April 5, 2016 / 6:31 AM / a year ago

コラム:マンション市況は岐路、高値買いに用心=竹中正治氏

[東京 5日] - 3月22日に国土交通省が発表した公示地価によると、東京をはじめ大都市では地価が目立って上昇した。マンション価格も2012年暮れのアベノミクス始動以来、前年同月比で上昇を遂げてきた。

2020年の東京オリンピックまで堅調な推移が続くと予想する向きもあるようだが、最近数カ月は今後のマンション価格の下落を示唆する兆候が現れている。

東京都心部のマンション価格は中古、新築ともにすでに2007年のミニバブル期を超える割高水準となっている。日銀のマイナス金利導入で住宅ローン金利が少し下がったからと言って、購入に動けば長期的には高値つかみになる可能性が高い。そうした事情をご説明しよう。

<現物の不動産価格は不動産投資信託(REIT)に遅効>

筆者は1998年以来、個人投資家として東京都心部のマンションを対象に投資を続けてきた。その経験と調査を基に、アベノミクスが始まって間もない2013年4月19日の本コラム「REIT高騰に続くか、マンション投資の鉄則」で次のように述べた。

「今の局面で合理的な投資選択は、すでに著しく割高になったREITから、まだ相対的に割安に放置されている個別不動産物件にシフトすることだろう」。 

3年前のことを思い出していただきたい。2012年の暮れから株価もREITも「アベノミクス相場」で一気に上昇トレンドをたどり始めた。しかし、現物の不動産市場が上がり始めたのは数カ月遅れてである。株やREITなど流動性の高い資産は先行きへの期待を織り込んで先行的に変化する一方、流動性の低い現物の不動産の動きは遅効するのだ。

中古マンション価格動向を示す「不動研住宅価格指数(東京)」(データ:一般財団法人日本不動産研究所)を見ると、底値は2012年11月であるが、13年5月になっても前年同月比はゼロ%だった。ようやく13年12月になって同6.7%となった。15年12月時点では12年11月の底値比20%、前年同月比では5.0%の上昇だ。

現物の不動産価格の変化が一般の株式やREIT価格の変化に遅効するのは下げに転じる局面でも同じだ。例えば「サブプライム危機」として2007年夏に始まった下げ相場では、東証REIT指数は同年12月には5月の高値から28.5%下落、前年同月比でも6.1%の下落となった。一方で上記の不動研住宅価格指数(東京)は同年12月時点で10月の高値から1.9%の下落にとどまり、前年同月比では6.4%の上昇だった。

2005年以降の月次データで検証すると、東証REIT指数の変化と不動研住宅価格指数(東京)の変化(前年同月比)の間には、REIT指数の6カ月から9カ月程度の先行性(価格指数の遅効性)が見られる。

<転換期に差し掛かったマンション市況>

2013年以降のマンション価格に代表される都市部での不動産価格の上昇の要因としては、1)超低金利による投資資金コストの低下、2)企業収益の好調に支えられたオフィス需要の増加と賃料上昇、3)20年東京オリンピックに向けた東京の地価上昇期待、4)15年からの相続税率引き上げに対応した富裕層の節税目的のマンション購入、5)主に台湾、香港、シンガポールなどからの「アジアマネー」による収益不動産物件の購入などが挙げられる。

しかし、マンションについては、過去3年間の価格上昇の一方で賃料の伸びは抑制されており、価格指数を賃料指数で割ったPRR(Price Rent Ratio)は、不動産ファンドが収益不動産を高値で買い漁った2007年時のピークを上回る水準まで上がってしまった(東京の中古マンションPRR推移については筆者ホームページで公開している)。つまり、かなり割高になったということだ。

PRRとは株価収益率(PER)と同じ考え方で、マンションなどの割高・割安を判断する指標だが、マンション賃料は企業収益に比べるとはるかに変動性が低いので、株価収益率よりもずっと的確に価格の割高・割安を判断することができる。

なぜ今回の局面でとりわけ賃料の上げが鈍いかと言うと、給与所得の伸びが抑制されているからだ。マンションに限らず住宅はローンで買うことが一般的なので、短期・中期にわたって所得の伸びをはるかに超えて上昇し得る。ところが、賃料は一般に月間の給与所得から払われるので、給与の伸びを大きく超えて上がり難い。その結果、PRRはマンションブーム期には上がり、不況期には下がる。

しかし、ローンで買えると言っても、賃料の上昇を上回るマンション価格の上昇には自ずと限界がある。例えば東京都内の新築のファミリータイプ・マンションは5000万円程度、中古でも4000万円程度が一般的になってきてしまった。年間可処分所得500万円の家計にとっては年収の8―10倍だ。先進国では一般にこの倍率は4―5倍が普通である。

その結果、マンションの需給は次第に供給超過に傾きつつあるようだ。相続税の節税効果が高いとして一時ブームとなった富裕層によるタワーマンションの購入が、税務当局の姿勢が厳しくなったため下火となったことも影響している。

こうした状況を示すのが下の掲載図である。青色は既述の中古マンション価格動向を示す「不動研住宅価格指数(東京)」の前年同月比の推移、赤は中古マンションの在庫件数を月間成約件数(いずれも東京)で割った在庫件数倍率である(データ:REINS TOWER)。

在庫件数倍率は、分子となる月間成約件数の振れが大きいので、その12カ月移動平均(赤い破線)を示してある。在庫件数倍率が上がると(右逆メモリであることに注意)価格指数も低下し、在庫件数倍率が下がると価格指数は上がる負の相関関係があることが分かるだろう。

2006年以降の月次データで両者の関係性を計測すると、相関係数はマイナス0.88(相関係数はプラス1.0からマイナス1.0の値を取り、マイナス1.0で完全な負の比例関係となる)、決定係数は0.78と関係性は極めて高い。これは在庫件数倍率(12カ月移動平均値)の変化で価格指数の変化の78%を説明できることを意味する。

そして昨年後半から在庫件数倍率が上がり始めている(逆メモリの図で下に向かって動いている)。すなわち成約件数に比べて在庫が増え始めているのだ。この傾向が持続すれば、中古マンション価格は高い確率で下がり始め、新築マンション価格も連動して下がるだろう。

<住宅ローン金利低下による購入コスト減少は限定的>

それでも日銀当座預金でのマイナス金利導入で、住宅ローン金利の低下がローンによる購入者の負担を減らすので購入が有利になると考える方もいるだろう。そこで5000万円のマンションを頭金1000万円、住宅ローン4000万円、期間20年で借りて購入した場合を想定して計算してみよう。

ローン金利1.0%では総返済額は4415万円となる。金利0.5%の下ではこれが4204万円となる。つまり0.5%の借入金利の低下で総支払額は211万円減少する。これはマンション価格の4.2%相当のコスト減だ。

一方、価格指数を見る限り、2000年以降の価格の変動は3つの山と3つの谷があり、山から谷までの変動幅は平均で17.3%である。価格が5000万円ならば865万円に相当する。0.5%のローン金利の低下よりもマンション価格の変動の方が約4倍も大きいのだ。

もちろんマンション価格は個別性も高く、指数の変化は平均的な変化を示しているだけだ。個別物件では市況次第で20%から30%変動する物件はざらにある。要するに、多少の借入金利の低下に誘われて今のマンション市況で買えば、長期的には高値つかみする可能性が高いと筆者は判断している。

<マンション価格も山高ければ谷深し>

もっとも、いつからどの程度マンション価格が下がり始めるかは、今後の景気動向に依存している。この点で、筆者は昨年10月27日の本コラム「日本に灯る円高デフレ回帰の黄信号」で書いた通り、昨年の夏以降、日本の景気動向について警戒的なスタンスに転換している。

過去3年間の企業収益の大幅な改善と雇用の増加にもかかわらず、設備投資にも賃上げにも消極的な企業経営者層と、腰の引けた賃上げ要求しか掲げない労働組合の下では、実質給与所得の伸びが抑制されてしまっている。これがボトルネックとなり、超金融緩和をもってしても自律的な景気回復、マイルドインフレへの移行に対する期待は遠のくばかりだ。中国をはじめ新興国景気の失速で海外経済全般がスローダウンしていることも懸念材料だ。

ただし、それがゆえにマイナス金利に加えて、財政政策も動員した景気刺激策が検討されているようだ。来年4月の消費税率の10%引き上げも延期されるかもしれない。そうした事情次第ではマンション価格の目立った下落はもう少し先送りされる可能性もある。

加えて、マイナス金利による長期国債利回りの全面的な水没にあぶりだされるようにインカムリターンを求める資金が公募REITや私募不動産ファンドに大規模に流入し、不動産市場のバブル的なクライマックスをこれから引き起こすシナリオもあり得ないわけではない。

実際のところ、「ゆうちょ銀は2月にREIT専門の不動産投資部を新設。投資を始めるための認可取得に向けた準備を急いでいる。金融庁は申請が出れば認める方針だ」(日本経済新聞、4月2日付朝刊)と報じられている。

ゆうちょ銀行が動き出す前に、そうした動きはすでに始まっているのだろう。REIT相場は東証REIT相場指数で見ると、2015年1月に高値を付けた後、同年9月の直近の底値まで24%下落したが、日経平均が下落する状況下、底値から19%も値を回復した(4月1日引値)。

だが、そのような場合でも、給与所得と連動した賃料水準の持続的な上昇を伴わないマンション価格の高騰は、その後に到来する価格下落をより深くするだけだろう。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職。経済学博士(京都大学)。最新著作「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社、2013年5月)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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