February 5, 2018 / 5:50 AM / 6 months ago

コラム:米株式投資、高値恐怖症に打ち勝つヘッジ手法=竹中正治氏

[東京 5日] - 歴史的な高値更新を続けていた米国株式が、長期金利の上昇(10年物米国債利回り2.85%、2月2日引け)を受けて反落し、神経質な展開となっている。

下落幅はダウで1月の高値から4.1%、S&P500で同じく3.8%にすぎないが、波乱なしの堅調推移が長く続いたので、ちょっと冷や水を浴びた感じなのだろう。本格的な調整・下落局面の始まりか、それとも一時的な小反落で押し目買いの好機か。そんな短期の予想は本当のところは誰にも分からない。

当たり外れのある短期の予想に依存した投資姿勢は不安定で長期的にも報われない。むしろ大局観に立ち、米国株と長期債についてポートフォリオ上の比率を見直す形でリスクヘッジを始める局面が到来したように思える。

現下の株価反落の原因とされる長期金利の上昇も、将来の米国株下落への効果的なヘッジ機会を提供してくれる。ドル円相場のリスクヘッジも含めて、この点を考えてみよう。

<効果的なリスクヘッジは可能>

2018年の米国景気の上振れと企業利益の伸び期待を背景に、株価指数S&P500で見ると株価収益率(PER、直近12カ月決算報告ベース)は25.8、10年平均の1株当たり実質純利益をベースにしたシラーPER(CAPEレシオ)では33.4(いずれも2月2日時点)と高騰している。シラーPERの水準はITバブルのピークだった1999年12月に44.2と歴史的に突出した高値を付けたが、現在の水準はそれに次ぐ高さだ。

投資経験の浅い人には「チャートなどを見て、下がり出したら売れば良いだろう」と思う人も少なくないようだが、投資経験が長い人ほど、それが困難であることを知っている。もう上げトレンドも終わりと思って売り、その後の長い続騰による利益を逸する人は多い。

しかし、合理的なヘッジ(リスク回避)手段を使いながら、下落リスクを緩和しつつ、長期的なリターンを向上させることは可能だ。実際、今日では当然のものとなった分散投資、あるいはそれを簡便に利用できるようにしたインデックス投資ファンド自体、そうした発明の1つだ。

ただし、S&P500連動のインデックス投資(ドルベース)でも、1950年までさかのぼって景気回復期から景気後退期に株価指数がどの程度下がったかを見ると下落局面が10回ある。さらに景気後退にはならなかったが、30%以上の下落が起きたことが2回ある(1987年と2002年)(参照コラム:「次の米景気後退と株価下落余地を考える」2018年1月10日付)。これら12回の直近高値からの平均の下落率は31.2%、下落率最大は57.7%(2007―09年)、最小は14%(1959―60年)である。

1950年以降のS&P500の年率リターン(配当再投資ベース)は9.6%と実に高い。しかし、1950年以降で12回も生じている平均30%余りの株価の下落に耐えられないと、その高リターンは獲得できないのだ。

しかも、次回も米国の景気後退時には、世界的な投資家のリスク回避で恐らくまた円高に振れるだろう。従って、日本の投資家が円資金で投資する場合には、ドル相場の対円での下落も考えると米国株の円ベースの下落率は30%程度では済まない可能性が高い。

米国株の下落と逆相関の変動をすることでポートフォリオのリスクを軽減する効果があるのは米国の長期債券である。日本でも内外の株式と債券に分散したポートフォリオを抱える機関投資家にとっては、これは承知のことであるが、日本の個人投資家にはなぜか根付いてこなかった知恵だ。

掲載図はS&P500連動のETF(IVV)と長期米国債(7―10年物)連動のETF(IEF)について、それぞれ片方のみと、双方を50%ずつ保有した場合の時価資産額の推移を示したものだ(いずれも配当・利息再投資、ドルベース)。S&P500のみのポートフォリオでは年率リターンは9.8%と高いが、2007年から2009年の底値にかけて約51%も下落している。

自分のポートフォリオの価値が半分に減少することに平気で耐えられる人はあまりいない。その結果、多くの人は不況の時こそ千載一遇の株式の買い場であるにもかかわらず、追加投資ができず、最悪の場合は投資を打ち切ってしまう。

しかし、長期米国債連動のETFは、ほぼ同じ期間に約30%価値を増加している。金融緩和で長期債券価格が上昇(利回りが急落)したからだ。その結果、双方を2002年7月のETF開始時点から50%ずつ保有しているポートフォリオでは、同じ時期の価値の減少は23%に緩和されている。

<米株と米長期債の合成で高パフォーマンス>

3通りのケースの年率リターンとリスク(年率換算標準偏差)は掲載図表に記載した通りである。ここでのリスクとは、資産価値の月次変動を年率換算した標準偏差で示したものだ。分かりやすく言うと、例えばリスク10%とは、1年間の変動として上下10%の範囲に収まる確率が約3分の2であることを示す。

投資のパフォーマンスは一般に年率リターンをリスクで割ったシャープ・レシオで示される。株と長期債50:50の合成ポートフォリオが、この3つの中ではシャープ・レシオが最も高く、高パフォーマンスだと言える。その理由は、株式と長期債券の価格が逆相関で動く傾向があるためで、逆に動く分だけポートフォリオの変動が緩和され、リスクが減じるからだ。

ただし、長期債をまだ利回りが低い時点で購入してしまえば、その分だけリターンもヘッジ効果も低下する。従って、景気回復の後期に金融政策が引き締められ、長期債の利回りができるだけ高い局面で長期債をポートフォリオにどれだけ組み込むかが、ヘッジの巧拙となる。

私自身の経験を言えば、2006年の秋に10年物米国債利回りが5%余りだった時に、10年物ゼロクーポン債を米国株(S&P500連動ETF)と6対4の割合で保有(株式が6割)したので、リーマン・ショック時の株式の評価損を緩和することができた。

当時の急激な円高・ドル安に対しても、FXトレードのドル売り持高で90%のヘッジ率を維持していたので、動揺することはなかった。 同債券が満期償還を迎えた後は、米国の長期債券利回りは低過ぎると判断し、保有してこなかった。しかし、10年物利回りで3%前後の水準からは、また分割して買い始めようと思っている。

ただし、現物の債券を買うと時間の経過で償還までの期間が短くなる。そのため1%の利回り変化に対する価格変動が次第に小さくなるので、自分で入れ替えをしなくてはならない。その点で、昨年から東証に上場された「iシェアーズ・コア米国債7―10年ETF(1656)」は、ファンドの運営者が7―10年物で運用するように入れ替えてくれるので、こちらを買うのも良さそうだ。

次の景気後退までに10年物米国債の利回りはどこまで上がるだろうか。恐らくせいぜい3%台から4%までだろう。日本ほどではないが、米国経済もリーマン・ショック後は構造的な変化をきたし、インフレ率も賃金伸び率も上がらない傾向が強くなっている。今年から来年にかけて見込まれる景気の上振れでも、10年物米国債利回りがリーマン・ショック前のピークである5%前後まで上昇する可能性は非常に低いだろう。

<日米金利差拡大なのになぜ円高か>

米国の景気後退時にまた起こるだろう円高・ドル安で生じる為替差損のヘッジは、日本の投資家としては投資のパフォーマンスを左右する大きな要素だ。まず今年1月に起こったトランプ減税成立後の米国景気の上振れ期待とそれに伴ったドル長期金利の上昇(日米金利差の拡大)にもかかわらず、108円台までの円高が進行した逆説的な事情をどのように理解したら良いのだろうか。

首をひねっている人が多いようだが、新しいニュースや経済・金融面でのマクロの変数が相場にどの程度の影響を与えるかは、その時々の市場参加者の総体的な持高の傾きに依存していることを念頭に考えれば、それほど不思議なことではない。

例えば、市場参加者の持高が総体的に円安期待で大きく円売り持高に傾き、相場も円安が進行した後では、さらに円相場の下落を示唆するニュースや経済・金融の変化が起こっても、円相場はそれほど下落しないことが多い。むしろ既存持高の巻き戻しで円高に振れることすらある。逆に円買い持高に傾き、円高が進行した後では、同様の円安ニュースが起こると、市場は過敏に反応して急激な円安が起こる。

少し時間を巻き戻して振り返ってみよう。2016年初、アベノミクス始動から満3年を経ても消費者物価上昇率は政策目標の2%に届かないどころか、前年同月比でマイナスにさえなった。その結果、日本の物価上昇=円安期待で維持されてきた既存の円売り持高の手じまい、さらに円買い持高への転換が起こり、1ドル120円から99円台まで急速に円高が進行した。

日銀が2016年1月に発表したマイナス金利の導入も円安効果をもたらさなかった。それは市場参加者の既存持高が総体的に円売りに傾斜しており、しかもその円売り持高の持続に自信を失い、持高を巻き戻す(円買い戻し)過程だったからだろう。

その後2016年11月の米大統領選の直前ごろから、トランプ候補が勝利した場合には同氏の公約の大減税や巨額インフラ投資が起こり、米国景気は上振れ、長期金利も上昇する可能性が高くなると市場参加者は真剣に考え始めた。そしてトランプ氏勝利で一気に長期金利上昇、ドル高・円安になった(参照コラム:「トランプ相場はまだ序章、大減税の衝撃」2016年11月21日付)

ここで注意すべき点は、日米の長期金利差とドル円相場の変化は、2016年夏までほとんど無相関だったことだ。しかし、2016年初以降は市場参加者の既存の持高がすでに円買いに傾斜し、円高に振れていた。そのため日米金利差拡大という円買い持高に不利な金融情勢変化への過敏な反応が起こり、円買い持高の巻き戻し、つまり円売りとなり、同年12月には118円台までの円安が進行した。

もちろん市場の総体的な為替持高の傾きを示すリアルタイムのデータはないが、例えばシカゴIMMの非商業筋の先物持高は、世界中の為替持高の傾斜を「氷山の一角」として代表するものと考えられる。以上筆者が述べたことは、このシカゴIMMの持高の変化と整合している。

<中期的な円高ドル安へのヘッジが不可欠>

こう考えれば、1月にドル長期金利の上昇(日米金利格差拡大)にもかかわらず円安ではなく、円高に動いた事情は次のように理解できる。

すなわち市場参加者の既存の持高がかなり円売りに傾き、しかもユーロ圏の景況感の改善に支えられたユーロ高・ドル安の急速な進展で、市場参加者が対円でのドル買い持高の持続に自信を失いかけていた。その結果、ドル長期金利の上昇は、新たなドル買い・円売りを起こさず、逆に部分的に既存の円売り持高の巻き戻し(円買い)が起こったのだろう。

円高への動きの理由として、日銀の政策変更の可能性を強調するコメントもあるが、実際に進行したドル長期金利の上昇に比べれば、実に微弱な円高材料でしかない。要するに既存の持高が一方向に傾き、しかも市場参加者がその持続に不安を感じ始めている時には、「水鳥の羽音にも、すわ敵襲か」という過敏な相場反応が生じるということにすぎない。

筆者のドル円相場に関する中期的なスタンスは、昨年9月のコラム「実質ドル円相場が示唆する円高回帰」(2017年9月12日付)から変わっていない。1973年以来のドル円相場を見ると、実質相場指数がすう勢的な平均値から大きく乖離するドル高(円安)の山は6回、ドル安(円高)の谷は5回あり、現在は6番目のドル高の波の最終局面が始まっていると判断している。

次の米国の景気後退期には再び1ドル90円、80円の水準の円高も自然な結果だろう。もっとも、前掲1月のコラムで書いた通り、米国の次の景気後退が始まるまでには、恐らく1年以上の間があるので、米国の10年物国債利回りの上昇余地もまだあり、一気に円高・ドル安になる可能性はまだ低いだろう。従って、先物予約やFXトレードなどで円高・ドル安へのヘッジができていない投資家にとっては、目先1年かそこらがドル売りヘッジをするラストチャンスになるかもしれない。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職。経済学博士(京都大学)。最新著作「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社、2013年5月)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

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