November 7, 2019 / 1:57 AM / 8 days ago

コラム:低金利とドル高が並存した訳、年明け後再び105円へ=内田稔氏

[7日 ロイター] - 小動きに終始している点ばかりが強調される昨今のドル円相場だが、ドル/円JPY=EBSが109.57円を下回って年末を迎えた場合、4年続けて年始より年末の方がドル安・円高、すなわち4年連続の「陰線引け」となる。

  11月7日、ドル金利の低下とドル高が並存し続けた事実は、ドルが金利動向より量、すなわちドル資金に対する需給の引き締まりによって支えられてきた可能性を示唆していると、内田氏は指摘する。写真は100ドル紙幣が描かれた壁の前を歩く警備員。2015年7月23日、ケニアのナイロビで撮影(2019年 ロイター/Thomas Mukoya)

足元では市場心理が好転しており、短期的にみれば、110円大台の回復があってもおかしくないが、時折見られるこうした上昇を挟みながら、ドル/円はここ数年間、総じて下落トレンドをたどってきた。

例えば、2015年6月のザラ場高値である125.86円をピークに、これまで17四半期かけて、約17円(約13%)も下落した。

ちょうど四半期ごとに1円という極めて緩やかなペースではあるが、ドルにはこの間、9回もの利上げという支援材料があったことを踏まえれば、ドル/円は上昇軌道をたどっても不思議ではなかったはずだ。

もっとも、クロス円に比べれば、ドル円の下げ幅はまだ限定的とも言える。例えば、豪ドル/円AUDJPY=は15年6月の高値96円台から、足元の75円台まで21円(約22%)も下落。対ブラジルレアルや対南アフリカランドなど、下げ幅が3割程度に及んだ新興国通貨は珍しくない。

過去1年の主要通貨のパフォーマンスをみると、1位の円にスイスフランが続き、ドルが3番手に位置する通り、ドルも総じてみれば堅調さを保ってきたことが、ドル/円の下落(円高)の程度を相当、吸収してきたとみることができる。

とはいえ、このドル高は、ドル金利の動きに照らせば、不可解な面がある。米国の長期金利US10YT=RRは昨年10月に記録した3.26%から今年9月に記録した1.42%まで、ほぼ一貫して低下基調を続けてきたからだ。

<ドルの変動要因は金利から需給に>

このようにドル金利の低下とドル高が並存し続けた事実は、ドルが金利動向より量、すなわちドル資金に対する需給の引き締まりによって支えられてきた可能性を示唆している。

その需給ひっ迫の要因として、次の4点が挙げられる。まず、米国の金融規制の強化だ。米国ではドッド・フランク法に基づくレバレッジ比率規制や自己勘定取引を禁じるボルカールール、米証券取引委員会によるMMF(マネーマネージメントファンド)への規制強化が重なり、2015年以降、総じてレポ取引やMMFを通じた米国勢によるドル資金の供給が絞られた。

次に2017年10月に始まった米連邦準備理事会(FRB)による保有資産の縮小も、同じくドル資金の需給ひっ迫に影響した可能性が高い。

また、緩やかな景気減速懸念が、投資家のドル資金の出し渋りを招いた可能性もある。過去1年、米レバレッジドローンから資金が流出し、価格もいくらか下落している。

さらに相対的にみて高金利を維持したドル建て資産への証券投資需要も、恒常的なドル需給のひっ迫を招いた側面があるだろう。このようなドル需給ひっ迫がドル高に波及する経路の1つに、為替ヘッジコストの上昇が挙げられる。

投資家が高いヘッジコストを敬遠すればヘッジ比率が低下し、ドル買い需要が喚起されるためだ。日本でも最近、公的年金や生命保険会社など機関投資家によるオープン外債積み増しへの思惑が市場ではくすぶっている。

このようにドル相場が「金利」よりも「量」によって支えられてきたとみれば、金利低下が必ずしもドル安を意味しなかったのと同様に、ドル金利の上昇が必ずしもドル高にはつながらないこととなる。

<一転してドル軟調か>

こうした中、米国では9月に入り、翌日物レポ金利が、一時10%台に急上昇するなど、短期金融市場におけるドル不足が露呈した。これを受け、FRBはレポ取引による資金供給で対応した。

また、「金融危機後の大規模な資産買い入れと混同されるべきではない(パウエルFRB議長)」と断りつつ、10月以降、米財務省の短期証券(Tビル)の買い入れを開始し、少なくとも2020年6月まで継続する方針を示した。

これに応じ、市場では「円投」や「ユーロ投」に伴うドル調達時に求められるプレミアム(例えば、3カ月物のベーシススワップのスプレッド)が急低下した。例年ならドル需要が強いこの時期にはほとんど見られない現象であり、FRBのTビル買い入れがひとまず奏功した形と言える。

それは同時に、ドル資金に対する需給の引き締まりの緩和を通じてドル高圧力の後退にもつながる動きだ。実際、10月上旬を底に米長期金利が反転上昇しているにもかかわらず、ユーロや円、ポンドなど主要6通貨を対象とするドル指数.DXYをみると、10月1日を直近の高値に、ドルは軟調に推移しており、ここまでの説明と整合的だ。

この見方が正しければ、ドル資金への需要が強い年内については、ドルの下げ幅はまだ限定的な範囲にとどまる上、時折、堅調に推移する場面もみられそうだ。

しかし、年末接近に伴う季節的なドル需要は、多くの市場参加者が年末越えの資金調達にめどを付ける米国の感謝祭前後から遅くとも12月中旬のクリスマス前までに和らぐと考えられる。

それに応じ、ドル高圧力も11月中旬から下旬をピークに緩和していく公算が大きい。そして12月中旬から下旬、または遅くとも年明け以降、ドルは一転して幅広い通貨に対し、軟調な値動きに転じる可能性が高いのではないか。

もちろん、日本では貿易収支が赤字に転じており、対外投資に絡む円売り需要も根強いことから、ドル円でみれば派手なドル安・円高は進みづらいだろう。それでも、年明け以降、再び軟調に推移し、改めて105円に迫る可能性が高いと読む。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

内田稔氏

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。一貫して外国為替業務に携わり、2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から19年まで個人ランキング1位。

(編集:田巻一彦)

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