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コラム:円高説は根拠薄弱、来年ドル130円も=村田雅志氏

[東京 10日] - 今年も残りわずかとなり、識者による来年(2016年)のドル円見通しを目にする機会が増えてきた。昨年と今年の見通しでは、水準の差こそあれ、ドル円は上昇基調で推移するとの見方が大多数だった。

 12月10日、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト、村田雅志氏は、ドル円が来年下落に転じるとする根拠の多くが説得力に欠けると指摘。提供写真(2015年 ロイター)

しかし、来年の見通しでは、興味深いことに、ドル円が上昇を続けるとの見方だけでなく、下落に転じるとの見方も示されている。中には、ドル円が来年末までに110円程度まで下落する可能性があるとの大胆な予想もある。

円は2012年から3年間、主要通貨に対し下落を続け、名目実効レートは今年6月には73.8と12年1月の111.35から約34%も下落。ここまで下げたのだから、そろそろ(来年には)円高に転じても不思議ではない、との直感が強まっているのかもしれない。円の名目実効レートが7月以降、緩やかながら上昇に転じ、10月には78.2と6月から約6%も上昇したことで、こうした直感に対する自信が増している可能性もある。

ただ、筆者の目には、来年にはドル円が下落に転じるとする根拠の多くが説得力に欠けると映る。

<国際収支は本当に円高シグナルを発しているのか>

まず、ドル円の下落を予想する方の多くが指摘する日本の経常黒字の拡大について考えてみよう。経常黒字は10月までの累計で14.6兆円と、昨年の2.6兆円を大きく上回っている。経常黒字の拡大は、時間差を伴って円買いの動きにつながるとの指摘もある。

しかし、経常黒字の拡大が第1次所得収支黒字によるところが大きい点に注意を払うべきだ。今年10月までの経常収支(累計)の内訳をみると、貿易・サービス収支は2.0兆円の赤字であるのに対し、第1次所得収支は18.2兆円と、すでに昨年の黒字額(18.1兆円)を上回っている。

第1次所得収支の中には、外貨を円に換える(円転する)ことがほとんどない外貨準備の利子収入や、円転の比率が低いとされる対外直接投資による現地利益、民間対外証券投資の利子・配当収入が多く含まれており、第1次所得収支の黒字額が、そのまま円買い需要につながるとは考えにくい。

一方、実需に直結している貿易・サービス収支は、上述したように赤字のままだ。貿易活動を通じた円売り圧力は以前ほど強くはないだろうが、円売りの動きは続いたままであり、少なくとも円買い要因には働かない。経常黒字が巨額になったから円買いの動きが強まるとするロジックは表面的にはもっともらしいが、為替の実需取引の実態を示したものとは思えない。

日本の対外直接・証券投資の動きが減速するとの理由からドル円が下落に転じるとのロジックも説得力に欠ける。国内年金基金のポートフォリオ・アロケーションの変更を背景としたリバランスの動きが、すでに一巡したのは事実だが、来年以降も海外投資比率が維持される。一方で、国内生保・銀行は外債買いの動きを強化。国内投資家による海外中長期債の買い越し額は年初からの11カ月間で11.2兆円と、昨年1年間の約12倍に膨らんでいる。

円債利回りは、日銀の大規模買い入れもあって低位安定。こうした状況下、国内生保・銀行が対外証券投資の動きを後退させ、円債にシフトするとは考えにくい。国内投資家による対外証券投資の拡大ペースが鈍化する可能性は否定しないが、だからといって円買い需要が強まるわけではない。

<1ドル=120円を大きく割り込む円高は考えにくい>

12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ開始が決まる可能性が高く、来年も年前半を中心に2、3回の利上げを実施すると見込まれる一方、日銀は必要であれば追加緩和に踏み切る姿勢を示し続けたままだ。

いわゆる日米金融政策の違い(ダイバージェンス)という構図が来年も続く以上、ドル円が120円を大きく割り込む形で下落すると考えるのは無理があるように思われる。米国景気次第の面はあるものの、来年のドル円は日米金利差の拡大を背景に下値を固めながら「じり高」の動きを続けると考えた方がむしろ自然だろう。

確かに、原油をはじめとする商品市況の下落が続き、米国が7年の期間を経てゼロ金利を解除しようとしていることで米国景気の先行き不安は強まっている。11月以降、米国株は伸び悩みが続いており、米国企業の予想EPS(1株あたり利益)はドル高や世界景気の減速観測から10月に小幅ながら減少。その後も伸び悩んでおり、米国株の先行きを慎重にみる見方も広がりつつある。

しかし、米国の雇用環境は堅調に推移しており、個人消費は来年も堅調地合いを維持する見込みだ。米国株の急落といったイベントリスクが発生しないのであれば、米国の国内総生産(GDP)成長率は2%台半ば程度を確保する可能性が高く、低成長に甘んじる日欧や減速感が強まる英国との景況感格差は広がると予想される。

先進国グループにおける米国景気の底堅さが意識されれば、為替市場ではドル買いの動きが続くだろう。一方で、円は上述したように過去3年ほどの勢いで売りの動きが強まることは期待しにくいものの、対ドルで上昇するほど買い需要が強まるとは考えにくい。

この結果、ドル円は緩やかながらも上昇基調が続き、米利上げ継続期待が高まりやすい年央にはドル円が「黒田ライン」と呼ばれる125円を大きく上抜け、130円を目指す展開が期待される。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。著書に「名門外資系アナリストが実践している為替のルール」(東洋経済新報社)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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