August 25, 2014 / 1:22 AM / 6 years ago

コラム:煮え切らないイエレン議長講演が示すもの

[22日 ロイター] - 米国の大統領だったハリー・トルーマンは「片腕の」経済学者を連れてきてほしいと懇願した。彼の経済アドバイザーたちがいつも「一方で(on the one hand)かくかく、他方で(on the other hand)しかじか」と言うのにうんざりしていたからだ。

8月22日、ジャクソンホール会議で米FRBのイエレン議長(写真左)が行った講演は、米経済の状況に関して多くの代替的な説明をし、発言の大部分は不確実性と何の約束もしないという姿勢に占められたと、ジェームズ・サフト氏は指摘する。21日撮影(2014年 ロイター/David Stubbs)

22日のジャクソンホール会議で米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長が行った講演は、まるでトルーマンの悪夢から抜け出してきたような内容で、米経済の状況に関して非常に多くの代替的な説明をしており、議長の姿は「千の手」を持つ古代インドの女神をほうふつさせる。

この講演を考える上での1つの方法は、世界全体、特に現代の経済は単純に「タカ派」ないし「ハト派」の二者択一に帰結させてしまうにはあまりに複雑で茫漠としていることを、正しく認めたのだと判断することだろう。

もう1つの方法もあるが、上記と矛盾することはない。つまり今後情勢がもっとはっきりしてくるまで何も大きなことは起こらないのだと認識することだ。そして議長の講演からすると、情勢は近々には明確化しないかもしれない。これは早期利上げがないと予想するに等しいが、FRBの中でなぜ利上げしないかをめぐる議論を白熱化させることにもなるだろう。

確かに、議長の講演は煮え切らなかった。パンテオン・マクロエコノミクスのイアン・シェファードソン氏が指摘するように、議長の発言中には「可能性がある(could)」が21回、「しかし(but)」が20回、「であろう(would)」が11回、「もしも(if)」が13回、「かもしれない(might)」が7回も登場した。

以下に示す重要な発言部分自体も、不確実性と何の約束もしないという姿勢の集大成といえる。その発言とは「労働市場にどの程度のスラック(緩み)が残存するかを判断することも、 FRBの二大責務と一致する雇用水準をめぐりかなりの不透明性が存在するため、ニュアンスを読み取ることが一段と必要になっている 」というものだ。

議長はこの不確実性を「多くの側面(hand)」とともに提示している。

一方で失業率は低下し続け、他方では労働者はパートタイマーにとどまっているか、労働人口の外にいるか、職探しをあきらめている。また別の一方で、労働市場の構造変化が深刻な景気後退によってもたらされたかもしれないが、賃金は横ばいが続き、生産性よりも伸びが小さい面がある。そしてわたしの勘定で5つ目となる側面は、こうした状況が「ペントアップ賃金デフレ」に起因している可能性だ。ほかにも人口動態の問題や、技能の低い労働賃金への影響、長期失業者をめぐる側面もある。

これらの側面が描き出すのは、決して明瞭とはいえない光景ではあるが、事実上のゼロ金利を解除するには事態がはっきりしてくるまで待たなければならない可能性が大きいことを浮かび上がらせている。

<ルール化の拒絶>

イエレン議長の講演から簡単に導き出せる結論は、議長がFRBの政策運営をルール化せよという要求を強く拒絶しているということだ。スタンフォード大学のジョン・テイラー教授を中心としたグループは、金融政策運営のルールを法制化し、マネーサプライなどの特定指標をFRBに選ばせて、あらかじめどのような政策を行うかを定義させようとしている。

だが現在のように様々な事態が想定できる中で、これらすべてをカバーするようなルールを策定することなど、果たして可能なのだろうか。

例えば、比較的新しい概念で、景気後退期に名目賃金をなかなか下げられなかったことの後遺症であるペントアップ賃金デフレについて考えてみよう。つまり、賃下げが限定されていた分だけ、景気が回復しても企業に対する賃金引き上げ圧力は弱い。ゆっくりと賃金が上がった後に、賃金上昇ペースが加速すると考えられるかもしれない。現在緩やかに上がっていて、そのうち加速し始めるといったことでは、政策担当者が賃金から的確なシグナルを得るのは理論的にはより難しくなる。賃金上昇ペースが幾分遅れを取り戻すのを容認してから利上げするという理論が形成されるかもしれず、それは興味深い可能性ではあるものの、これと競合するいくつかのケースも同じぐらい現実味を持つ。

金融市場は、イエレン議長の講演を全体としてややタカ派的と受け止めた。議長がタカ派的な側面の議論についてより進んで言及したように見えたからだ。確かに議長は、恐らくは現在想定しているよりも早めに利上げする必要性を示すことに積極的になっている。だが、現実にそうなると見込むというのはまた別の話になる。

これは根本的に正直なポジションだが、市場が織り込むのは困難でもある。今後新しい材料を示すデータやイエレン議長からの新たな発言がない限り、市場の期待は今回の講演前とほとんど変わらない地点にとどまるとわたしは予想している。

恐らくは来年中に利上げがあるだろうが、その前に議長が示した数多くの不確実性を取り除けるようになることが先決だ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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