまりにも短絡だ。

日銀の付利引き下げは、量的・質的金融緩和の国債買い入れ目標額を円滑に実施するのを難しくさせ、金融機関の収益低下により、金融仲介機能を損なうリスクがある。黒田総裁が7日の会見で付利引き下げを強く否定しており、わずか3週間後に方針転換するようでは、中央銀行の信認低下を招くだけだろう。日欧の金融市場構造の違いもあり、日銀とECBのマイナス金利に対する考え方は明らかに異なる点は留意したい。

<弱い生産統計に死角あり>

それよりも、気になるのは国内統計の精度だ。8月の鉱工業生産指数は速報値で前月比マイナス0.5%と市場予想の同プラス1.0%を大幅に下振れ、8月の輸出動向よりも弱かった。その後、確報値で前月比マイナス1.2%とさらに下方修正された。

経産省によると、9月の大型連休の影響で速報段階では調査できなかった企業があり、新興国経済減速の影響と天候要因で改定幅が広がったという。2013年6月以来の低水準となり、2014年4月の消費増税後の「当面の底」と見られた2014年8月の水準も下回った。これでは、鉱工業生産指数は消費増税前の2014年1―3月期にピークをつけ、すでに下り坂との解釈も可能だ。

しかし、今回の弱い生産統計にはチグハグ感がある。第1に、生産統計は季節調整での異常値処理方法が生産と出荷では異なるが、両者に乖(かい)離が出ている(加えて生産と輸出にも、かい離が広がりつつある)。第2に、昨年に続き8月の生産が弱めになるパターンが続いている。第3に、日銀の企業聞き取り調査に基づく生産予測と経産省の実績値とのかい離が出始めていることだ。

想定される状況は2つ考えられる。まずは日銀が以前、独自に季節調整をかけ直した生産指数を作ったように、季節調整の歪みが生じている可能性だ。もう1つは、製品サイクルの短期化、基準年からの経過に伴う生産構造の変化により、2010年基準の採用品目、そのウェイトが実態から徐々にかい離、実際の生産活動が十分に反映されていない可能性だ。

2000年代前半にも、新三種の神器と呼ばれた製品の生産増にもかかわらず、古い基準年の生産統計では強さが示されず、関連統計とのかい離が問題視された時があった。その説が正しければ、聞き取り調査とのかい離も納得できる。

日銀は景気判断で生産統計を重視しており、急に尺度を変えるはずはない。経産省の生産指数にはテクニカル要因があり、それを差し引きすれば、横ばい圏内との判断に至ったと推察される。

<冴えないGDP統計は実力通りの姿か>

経産省の生産指数では、2四半期連続の前期比マイナスは確実で、7―9期の実質GDPもマイナスの可能性がやや高いものの、まだ決め打ちはできない。9月貿易統計では、輸出よりも輸入の伸びが大きく、外需のマイナス寄与度が1.0%程度と大きくなる見込みだ。

それでも輸入増加は、堅調な内需を示す。8月分家計調査では、実質消費支出(除く住居等)が猛暑効果もあって前月比プラス1.5%と2カ月連続プラス、7―8月平均が4―6月対比プラス1.1%と強めになり、薄日が差した。すでに発表された9月の各種販売統計はシルバーウィーク効果により好調であり、大雨の影響が多少あっても9月家計調査(30日発表)における実質消費支出の前月比プラス、7―9月期のプラスは期待できるだろう。

7―9月期のGDPを総括すると、弱い外需と弱含みの設備投資に対して、堅調な消費と公共部門の綱引き状態でゼロ近傍の成長率となりそうだ。しかし、日本の潜在成長率が低下し、0%台前半と目される状況では、実力通りの姿と言える。それを高めるため、政府は新3本の矢に取り組む必要がある。

なお、米国の定義では実質GDPの2四半期連続のマイナス成長が景気後退とされるが、日本の場合、景気動向指数のヒストリカルDIで認定されるため、生産関連の山・谷の位置が重要となる。筆者は現在の足踏み状態から先行き持ち直しを見込んでおり、当面は景気の山・谷の説明は難しい時期が続こう。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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