January 6, 2020 / 8:00 AM / 17 days ago

コラム:溶解する中東の地政学、イラン司令官殺害で未知の領域へ

[ロンドン 3日 ロイター] - 米軍がイラクの首都バグダッドの国際空港近くを空爆し、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を殺害したことで、トランプ氏は他の米大統領の下では想像もできないような地政学上のリスクを取った。既に中東の彼方でも未曽有の影響が恐れられており、現時点で今回の事態が何を意味するのか分かっている者は一人もいない。

殺害された革命防衛隊のソレイマニ司令官の棺を囲むイランの人々。1月5日、イランのアフワーズ空港で撮影(2020年 Hossein Mersadi/Fars news agenc)

もちろん今回の空爆は、約20年前から中東全体に広がる代理対決がエスカレートしただけだとも言える。シリア、イラク、イエメン、レバノンなどで、対決により既に数十万人の命が失われた。特に昨年は、イランとその敵対諸国がおきてを破り始めたことが鮮明になった。湾岸海域のタンカーとサウジアラビアの石油施設に対する攻撃がその代表例だ。

年末にはイラク北部の基地が襲撃され、米軍の請負業者が死亡。米軍は報復措置としてイランが支援する民兵組織を攻撃し、今度はバグダッドの米大使館が襲撃され、事態は既に未知の領域に入りつつある。

米国の一方的な攻撃は、誰よりも米首都ワシントンの政治家たちに衝撃を与えそうだ。ただ、これをきっかけに、近い将来に中東の紛争が激化するかどうかは分からない。ソレイマニ氏はイラン第2位の権力者であり、対外工作の司令官だった。本来、あらゆる対抗措置の決定を下していたはずだ。彼の死を受け、首都テヘランなどでは権力争いが起こるとみられ、その一環として中東地域の混乱を加速させたいと望む者もいれば、より抑制的な対応を求める者もいるかもしれない。

<中国とロシアの出方>

米政府は、ソレイマニ氏とコッズ部隊が米国の外交官、軍、請負業者などへの新たな攻撃を準備中だったと主張している。特に大使館の安全への懸念をあらわにしており、ミリー統合参謀本部議長は、襲撃を試みた者は米軍の「丸のこ」に切り裂かれるだろうと警告した。足元でそのリスクが高まるかは、テヘランでの権力争いの行方と、ソレイマニ氏以上のタカ派勢力が采配を振るうかどうか次第だろう。

イランが再び船舶を攻撃する可能性も考えられるが、これはイランの軍事力壊滅を望んできた米国やイスラエル、その他の湾岸諸国に格好の機会を与えることになる。イランが対抗措置に出るのは長期的には避けられず、中東で本格的な戦争を引き起こす可能性がある。

同様に重要なのは、米国の同盟国と敵対する国々の出方だ。ロシアは既に、そして中国も急速に中東紛争に関与を強めているようにみえる。両国はイランとの合同軍事演習を発表したばかりだった。

米国とイランが本格的に手を出し合い始めてもなお、中ロがこの軍事演習を実施するかどうかはわからない。しかし、ロシアのプーチン大統領はイランを支持する姿勢を強めたいと考えるだろう。両国の関係は複雑で、中東全域で勢力争いを繰り広げているが、シリアにおける同盟関係は比較的よく機能している。

<タカ派姿勢>

米国の同盟国も、自らの立場を考える必要に迫られるだろう。欧州諸国は以前から、タカ派姿勢を強めるトランプ氏の対イラン政策に懸念を表明しており、本格的な戦争に巻き込まれたくはないはずだ。しかしトランプ氏を支持しなければ、米国と同盟諸国との亀裂がさらに深まるのは間違いない。

イラク政府の立場はとりわけ複雑で、自国内に米軍とイランの武力組織の両方を抱えている。イラン、イラク両国で高まる反政府活動への影響も複雑だ。ソレイマニ氏は最近のイラン政府抗議デモ弾圧を指揮した一人だが、だからといってデモ参加者が今回の攻撃のようなトランプ氏の行動を熱心に支持することはないだろう。

それでもトランプ大統領は、一切意に介さないとみられる。大統領就任以来、外交政策・軍の上層部の影響にいらだちを示してきた。報道によると、彼らが自分を管理しようとしていると思い込んでいるようだ。マティス元国防長官を含め、上層部はことごとく政権を去った。大統領選と弾劾裁判を控えたトランプ氏は、軍事面で決然とした強硬姿勢を示せば支持層に受けると踏んでいるのかもしれない。多くの人々を身構えさせても構わないというわけだ。

そう考えると、米国によるイラン司令官の殺害とそれに対する一連の反応は、最も憂慮すべき答えにたどり着きそうだ。

ソレイマニ氏は、自らの野心と主張を達成するためならルールを無視して流血の事態を引き起こすことに何の呵責(かしゃく)も感じないリーダーの典型例で、その点ではプーチン氏も顔負けだった。世界的にこうした行動が日増しに当たり前になりつつあるが、その帰結を知る者は誰もいない。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below