September 27, 2016 / 7:31 AM / a year ago

コラム:ドル長期金利はどこまで上がるか=竹中正治氏

[東京 27日] - 米国では9月のドル金利引き上げが見送られた一方で、12月は金利引き上げを見込む向きが据え置き予想をやや上回っている。日本、欧州ともにマイナス金利からの出口が見えない中で、先進国で米国のみは金利上昇が展望されている。

今年前半の米国経済は国内総生産(GDP)伸び率に見る限り不冴えだったが、後半から来年にかけては盛り返しを予想する向きもある。超低位安定を続けていた米国の長期金利が来年にかけてどこまで上がるか、それ次第で世界の株価から為替相場まで左右されるだろう。今回は来年にかけてのドル長期金利(10年物米国債利回り)の見通しを考えよう。

結論から言うと、現在の穏やかな景気回復シナリオが持続する限り、10年物米国債利回りは上昇トレンドを見込むものの、現在の1.6%台から2.8%のレンジにとどまり、為替相場を含む金融市場全体への影響は穏やかなものになるだろう。

ただし、リスクは利回りの下振れではなく、むしろ上振れだろう。また、米国経済の景気後退が来年中にも始まるとの予想が一部にはあるが、その可能性は乏しい。以下、理由を説明しよう。

<長短金利差とGDPギャップに高い相関関係>

当然ながら長期金利は景気動向(含むインフレ動向)と金融政策を反映して決まる。金融政策によって決まるのが短期金利である。理論的には長期金利の水準は、予想される短期金利の将来にわたる累積結果と同じになるように決まる。例えば、10年物長期金利と3カ月物短期金利をとると、将来10年にわたって3カ月物で資金運用(あるいは調達)した場合の予想累積利息と10年物の累積利息が等価になるように決まる。

言い換えると、10年物金利差と3カ月物金利の格差(長短金利差)には将来10年間の短期金利の予想経路が反映されていると考えられている。短期金利の予想経路は、当然ながら現在から将来にわたる景気動向の予想次第であり、その予想自体は足元の景況認識に強く依存しているようだ。

そこで、足元の景況を反映する指標としてGDPギャップ(実質)に注目しよう。GDPギャップとは、潜在的GDP(=マクロの総供給力)と総需要の格差であり、供給力に対する需要不足はマイナス、逆に需要超過はプラスとなる。

あまり気づかれていないようだが、掲載図が示すように米国のGDPギャップと長短金利差の間には高い相関関係がある。景気後退でGDPギャップのマイナスが拡大し始めると(需要不足の拡大)、目先の短期金利の低下を見込んで長短金利差は拡大し、景気後退の底では長短金利差が最大になる。

景気が回復し始めると、それに遅れて短期金利は上がり始め、長短金利差は縮小に向かう。そして好景気の最終局面、つまり景気の過熱局面ではGDPギャップはゼロかプラスになる(需要超過)。なぜなら、この時それまでの利上げで足元の短期金利は高くなっている一方、今後の景気後退の予想が次第に強まり、将来の予想短期金利は低下し始める。その結果、長期金利は上げ止まり、長短金利差はフラット化、あるいは逆転するからだ。

以上の結果、下の掲載図が示すように米国のGDPギャップと長短金利差(米国債10年物と3カ月物の利回り格差)は負の高い相関関係を示す。2005年から16年4―6月期の期間で計算すると、相関係数はマイナス0.84、決定計数は0.70だ。これはこの期間の長短金利差の70%はGDP需給ギャップで説明できることを意味する。

リーマンショックで米国が戦後最大の不況となり、米連邦準備理事会(FRB)がゼロ金利からさらに3次にわたる量的金融緩和を実施した2009年から15年の時期についてもこの関係性が生きていることに注目しておこう。

<長短金利差を使った長期金利予測>

GDPギャップと長短金利差の関係を利用した米国長期金利の予想を、私は2014年に本コラムで示したことがある(「ドル長期金利とドル円の一段高は来年に持ち越しか」7月3日)。

2014年通年について当時のGDPギャップと短期金利見込みから10年物米国債利回りの平均値を2.5%と予想し、1標準偏差の値幅(約3分の2の確率でその変動域に収まる幅)をつけてレンジとしては1.9―3.1%と推計した。14年7月から年末までの実際の利回りレンジは2.1―2.6%だったから、結果的にも妥当な予想だったと言えるだろう。

さらに2015年の予想も行った。15年末までにGDPギャップのマイナス幅が1.3ポイント縮小し、15年12月末の短期金利はその時のフェデラルファンド(FF)金利先物(30日物、15年12月決済)が0.7%であったことを前提に、FF金利=米国債3カ月物利回りとして、15年末の10年物国債利回りを3.1%と推計した。そのうえで標準誤差が0.6ポイントであることを踏まえ、予想レンジを2.5―3.7%とした。しかし、実際の15年12月の同利回りは2.2%だったので、結果は私の予想レンジの下限を下回り、平均値ベースでは0.9ポイント上振れた結果になった。

ただし、この予想の外れはGDPギャップと長短金利差の関係性が狂ったからではなく、予想の前提とした短期金利とGDPギャップの変化が実際の結果と異なったからである。実際は短期金利が利上げ1回のみで0.23%にとどまる一方、GDPギャップのマイナス幅は1.6ポイント縮小した。予想値と現実値の差、0.9ポイントのうち、短期金利要因による部分が0.47ポイント(=0.70-0.23)、GDPギャップ要因による部分が0.13ポイント、残り0.3ポイントが2変数以外の要因による推計誤差である。

<長期金利は「微温」な上昇にとどまる>

さて、現時点の短期金利とGDPギャップの予想を前提に、2017年末の10年物国債利回りを推計してみよう。17年12月のFF金利予想としてはFRBメンバーによる最頻値が1.0―1.25%である。一方、市場参加者予想としてFF金利先物(17年12月決済)は0.7%にとどまる(9月23日時点)。

GDPギャップは過去2年間、四半期に0.1ポイントずつ改善(マイナスの縮小)してきており、このテンポで進むと2016年4―6月期のマイナス1.9%から17年10―12月期にはマイナス1.3%に0.6ポイント縮小する(このGDPギャップの変化の想定は、年率実質GDP2.0%成長に対応)。

上述した相関性を前提にすると、対応する長短金利差は1.5%となる(前出した図中の近似線の方程式にマイナス1.3を代入して求める)。

以上を前提に推計すると、2017年12月の10年物国債利回りは、短期金利がFRBの最頻値予想の場合には、1.5%の長短金利差に1.0―1.25%の短期金利を足して、2.5―2.75%である。これは本稿執筆時点の利回り水準1.62%から見ると約1ポイントの上昇だ。

しかし、FF金利先物が示す市場の短期金利予想を前提にすると10年物国債利回りは、1.5%の長短金利差に0.7%の短期金利を足すため、2.2%にとどまる。これは極めて微温な上昇だ。2009年以降の金利予想ではFRBの予想分布は常に実際より上振れており、市場予測に基づいた2.2%の妥当性が現時点ではより高そうに思える。そこで、これを標準シナリオとしよう。FRB予測に基づく予想値2.5―2.75%は景気動向が上振れた場合の「上振れシナリオ」の位置づけで良いだろう。

標準シナリオの場合、1標準偏差の0.6ポイント弱の幅をつけると予想レンジは1.6―2.8%となる。要するに、現下の金融市場が織り込んでいるドル長期金利の上昇は来年末まで見通しても微温なものであり、このシナリオの範囲内にとどまる限り、株価や実体経済、海外への影響も微温なものにとどまるだろう。

<2017年中の景気後退入りはない>

また、為替相場への影響について言うと、日米長期金利格差拡大はドル高・円安効果があると一般に考えられている。しかし、検証してみると、名目長期金利格差とドル円相場の変動の関係性は実はかなり不安定で、あまりあてにはならない。ましてや1.6%台から2%台前半への微温なドル長期金利の上昇ならば、ドル高・円安の効果も微力で、再び1ドル=110円を超えさせるほどの力は到底ないだろう。

以上の予想は米国景気の回復が来年中も持続することを想定しているが、一部には来年の景気後退入りを予想する向きもある。しかし、上記のGDPギャップと景気動向を見る限り、来年中の米国の景気後退は、国内要因的には可能性はほとんどないだろう。というのは、GDPギャップが推計開示されている1949年以降、景気回復期にある米国経済がマイナスのGDPギャップのまま次の景気後退に陥ったことは、ほとんどないからだ。

唯一の例外は、1980年1月から7月の景気後退の後、極めて短い景気回復期間(12カ月)を経て、81年7月から82年11月に景気後退に入った時だ。この2つの景気後退期に挟まれた短い12カ月の景気回復期だけは、GDPギャップがマイナスのまま次の後退に移行している。

ただし、この時の景気変動は実にトリッキーで、2つの景気後退期間(狭間の12カ月を景気回復期)と判断すべきなのかどうか微妙だ。むしろ1980年1月から82年11月までひと続きの景気後退だったと判断できるかもしれない。当時、実体経済が景気後退から回復、そしてまた後退と短期間に大きく揺れ動いた原因は(詳細は省略するが)、この時期の金利とドル相場の変動性が戦後で最も高かったことと関係しているようだ。

そのような金利、為替相場、さらには資産価格の大波乱(変動性の著しい上昇)が、当面予想し難いと思うならば、米国ではGDPギャップがマイナスのまま次の景気後退に入る可能性は非常に低いと考えていいだろう。そして、GDPギャップのゼロあるいはプラスへの転換は、景気のかなりの上振れが起こらない限り2017年中には実現しない。

GDPギャップが2017年中にプラス転換するほどの「景気上振れ」とは、具体的に言うと、16年7―9月から17年10―12月までの毎期の年率実質GDP成長率が平均で3.0%以上になる水準である。現下の米国経済にとって実質3%超成長の可能性はかなり低い。ただし、仮に3%以上の成長が起こればマイナスのGDPギャップも急速に縮小し、17年中にプラスに転じる。

GDPギャップは消費者物価指数(食料とエネルギーを除くコアCPI)の変化との相関度も高く、GDPギャップがプラスに転じる場合はコアCPIもFRBの目標値2%を超えて大きく上昇する可能性が高い。そうした展開になれば、金利上昇の速度も現在のFRBの予想以上にアップテンポなものになろう。

いずれにせよ、前出の掲載図が示す通り、2016年4―6月期の位置は、GDPギャップ、長短金利差のいずれで見ても05年以降の分布の中央近辺に位置しており、両変数の分布の近似線からの乖(かい)離も小さい。このこと自体が、景気回復はまだ途上であり、回復過程の最終局面までかなりの時間的な余裕があることを示唆しているように思える。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職。経済学博士(京都大学)。最新著作「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社、2013年5月)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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