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コラム:「救世主」ECB登場で注目すべき通貨=山本雅文氏
2015年10月26日 / 09:28 / 2年後

コラム:「救世主」ECB登場で注目すべき通貨=山本雅文氏

[東京 26日] - 欧州中央銀行(ECB)は22日の理事会で、マイナス金利拡大を含むあらゆる追加緩和措置を検討しており、12月3日の次回理事会で発表する可能性があるとした。

追加緩和をめぐる直近のECB高官発言はまちまちで市場の追加緩和期待は高まっていなかったことからサプライズとなり、ユーロが急落、対価としてドルと円が上昇した。

ユーロドルやユーロ円の下落は主にユーロ安の影響が大きいが、ドル円上昇の背景には、ECBの追加緩和姿勢を受けて日銀が次回30日決定会合で追加緩和を決めるとの思惑を背景とする円売り圧力があったようだ。これは、市場の一部に「金融緩和競争=通貨安競争」という意識が残っているためだろう。確かに、金融政策の為替相場に対する影響は非常に大きい。

ただし、特に現在の日欧を中心とした中央銀行が行っている資産購入を通じた量的緩和政策の下では、為替相場を通じた金融政策波及チャネルだけでなく、株価を通じた波及チャネルも同等かそれ以上に重要となっている面も忘れてはならない。

政策金利の変更は、比較的直接的に企業や家計の資金調達コストに影響を与え、実体経済に影響を及ぼすことになるが、資産購入を通じてマネタリーベースを増やす量的緩和策の場合には、国債などの資産購入を通じた中長期債利回りと銀行貸出金利・設備投資への影響は金利政策ほどには直接的ではない。むしろ経済に流通するマネー量の増加が株式投資資金を増加させ株価を押し上げるはずだ、という心理的な株価上昇効果の方が大きいとみられる。

なお、今回ECBが追加緩和手段としてマイナス金利のさらなる拡大に触れたことで、12月理事会での追加緩和策としてマイナス金利拡大を予想する向きが多くなっているが、現在の期限である2016年9月以降への資産購入期間の延長も、いずれ行われる可能性が高い状況は変わっていない。

<日銀はECBのおかげで追加緩和カード温存か>

為替だけでなく株価への影響も含めて、ECB追加緩和の日銀への影響を考えてみよう。ECBの追加緩和期待の高まりで、為替市場では対ユーロで円高が進行したが、対ドルでは円安となったため、日本にとって為替を通じた金融引き締め効果はあまり無かったと言えよう。

他方、ECB追加緩和期待は世界的な流動性相場への期待感を高め、日本の株高にもつながった。この面では金融緩和効果があり、日銀追加緩和の必要性は低下することになる。

そもそも、日銀は目標としていた消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)のマイナス化にもかかわらず、エネルギーを除く基調インフレに焦点をシフト、政府も円安による物価上昇のマイナス面を意識し、2四半期連続のマイナス成長でも金融政策ではなく補正予算による景気対策を考慮している模様だ。つまり、年内の追加緩和の可能性はもともと低かった。

ECB追加緩和でも日銀が追加緩和をする必要性は高まっておらず、むしろECBが中国の代わりに国際金融市場の安定化の役割を担ってくれれば、日銀はそれに「ただ乗り」して将来のさらなる状況悪化に備え追加緩和カード温存を図るだろう。

<逆にFOMCの12月利上げ開始確率は上昇へ>

一方、米連邦公開市場委員会(FOMC)の12月利上げ開始の可能性は高まりそうだ。確かに、ECBの追加緩和は対ユーロでのさらなるドル高をもたらすが、少なくともECB理事会後の為替市場全体の動きをみると、アジア通貨やメキシコペソなど新興国通貨も上昇したことから、対価としてドルは下落しており、為替の面から米国に金融引き締め効果はあまり生じていない。

むしろ、米利上げで調整が懸念されている米株価が下支えされたことから、ECB追加緩和期待が米国に利上げをしやすい環境を整えたとみることもできる。株価や新興国市場に配慮したかたちで米国が利上げ開始に踏み切るには、十分な事前のコミュニケーションとともに、やはり将来の利上げペースをさらに緩やかに設定することが重要となる。

さらに、23日に中国人民銀行がタイミングとしてはサプライズとなる追加緩和を発表し、世界的に株価押し上げ材料となったことも、米国の利上げの可能性を高めることとなった。その証拠に、中国の金融緩和発表後には米中長期債利回りが上昇、ドルが対主要通貨で上昇した。

9月FOMC時点でのFOMC参加者のフェデラルファンド(FF)金利予想では、2016年中に1%ポイント、すなわち2回のFOMCで1回の利上げペースが想定されていた。これを半分程度の年間0.5%ポイント程度の利上げとしておけば、半年に1回、4回に1回のペースでの利上げとなり、市場が待ちくたびれるほど緩慢なペースとなる。

これは、インフレ圧力が高まっておらず、製造業など一部で弱さがみえている米国経済にとっても、自国通貨安・インフレ高騰・金利上昇・景気低迷という悪循環に陥っている新興国にとっても恩恵があるはずだ。

<投機マネーのドル円離れ加速か、波乱要因は人民元安>

すなわち、米利上げは年内に始まるにしてもかなり緩慢なペースとなり、ドルも上昇しにくいと同時に、日銀も追加緩和をする必要性が後退し円安圧力も弱まる。

ECBが救世主として再登場した「ゴルディロックス」(強すぎず弱すぎず)的な状況では、ドル円は120円を中心とした方向感のないレンジ相場が続くことになるだろう。短期的なリターンを求める投機マネーはますますドル円離れを起こすだろう。

これに加えて、中国当局による金融緩和や景気対策が成果をあげ始めれば、さらに市場全体のリスク回避傾向が後退し、新興国にも資金が流れやすくなるだろう。

こうした中、取り残されがちなのはコモディティーと関連するコモディティー通貨だ。コモディティー市場は全般的に供給過剰により価格低迷が続いており、中国が昔ながらの大規模インフラ投資拡大策をとる可能性が低い中で、需要面からの押し上げも期待し難い。ECBの追加緩和でも、コモディティー需要の明確な回復にはつながらない。中国の金融緩和発表でも、コモディティー価格は上昇しなかった。そうした「古い中国」への依存度が高いオーストラリア(豪)ドルなどの本格的な上昇局面への回帰は相当先になりそうだ。

ただし、コモディティー通貨の中でも例外はニュージーランド(NZ)ドルで、ニュージーランドの主要産品である乳製品はむしろ中国の消費主導経済へのシフトや「一人っ子政策」の見直しの恩恵を受けやすく、中国の景気減速の悪影響を受けにくい。乳製品市場も欧州とロシアの間のウクライナ問題をめぐる禁輸措置などの影響を受け供給超過状態となったが、8月以降オークション価格は大きく反発しており、底入れの兆しもうかがえる。

波乱要因は中国人民元となるかもしれない。8月11日に唐突な切下げを行った後は、中国当局の元買い介入もあって人民元は反発基調となったが、長期的な実質実効ベースでの人民元の割高感はほとんど解消されていない。このため、米利上げなどを受けた緩やかな(自然な)ドル高進行に合わせて、中国当局は再び元安誘導に舵を切る可能性が残っている。

すでにドル人民元相場は9月下旬の習近平国家主席の訪米や10月初めの国慶節を通過した後、静かに元安方向となり始めている。23日の金融緩和後も、オフショア人民元(CNH)相場はやや元安方向となっている。元安トレンド再開と市場が解釈した場合の、中国からの資金流出ペース再加速や、他のアジア通貨の連れ安圧力といった事態が避けられるかは、これまでの中国当局による市場対策の失敗をみるに、一抹の不安が残る。

*山本雅文氏は、マネックス証券シニア・ストラテジスト。日本銀行で短観調査作成、外為平衡操作(介入)や外為市場調査・モニタリングに従事した後、ドイツ・フランクフルト駐在を経てセルサイドに転出。日興シティグループ証券で通貨エコノミスト、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド銀行東京支店およびバークレイズ銀行東京支店で日本における為替ストラテジーチームのヘッドを歴任後、2013年8月に外為投資に関する調査・分析・情報発信を行うプレビデンティア・ストラテジーを設立。2015年4月より現職。国際基督教大学卒業。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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