November 16, 2015 / 7:53 AM / 4 years ago

コラム:内憂外患の日本経済、追加緩和は必要か=岩下真理氏

[東京 16日] - 東京時間13日の金曜日は平穏に終わったが、海外時間にパリで同時多発攻撃が発生、改めて地政学リスクが意識される状況となった。

過去に大都市で発生した大規模攻撃と言えば、2001年9月11日の米同時多発攻撃、2004年3月11日のスペイン・マドリード列車爆破事件、2005年7月7日のロンドン同時爆破事件が挙げられる。

米同時多発攻撃当時の市場の反応は一時的にドル安・株安というリスクオフ相場となったが、いずれも1カ月程度でテロ前の水準に戻した。他の2つの爆破事件では、さらに一過性のショックにとどまった。今回のパリ同時多発攻撃の場合、発生が週末だったことで材料を消化する時間があったこと、直後の20カ国・地域(G20)首脳会談で議論されることなどから、リスクオフ相場の長期化に至らずに済むと思われる。

なお、ロンドン同時爆破事件当時の英国は景気が停滞していたため、同事件発生から1カ月後に英中央銀行は利下げに踏み切った。その点を考えると、ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁はすでに、12月3日の理事会で追加緩和の要否を判断すると明言しており、ECBの追加緩和決定の可能性は極めて高くなった。筆者は、中銀預金金利の引き下げを予想する。

一方で、リスクオフ相場が長期化しないという前提に立てば、既定路線になりつつある米国の12月利上げは実施されるはずだ。ただし、あくまでも金融政策の正常化であり、その先は不透明感が漂う。インフレ動向にこだわれば、米国の利上げは1回で終わってしまう可能性がある。

足元では原油だけでなく、非鉄金属でも商品価格は下げ止まらない。年内の米利上げ観測が高まってから、ファンド筋の売りが止まらず、代表的な国際商品指数であるロイター/ジェフリーズCRB指数は13日、13年ぶりの安値をつけた。世界的な需要減少、供給増加のミスマッチのもと忍び寄るデフレ圧力は、インフレ目標のある中央銀行にとっては当面の悩みの種となりそうだ。

<日米欧景気に温度差>

16日朝発表の日本の7―9月期実質国内総生産(GDP)1次速報値は、前期比0.2%減、年率換算で0.8%減と2四半期連続のマイナスとなり、市場予想平均の年率0.2%減からやや下振れた。

しかし、予想を下振れたのは在庫の部分であり、在庫を除いた最終需要は前期比0.2%増。4―6月期に弱かった個人消費は回復し、在庫調整は進捗(しんちょく)、さらには輸出も持ち直すという形で、見た目の悪さに比べると中身は改善した。ただし、今回も設備投資の弱さは続いており、過去最高の企業収益および完全雇用に近い状態になっても、景気は足踏み状態と言わざるを得ない。

同じ7―9月期実質GDPの前期比年率の伸びは、速報値で米国が1.5%増、ユーロ圏が1.2%増であることに比べると、日本の0.8%減は弱く見えてしまう。それでも7―9月期は過去の数字であり、重要なのは10―12月期以降に持ち直していけるかだ。

米国では、アトランタ連銀のGDPナウが、13日時点で10―12月は2.3%増と堅調な見通し。ユーロ圏では、けん引役であるドイツで中国経済減速の影響とフォルクスワーゲン問題、フランスで今回の多発攻撃の影響が考えられ、回復の勢いが持続できない可能性がある。

日本では12日発表のESPフォーキャストの11月調査(回答期間は10月29日から11月5日)では、予測平均で7―9月期の落ち込み(前期比年率0.13%減)から10―12月は持ち直す姿(同1.37%増)が示されている。以下、個別項目をチェックしてみよう。

<日銀は様子見の可能性大>

まず7―9月期の個人消費は前期比0.5%増と、4―6月期の同0.6%減からプラスに転じた。プレミアム商品券を使った消費の活発化に加え、4―6月期にあった天候要因は剥落、軽自動車は増税による販売不振から持ち直した。

雇用者報酬は前年同期比で実質1.6%増と、4―6月期の同0.7%増に続き、2四半期連続のプラスでプラス幅も拡大。所得面の後押しもあったとみられる。10―12月期については、新車販売が10月分で前月比2.5%増(当社季調値)と3カ月連続のプラスであり、滑り出しは順調。今後も新車投入効果が期待されている。

また、冬季賞与支給に伴い、所得環境の改善が続くと見込まれること、冬場の値上げ報道が少ないことなどから、消費は底堅く推移すると予想される。12日時点の日経・東大日次物価指数の1週間平均を見ると、前年比1.47%(直近ピークは9日の1.66%)上昇、月次では10月1.25%(9月1.25%)上昇と物価上昇に一服感が出てきた。

ただし、設備投資は前期比1.3%減と、4―6月期の同1.2%減に続き2四半期連続のマイナスとなり、各種設備投資計画の強さとは対照的な弱い動きが続いている。設備投資の先行指標である機械受注(除く船電・民需ベース)は、7―9月期が前期比10.0%減と2009年1―3月期以来の大幅マイナス。海外経済の先行き不透明感を背景に、受注の手控えが浮き彫りになった。10―12月期は前期比2.9%増と持ち直す見込みだが、手控えムードが続くようなら、下振れる可能性が高い。

それゆえに、今年の官民対話は設備投資を促すことから始まり、アベノミクス第2ステージの具体的取り組みの一番に、法人税改革(早期に20%台に引き下げ)や省力化・省エネ・環境対応投資の促進、規制改革などが挙げられている。政府は税制や制度面を整えるので、あとは民間が取り組むかどうかである。民間にボールが投げられており、不確実性が伴う。

最後に輸出は前期比2.6%増と2四半期ぶりのプラス。好調な米国向けに対して、当面はアジア向けの弱さが懸念される。

なお、10月の米中製造業景況指数の新規受注が好転し始めた。筆者は前回コラムで、生産統計について季節調整の歪みか生産構造の変化の可能性を指摘した。8―9月生産の前月比の振れ方は、8月の天候要因、今年9月についてはシルバーウィークの影響もあるが、ITサイクルが従来のパソコンOSからスマートフォンに主役交代、短期化が影響している可能性が大きいと思われる。

10日の米ニューヨーク市場では、iPhone受注減少との見方でアップル株が下げた。今後、10―12月期の計画から下方修正はやむなしだが、7―9月期から持ち直す方向性は見えている。また、インバウンド消費(非居住者家計の国内での直接購入=輸出に含まれる)は実質ベースで2.84兆円(4―6月期2.54兆円)、GDP全体への寄与度もプラス0.1%となったのは明るい材料だ。

結局、日本のGDPは2四半期連続のマイナスとなったが、日銀のシナリオが大きく崩れるわけではない。その対応は政府の補正予算だけで十分と筆者は見ている。

6日の黒田日銀総裁講演では、新興国経済減速の影響を見る上で重要なポイントは、「企業のコンフィデンス」と明言した。筆者は12月14日発表の12月短観での事業計画(企業収益、設備投資)の下方修正はやむなしと見るが、問題はその下方修正度合いだろう。それでも日銀が最後の追加緩和を検討する可能性があるなら、物価の基調が弱まる、もしくは企業のコンフィデンスが大きく下振れる場合(賃金動向で来年4月)か、急激な円高・株安進行時だろう。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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