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コラム:ドル円初の6年連続下落へ、今後のドル買い介入に高いハードル=内田稔氏

[21日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)は、新型コロナウイルス禍の経済的打撃を食い止めるため、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の規模を拡大し、米連邦準備理事会(FRB)も、資産購入プログラムを「雇用の最大化と物価の安定の目標に向けて実質的な進展がみられるまで」継続すると宣言した。日銀は、金融政策の現状維持を決めたが、もともと長期国債の買い入れの上限を設けていない。対国内総生産(GDP)比でみた総資産規模は130%を超え、ECB(約60%)やFRB(約35%)を既に圧倒している。

12月21日、 欧州中央銀行(ECB)は、新型コロナウイルス禍の経済的打撃を食い止めるため、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の規模を拡大し、米連邦準備理事会(FRB)も、資産購入プログラムを「雇用の最大化と物価の安定の目標に向けて実質的な進展がみられるまで」継続すると宣言した。写真は米ドル紙幣。5月撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

未曾有のコロナショックの中、マイナス金利に関しては、FRBは否定的な立場を維持し、日銀とECBも引き下げには動かなかった。今後も資産買い入れが金融緩和の柱となるのだろう。

<資産買い入れと通貨安のカラクリ>

資産買い入れの狙いの1つは、名目金利と通貨価値の押し下げにある。しかし、ドル/円の年足は2016年以来、5年続けて陰線となる見込みで、ラガルドECB総裁らのけん制発言を横目にユーロ/ドルも3月の安値から最大15%も上昇した。日銀、ECBの資産買い入れはいずれも通貨安につながっていない。

名目金利の低下がどの程度、通貨安に波及するのかは、経常収支にある程度、依存する。国全体の資金不足を意味する経常赤字国の米国は、その埋め合わせを海外からの対米国債投資に依存している。金利が低下すると外国の投資家が投資を手控え、ドル買いが細るため、経常赤字国通貨であるドルは下落する。このドル安は、ドル建て資産が割安と映り、金利が低くても対米国債投資が再び活発化するまで続くと考えられる。

一方、経常黒字国の場合、政府部門の資金不足は、国内の民間貯蓄で賄われる。外国の投資家に依存していないだけに、高い金利で投資資金を引き付ける必要がなければ、金利低下が通貨安に波及する必然性も存在しない。同じ資産買い入れではあるが、通貨安を演出する観点では、米国に軍配が上がる。

<FRBの緩和は長期化へ>

資産買い入れを含むFRBの金融緩和は長期化するだろう。世界金融危機後もFRBは、償還分の再投資を除く資産買い入れを約6年、実質ゼロ金利政策を約7年も続けた。もちろん新型コロナを巡っては、ワクチンの開発と接種の進展により、来年以降の米経済が今年よりも明るさを増すと期待できる。

しかし、FRBは今年8月、インフレ目標を「平均2%」に変更し、労働市場の改善を粘り強く待つ意向を示した。コロナショック前でさえ、米国のインフレ率が平均的にみて2%を超えたのは、原油価格が高騰した時期にほぼ限られる。コロナ禍が終息へ向かえば、すぐにも物価の伸びが加速し、利上げ時期が近づくわけではないだろう。米国のねじれ議会による財政支援策も期待しづらく、景気が予想よりも下振れしているとFRBが判断するなら、追加緩和の可能性すら浮上する。

また、資産価格高騰への警戒から、バブルの芽を摘むためにFRBが緩和の幕引きを図ることも当面ないだろう。伝統的にFRBはバブルに対して、崩壊後に大規模な流動性供給といった事後対応で臨む立場だ。これは、FRBビューと呼ばれ、事前対応を求める国際決済銀行(BIS)ビューの対極をなす。労働市場が十分に回復するまで、FRBの緩和姿勢が揺らぐことはないだろう。ドルの低迷は長引く可能性が高い。

<日本、為替介入の前に数々の障害>

こうした中、本邦では為替介入を巡る議論が白熱しそうだ。しかし、その実施にあたっては相応の大義名分が求められ、日本を取り巻く状況は厳しい。

まず、ドル/円の値動きは緩慢だ。仮に100円を割り込んでもボラティリティが低ければ、投機的な動きを封じるとの説明は難しい。

次に、足元のドル/円下落の原動力はドル安だ。その是正を狙う協調介入でもなければ、日本の当局が介入してドル安を止めることは正当化されにくい。さらに、円が過大評価されているわけでもない。実質実効相場でみると、円は歴史的な安値圏からの反発途上にあり、反対に国際通貨基金(IMF)は、ドルが過大評価されているとしている。ドル/円の購買力平価も、現在100円程度に位置しており、100円を割り込んでも直ちに介入が正当化されるほど円が過大評価されているとは言い難い。

何より、日本が為替介入に踏み切った場合、米国の財務省から為替操作国に認定される危険性が高まる。米財務省は、3つの為替操作国の認定基準を示している(2015 法)。

それによると、過去1年間の対米貿易黒字が200億ドルを超えていること、経常黒字がGDP比で2%を超えていること、外貨買いの為替介入がGDP比で2%を超え、かつ過去1年間に6カ月以上の介入実績があることだ。

既に、日本は最初の2つの条件に抵触しており、従来より操作国の一歩手前にあたる監視対象先に指定され、要注意とのレッテルを貼られている。向こう1年の間に、6カ月以上にわたってドル買い介入を実施し、その規模が約11兆円を超えるとほぼ自動的に為替操作国に認定される。

その場合、米国の議会はその是正を日本に強く求め、もし協議が不調に終われば対日制裁関税の発動も辞さないだろう。それではたとえ円高を抑えることができても元も子もない。かといって操作国認定を免れるため、介入規模を抑えたり、実施期間の分散化を図っては、そもそも介入効果が薄れる。そうした姿勢を市場に見透かされてしまえば、介入のタイミングは市場参加者に絶好のドルの戻り売りの場を提供するだけとなる。

<ドル円、リスクは円高>

一方、国内の名目金利の低下に後押しされた本邦勢の外貨建て資産買い入れには、円高抑止効果が期待される。本邦勢による対外証券投資の活発化を主体にしたポートフォリオリバランス効果が見られるためだ。実際、マイナス金利政策が導入された2016年以降だけでも、本邦勢の中長期債と株式や投資ファンド持ち分への投資額は、取得から処分を差し引いたネットで90兆円を超える。

これに毎年約20兆円ペースで実行されてきた対外直接投資(ネット)も加われば、円高に対する一定のブレーキとはなるだろう。しかし、外為市場で円に絡むスポット取引は1日だけで約3600億ドル(約37兆2000億円)を上回る(2019年、BIS調べ)。本邦勢の円売りで円高(ドル安)の流れを反転させるのは難しい。

2015年6月以降、平均すると四半期ごとに1円ペースで下落してきたが、2021年も同様のペースでドル/円が下落する可能性が高い。2021年のドル/円は、史上最長となる6年連続の年足陰線を形成するとともに、年末時点で100円割れが定着していても不思議ではない情勢だ。年間の安値を97円程度と予想しているが、リスクはドル安・円高サイドに傾いているとみる。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査におけるリサーチ部門で2013年より8年連続個人別ランキング第1位、国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員。

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