May 10, 2016 / 6:11 AM / 2 years ago

コラム:日本株、買いは次の不況まで待て=竹中正治氏

[東京 10日] - 4月に日銀が追加金融緩和に動くという某メディアの憶測記事と、実際の日銀政策決定会合での「政策変更なし」で、日本株も円相場も大きく上下に揺れた。短期トレーディングをしている金融機関のディーラーや個人投資家には翻弄された人も少なくないだろう。

一方、長期投資の対象として日本株を見ると、アベノミクス以前よりはまだ高いとはいえ、昨年の高値からの下落で米国株などに比べると長期的なリターンはやはり劣後している。しかし、日本株でも実はリスクを抑制しながら長期でリターンを向上させる簡単な手法がある。今回は、その仕組みと現状の株式投資へのスタンスを説明しよう。

<長期的な上昇トレンドを描けない日本株>

まず標準的な投資手法とそのリターンとして、2000年1月から毎月末、TOPIX連動型上場投資信託(ETF)に定額(ここでは1万円)を積立投資した場合を考えよう。

2016年4月末までの累積投資額は196万円、4月末時点の資産時価総額は238万円となり、資産時価総額の累積投資額に対する倍率は1.21倍となる(キャピタルゲイン21%)。

年率換算したリターンを求めるために、この投資キャッシュフローの配当を含まない内部収益率(Internal rate of Return、以下IRR)を計算すると約2.8%となる(計算を簡便化してキャッシュフローは年1回として計算)。この期間の平均配当利回りを1.5%とすると簡略化した計算だが、総合年率リターンは4.3%である(税引き前利回り、以下同様)。

一方、円資金で同じ期間、米国のS&P500連動ETF(東証に円建て表示で上場されている)に定額積立投資をした場合は、資産時価総額は332万円となり、累積投資額196万円に対する倍率は1.69倍、配当を含まないIRRは6.9%、平均配当利回りを2.0%とすると、総合投資リターンは8.9%になる。つまり、日本株の投資リターンの約倍だ。

米国株が一貫して超長期で上昇傾向を持続する一方、1990年代以降の日本株は上昇トレンドを失って大局的な横ばいが続いている。その要因としては、各種企業収益率の違いなどミクロ的な事情もあろうが、次のようなマクロ的な事情がある。

すなわち、すう勢的なインフレ率と人口増加率の双方での「米国>日本」の格差である。その結果、日米の名目経済成長率は「米国>日本」だ(一方、1人当たりの長期的な実質国内総生産成長率は日米間であまり違いはない)。

国民所得に占める企業利益のシェアや海外事業からの収益シェアなど他の条件が仮に一定でも、名目で測った日本の企業利益成長率は米国のそれよりも低くなる。株価の長期的な成長率もこうしたマクロ経済的事情によって制約されるだろう。

<シンプルな手法で日本株でもリターン向上は可能>

それでは日本株のインデックス投資で長期にリターンを上げるのは諦めるかというと、そんなことはない。実は極めてシンプルな手法でリターンを向上させることができる。それを示したのが、下の掲載図である。

毎月1単位の金額を定額積立するのは同じだ。同時にTOPIXの過去5年間の移動平均値を計算し、TOPIXの月末の水準が5年移動平均値より30%下回る場合は例月の5倍の金額を購入し、反対に30%上回る局面では5倍の金額を売る。つまり、「安く買って、高く売る」自動的な仕組みを加えるのだ。

図に示したように、買い増し局面では累積投資額が例月より急こう配で増加し、売り局面では減少する。青色の線が資産時価総額で、これが累積投資額を上回っている時はキャピタルゲイン、逆ならばキャピタルロスが生じていることを示している。

この自動的な売買を加えると、2016年4月末時点の資産時価総額は293万円で、その時点の累積投資額121万円に対する倍率は、定額積立投資の1.21倍から2.42倍に向上する。配当を含まないIRRは約8.9%であり、平均配当利回り1.5%を加えると10.4%になる。これは前掲の米国株S&P500ベースの年率リターンを上回る。

売買シグナルとなる移動平均からのかい離幅30%という比率は、実は2000年以降のTOPIXの値とその5年移動平均とのかい離幅の標準偏差だ(月次データベース)。つまり、全期間の約3分の1の期間において、TOPIXは5年移動平均から上か下に30%以上かい離している。上か下にとび出した3分の1の局面だけ選んで、下げ局面では買い、上げ局面では売る逆張り投資である。

また、例月の定額に対する買い増し、あるいは売り越し額の倍率は任意であり、比率を5倍から下げると定額積立に対するリターンの向上度は低下する。一方、比率を上げると株式の保有残高を全部売り切ってしまう期間が生じる。空売りを想定しないのであれば投資が継続しなくなる。

この修正積立法が、どのような売買を行ったか、もう少し詳しく見てみよう。

1)買い増し局面:2002年10月から03年5月、2)売り局面:05年10月から07年7月、3)買い増し局面:08年10月から11年12月、4)売り局面:13年9月から15年12月、以上16年でそれぞれ2回の買い増しと売り局面があった。

この修正積立法は各種のバリエーションが可能だが、筆者自身、個人投資家としてこうした仕組みで長期投資のリターンが上がることに気がついたのは過去10年ほどのことだ。2000年代前半までは試行錯誤を繰り返していたが、過去10年ほどは概ねこの修正積立法のシグナルに近いタイミングで株式保有残高の増減を調整している。

詳細は字数の制約で省略するが、積立投資のように投資時点を分散して投資タイミングのリスクを平準化するのではなく、ある時点で一括して投資する場合も、この投資手法は有効である。その場合は、一括して投資する時点の相場水準に投資リターンは依存することになるが、安値圏で買い増し、高値圏で売ることで得られる売買収益の分だけ、投資リターンは向上する。

また、こうした大局的な逆張り手法が有効なのは株価指数を使ったインデックス投資だからである。個別株の逆張り手法は、リスクが高くて報われない場合が少なくない。株価指数がゼロになることはあり得ないが、個別株は企業破綻で無価値になるからだ。

<修正積立法の限界>

この修正積立法の限界についても触れておこう。まず定額積立投資と違って、買い増す局面では追加資金の調達が、売る局面では売って得た余剰資金の運用が問題となる。特に売り局面で得た資金を現金で保有しているだけでは、ポートフォリオ全体のリターンは下がってしまう。先のIRRの計算は株式に投資されたキャッシュフローだけで計算したものであり、ポートフォリオ全体のリターンではない。

この問題への対応は各様にあり得るが、筆者の場合は不況期に借入を伴うマンション投資をしているので、売り局面で生じた余剰資金は既存ローンの返済に充当することで調整している。アベノミクスの上げ相場のおかげで既存のローンは完済してしまった。

また、1980年代後半のバブル期の日本株、あるいは90年代後半のITバブル期の米国株のように、数年にもわたって株価が急速かつ一方的に上昇する局面では、定額積立法に比べてリターンは劣後する。なぜなら定額積立投資は投資残高を100%維持しながら定額を買い続けるが、修正積立法は上げ相場では途中から売りに転じ株式保有残高を減少させるからだ。要するに、あらゆる相場状況に万能の売買ルールはあり得ないということだ。

逆に言うと、そうした大バブルの局面がなく、株価が景気変動を反映して大きく上下動する相場環境が続く限り、修正積立法は有効だ。また、仮に日本でもインフレ率や名目経済成長率の底上げが起こり、日本株が今後長期的な上昇トレンドをたどる場合も、移動平均は5年で計算しているので、過去の大バブル期のような一方的かつ急速な上げ相場ではなく、ある程度時間をかけた長期的な相場の水準調整には対応できる。

<長期に徹することができる投資家は稀>

今後この種の手法が投資信託などに取り入れられ、そのような投信が大いに普及するというようなことは起こらないだろうか。

ある時期に有効だった投資手法も、それが真似されて普及すれば、そのこと自体が投資手法の有効性を消滅させてしまう。これは相場予測の「自己言及性」と呼ばれる原理から導かれる必然であり、短期的な投資現象には実によくあてはまる。しかし、長期投資では必ずしもあてはまらなかった。

その理由の第1は、金融機関の営業スタイルが個人投資家の長期の資産形成にコミットせず、毎期の利益だけを追いかけているからだ。第2の理由は、個人投資家サイドの事情であり、やはり本当に長期で資産形成を志向し、そのために必要な金融リテラシーを身につけている方は実に少ないからだ。

例えば多少知恵のある方でも、投信の選択では投資情報サイトなどで過去1年、あるいは3年程度の投資のパフォーマンス(主にリターン)の高いファンドを選ぶ傾向が強い。これが間違いのもとだ。

なぜかと言うと、既述の通り修正積立法は相場の上げ局面では、途中から売り始め、資金を一部キャッシュにシフトするので、資金を全額株式に投じている投信にリターンで必ず劣後する。ところが、多くの個人投資家が株式投信に関心を示すのは、まさにこうした相場の上げ局面である。そして、その時に一番リターンの高い投信を選ぶ傾向が強いので、この種の長期逆張り手法を導入した投信はなかなか選ばれない。

逆に修正積立法の優位性が際立つのは相場の下げ局面である。多くの投信が大きなマイナスリターンになっている下げ局面で、高値圏で一部でも売る長期逆張り投資のマイナス幅は小さい。しかし、相場の下げ局面では多くの投資家は追加投資への意欲を失っている。マイナス幅が小さいということでは、魅力的にすら感じられず、やはりなかなか選ばれない。

ただし、こうした傾向も、全て過去から現在までのことである。これまでの人工知能を利用したアルゴリズム・トレーディングは、高速取引で超短期の売買益を累積させることを狙ったものがほとんどのようだ。しかし、人工知能による相場解析が一層発展すれば、長期投資の分野にも変革を生み出し、筆者が本稿で提示したような長期逆張り手法も様々に開発され、投資家の間に広がるかもしれない。そのこと自体が最終的には長期逆張り手法の効果を消し去るという皮肉な結果をもたらすのだが、過剰な相場変動が抑制されるという意味では望ましいことだ。

もっとも、投資家意識の変革を必要とするそうした状況になるまでは、まだかなり時間がかかりそうなので、筆者は当分の間、修正積立法が示すシグナルを参考に株式投資残高を操作していくつもりだ。

最後に現状でのスタンスを確認しておこう。2016年4月末時点の修正積立法の示すシグナルは売りでも買いでもなく中立である。図が示す株式投資残高は、ピーク時から累積投資額ベースでは約半減、資産時価総額ベースでは25%減となっている。筆者自身は、昨年の時点で累積投資額ベースではピーク時の3割程度に減らし、4月の乱高下でも様子見を決め込んでいる。

毎期稼がなくてはならない金融機関のファンドマネジャーらと違う一般個人投資家の最大の優位点は、割安感でも割高感でもないようなレンジでは中途半端に手を出さずに1年でも2年でも休んでいられることだ。次に日本株の買いに動くのは、この修正積立法のシグナルを見ながら、おそらく次の景気後退時になるだろう。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職。経済学博士(京都大学)。最新著作「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社、2013年5月)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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