April 24, 2018 / 1:44 AM / a month ago

コラム:米国株に黄信号、1月の高値超えられない訳=竹中正治氏

竹中正治 龍谷大学経済学部教授

 4月24日、龍谷大学経済学部の竹中正治教授は、米国株が今年1月の高値を年内に大きく更新することはあまり期待できず、むしろ戻り高場面では多少売って米国株の比率を下げるか、部分的にヘッジをした方が良いと指摘。写真はニューヨーク証券取引所。2016年12月撮影(2018年 ロイター/Andrew Kelly)

[東京 24日] - 米国の株価指数S&P500は今年1月26日に高値2872.87を付けた後、ボラティリティー・インデックス(VIX指数)を巡るショックで久しぶりに高値から10%強の反落となった。

その後もフェイスブックの情報流出問題、トランプ米大統領による「アマゾン・ドット・コムたたき」、「米中貿易戦争」など、投資家心理を冷やす悪材料が相次ぎ、安値の更新はないものの方向感のない上下動が続いている。

今年1月のコラムで当時のVIX指数の歴史的な低水準への下落が、むしろ次の株式市場の激震を示唆する不気味な予兆であると指摘したが、それは早くも2月初旬の「VIXショック」として実現した(参考コラム:「次の米国景気後退と株価下落余地を考える」2018年1月10日付)。

こうした状況下、企業利益予想が前年比で2桁%の増益予想を維持していることが投資家の心の支えになっているようだ。筆者も今年いっぱいは米国景気が失速することはないと考えている。

しかし、米国株が今年1月の高値を年内に大きく更新することはあまり期待していない。むしろ戻り高場面では多少売って米国株式の比率を下げるか、何かしら部分的にヘッジをした方が良いだろうと判断するに至った。この点を説明しよう。

<米株価指数変動を左右する3つの要因>

株価指数の短期の変化については、安定的な説明あるいは予想はほとんど不可能だと考えている。株価は短期的には、マクロ的な経済金融動向から、ビジネス、政治に至るまで実に多くの要因で変動するためだ。しかし、もう少し中期での株価指数の変化、例えば前年同月比の変化ならば、比較的少数のマクロ経済・金融データを使った回帰分析でかなり説明ができる。その点をまず示そう。

中長期の株価指数の変化を左右する第1の要因は1株当たり利益(EPS)だ。ここでは過去12カ月報告ベースのS&P500を対象にしたEPSを使用する(データ:Online Data Robert Shiller, Yale University)。ただし、S&P500のEPSの前年同月比の変化を取ると、金融危機と大不況の2009年前後の変化が大き過ぎて(数百%の減少率と増加率)、線形の回帰分析に適さない。そこで、ここではEPSの長期的なすう勢値(短期の変動を均した指数近似値)からの乖離率を変数に採用しよう。

第2の要因は、VIX指数だ。これは、投資家のリスク許容度を示す指標として有効だ。

VIX指数はS&P500のオプション取引から計算された変動率(ボラティリティ―)に基づく指標である。穏やかな株価の上昇基調が続いて投資家層が楽観的になり、リスク許容度が高まるとVIX指数は低下する。逆に市場に何か悪いショックが起こって投資家層が悲観的になり、リスク許容度が低下する(=リスク回避が強まる)とVIXは上昇する。そのため株価の変動とVIX指数には負の相関関係がある。VIX指数については前年比(差分)をとって変数に採用しよう。

第3の要因は長期金利で、10年物米国債利回りの変化(前年同月比差分)を使う。金利が上がると株価が低下するとイメージしている方もいるかもしれない。短期ではそういう局面もある。特に金融政策が緩和から引き締めに転じる局面では、株価の短期的な反落が起こりやすい。

また、株価のファンダメンタルな価値は、企業の将来にわたる純利益を割引率(=無リスク資産利回り+リスクプレミアム)で割り引いたものと考えられる。従って、長期では国債利回り(=無リスク資産利回り)の上昇は株価の下落、逆に国債利回りの低下は株価の上昇をもたらすという負の相関がある。

しかし、景気循環を反映する程度の中期では、長期国債利回りの上昇は景気回復の進展や上振れを伴っており、長期金利の上昇は株価の上昇(逆は逆)という正の相関関係が見られる。今回の対象はこの中期の変化である。

2000年1月から2017年12月の期間についてS&P500(月末引値)の前年同月比(%)の変化を、以上の通り、1)EPSの変化、2)VIX指数の変化、3)10年物国債利回りの変化で回帰分析し、得られた推計値と実績値を示したのが下の掲載図だ(図では最近の変化をズームアップするために2010年から描いた)。

S&P500と各3つの変数の関係はいずれも有意(関係性が偶然ではない)であり、説明度を示す決定係数は0.77と高い。これはS&P500の変化の77%を説明できていることを意味する。この種の市場相場変動に関するマクロ経済・金融データによる説明度としては、これはかなり高いものと言える。

各変数(要因)とS&P500の関係を見ると、EPSの長期すう勢値から10%の上方への乖離はS&P500を前年同期比で約2.7%押し上げる。VIX指数の前年同月比10%ポイントの上昇はS&P500を同様に約8.1%押し下げる。10年物米国債利回り1%ポイントの上昇はS&P500の同6%上昇に対応している。

<1月の高値は期待先行>

掲載図が示す通り、S&P500は「トランプ減税」が連邦議会で可決された昨年11月頃から一段と上昇し、昨年12月末時点で前年同月比18.6%、今年1月末で同22.6%に達した。推計値も上がってはいるものの、そこまでは伸びず、昨年12月末時点では前年同月比8.4%にとどまっている。

これは減税による税引き後企業利益(EPS)の増加や景気の上振れ期待を株価が先行的に織り込んだ結果だろう。一方、推計値は過去12カ月のEPS実績値に基づいている。その結果、実績値と推計値の乖離が広がったのである。

問題は1月に直近の高値を付けたS&P500が、どの程度のEPSの増加を織り込んでいるのか。果たして過剰な期待によって押し上げられていないかどうかである。これを推測するために2018年12月まで推計値を延長してみよう。

まず、最新のトムソン・ロイターの集計(4月20日時点)によると、S&P500ベースの企業利益の予想伸び率は、2018年第1・四半期の20%(前年同期比)から2018年第4・四半期は同19.1%と予想されている。そこでEPSについてはこの予想を想定値として使用する。

ただし、アナリストの企業利益予想は総じて楽観的なバイアスがあるので、これは楽観シナリオである。VIX指数は今年3月末時点20%から12月には2010年以降の平均値である17.4%に穏やかに低下すると想定、10年物米国債利回りは2018年4月末以降3.0%としよう。

一方、悲観シナリオではEPS伸び率は2018年第1・四半期の20%から次第に低下し、2018年第4・四半期にはゼロ%成長となると想定し、残り2つの要因は楽観シナリオと同じとする。

これら楽観と悲観シナリオの2つの想定に基づいて今年12月までの延長した推計値を図表に示した。青色線の楽観シナリオではS&P500の前年同月比伸び率は12月末にはプラス8.8%となる。これをトランプ減税成立で株価が一段と上昇し始めた2017年第4・四半期のS&P500の月末平均水準(2605)を起点に計算すると、2018年12月の予想水準は2833となる。これは今年1月の高値2872.87より1.4%低い。一方、悲観シナリオでは今年12月の予想水準は同様の計算で2693となる。これは同様に1月の高値より6.3%低い。

以上まとめると、S&P500で見た米国株価は今年1月に高値を付けた時点で、現在予想される2018年中の企業利益(EPS)の高い伸び率を織り込んでしまっている可能性が高い。従って、今年中、期待通りに企業利益が伸びても株価指数が1月の高値を大きく更新する可能性は、控えめに言っても高そうではない。

もちろん、こうした確率的な推計値は、現実が想定通りとなってもぶれを伴うものなので、過信は禁物だ。また、これは無数にあり得る想定のうち、2ケースだけを示したものであり、上振れ下振れともにさまざまに起こり得る。

例えば「米中貿易戦争」の深刻化、シリアやイランを巡る中東情勢の紛糾、北朝鮮情勢の緊迫化、企業利益の予想比下振れなど、ネガティブなショックが生じた場合、株価は下振れするリスクが高くなる。その一方で今年1月の高値局面以上に投資家が楽観的になれる潜在的な要因はどの程度あるだろうか。筆者には株価の上振れを起こすポジティブ・ショックの可能性よりも、下振れを起こしそうなショックの可能性の方が現状では高そうに思える。

また、米国株の目立った下落は主に投資家層のリスク許容度の低下を伴い、これまで同様にドル円相場についてはドル安・円高、日本株についても株安の影響をもたらすだろう。

<基本は「買い持ち」で、部分ヘッジか>

さらに2019年以降もEPSの伸びが続けば、いずれ高値は更新されるが、筆者は2020年前後1年の期間に次の景気後退が始まると考えているので、2019年からは要注意期間に入る(参考コラム:「次の米景気後退と株価下落余地を考える」2018年1月10日付)。

もっとも、だからと言って「米国株は全部売ってしまう」というような判断は早計だろう。本連載でも何度も強調しているように、米国株価投資についてはリスク分散された長期にわたる「バイ・アンド・ホールド(買い持ち)」が最もシンプルで効率的な投資である。中途半端な高値感で売ると長い上げトレンドの中で取り残される可能性が高い。

筆者も2006年と2008年に買ったS&P500連動の上場投資信託(ETF)は自身の株投資の中核ポジションとして取り崩さずに継続しており、今年1月からは自分と家族の名義で「積立NISA(少額投資非課税制度)」もS&P500連動ファンドで始めた。従って、多少のヘッジ効果を狙って、米国株の戻り高局面でダウやS&P500のショートポジションと同じ効果のあるベアファンドを部分的に買う程度にとどめるつもりである。 

竹中正治 龍谷大学経済学部教授(写真は筆者提供)

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職。経済学博士(京都大学)。最新著作「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社、2013年5月)

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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