November 10, 2015 / 8:54 AM / 4 years ago

コラム:近づく米利上げ、遠のく日銀追加緩和=村田雅志氏

[東京 10日] - 市場関係者の一部は、日銀がいずれ追加緩和に動くとの見方を捨て切れないでいるようだ。確かに彼らが指摘するように、国内景気は軟調に推移しており、2%物価目標の早期達成を期待するのは難しい。しかし、日本経済の潜在成長率から考えれば、景気の現状はほぼ実力通りである。

詳しくは後述するが、労働投入量は足元で拡大傾向にある。したがって、金融緩和などで経済を刺激するよりも、潜在成長率の高まりを通じたインフレ圧力の強まりを期待する方が自然に思われる。

また、米国では12月15―16日の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ開始が現実のものとなりつつある。日銀としては円安を促す目的で無理に追加緩和に動く必要性はなく、当面は現状維持の姿勢を維持するのが妥当だろう。

<日銀追加緩和期待の落とし穴>

確かに、国内景気は芳しくない。7―9月期の鉱工業生産は前期比1.3%低下と2期連続のマイナス。国内総生産(GDP)も2期連続のマイナス成長となる可能性が高まっている。雇用環境は9月の有効求人倍率が1.24倍と1992年1月以来の高水準に達するなど良好だが、現金給与総額は前年比1%に満たない弱い伸び。今夏のボーナスは前年比2.8%減と2年ぶりの減少に転じた。1人あたり賃金は低迷したままで、個人消費の早期拡大は期待しにくい。

設備投資も軟調な推移が続いている。民間設備投資の先行指標とされる機械受注・民需(除く船舶・電力)は、8月が前月比5.7%減と3カ月連続の減少。仮に9月の受注額が前月比横ばいとすると、7―9月期は前期比12.2%減と大きく落ち込むことになる。日銀短観によると、今年度の大企業・設備投資は前年比10.9%増と大幅増の計画となっているが、中国を中心とした世界景気の減速感の強まりも考慮すると、設備投資が下方修正されることも想定すべきだろう。

内需を中心に景気が軟調に推移する以上、物価が今後、加速すると考えるのは難しい。9月の消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)は前年比0.1%の低下と2カ月連続の前年割れ。日銀は、生鮮食品に加えエネルギーも除いたCPI(新型コアCPI)が同1.2%と3カ月連続で加速したことなどを指摘し、物価の基調は上昇しているとの判断を維持しているが、今後は円安による輸入物価の伸びは剥落する見込みだ。円安が再び進展しない限り、新型コアCPIも鈍化する可能性が高くなり、2%上昇の物価目標の達成は遠のくことになる。

物価目標の達成が遠のくのであれば、追加緩和に動くべきだ、というのが追加緩和を期待する方々の考えなのだろうが、黒田日銀総裁は、こうした考えに否定的だ。同総裁は10月30日の金融政策決定会合後の会見で、2%の物価目標をできるだけ早期に実現することが目標だが、物価だけ上がれば良いというわけではなく、賃金も上がっていく、企業収益も増えていく、経済全体がバランスの取れた形で目標を達成するのでなければ、持続的・安定的に物価目標を達成することは非常に難しいと発言。追加緩和に踏み切るとしても、物価の基調あるいは経済全体をよく見て、総合的に判断して決める意向を示した。

筆者も黒田総裁の考えと同じだ。日銀が追加緩和などで円安を促し、結果として物価目標が達成できたとしても、円相場が上昇に転じれば、物価は鈍化するのは必然。黒田総裁が指摘するように、物価目標を持続的・安定的に達成するには、内生的なメカニズムでインフレ圧力を高めなければならない。

足元の景気の弱さを指摘したくなる気持ちは理解できなくもないが、今の景気は実力通りでしかないことも改めて認識する必要がある。日銀によれば日本の潜在成長率は0%台前半ないし半ば程度。GDP成長率が2期連続のマイナスになったとしても、潜在成長率を所与とすれば誤差の範囲と考えられる。

しかし今後は労働投入量の拡大を通じ、潜在成長率が高まることも期待される。日本の場合、人口が減少基調にあるため、労働投入量の拡大を期待するのは難しいように思われがちだが、実は労働投入量は緩やかながら拡大している。たとえば9月の労働力人口は6626万人と2011年2月以来、同月の就業者数は6399万人と2008年11月以来の高水準にそれぞれ増加している(いずれも季節調整値)。

過去2年以上の景気回復を背景に、非労働力化していた女性が労働市場に参入したことで労働力人口が増加。就業率(人口全体に占める就業者数の割合)も雇用環境の改善で女性は上昇基調で推移している。一方、男性の就業率は25―34歳が90%近辺と30歳代後半から40歳代後半の93%台に比べても低く、女性と違い伸び悩んでいる。

日本の労働需給は逼迫(ひっぱく)したままであることから、今後も労働投入量は労働市場の弛み(スラック)を解消する形で拡大が続くと考えることが可能だ。結果として、日銀が無理に動かなくても、潜在成長率の高まりを通じインフレ圧力が内生的に高まることも期待される。

もちろん、2%の物価目標の達成のためには、労働投入量の拡大に加え、1人あたり賃金の上昇も不可欠だ。現に10月6―7日の日銀決定会合の議事要旨でも、何人かの委員が来年の春闘におけるベースアップを含めた賃上げが重要であると述べている。ただ、来年度の賃上げ状況が確認されるのは早くても来年3月半ば。それまで日銀は追加緩和という切り札を温存するのが得策となる。

<現実味増す12月の米利上げ、ドル円に上昇余地>

米国では10月雇用統計が予想外の好結果となった。非農業部門雇用者数は前月比27.1万人増と今年最大の伸び。労働参加率は62.4%と前月から横ばいだったが、失業率は5.0%と前月から低下した。日本と違い米国では労働市場のスラックが縮小傾向を維持している。

注目すべきは、平均時給が前年比2.5%増と市場予想を上回り、大きく加速したことだ。これまで労働市場のスラック縮小は確認されたものの、賃金への波及が遅れていることが利上げ開始を阻むとの見方があった。だが、この結果により、労働市場の改善継続でインフレが中期的には2%に戻るとするFOMCロジックが確認されたことになる。もちろん、12月のFOMC前に発表される11月雇用統計の結果を見極める必要があるが、米国の利上げ開始の現実味は増していると言える。

日銀が追加緩和に動かなくても、米国がいよいよ利上げに着手するのであれば、ドル円は上昇(ドル高・円安)方向に動くと予想される。10月の米雇用統計発表後、ドル円は123円台に急上昇し、その後は下値の堅い動きを示している。米国が実際に利上げを開始すれば、次の利上げを織り込む形で125円突破を目指す展開となり、日本の新型コアCPIの伸びをサポートするだろう。このことからも日銀は、米国の利上げ開始を横目で見ながら、様子見姿勢を続けることが妥当と判断するのではないだろうか。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。著書に「名門外資系アナリストが実践している為替のルール」(東洋経済新報社)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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