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コラム:トリプルブルー下でドル安に転じる理由=内田稔氏

[27日 ロイター] - 年明け間もない1月6日、ドル/円は102.60円まで下落し、昨年3月以来の安値を記録した。その後は11日に104.40円まで反発し、上値が重いながらも、103円台で踏みとどまっている。

 1月27日、 年明け間もない6日、ドル/円は102.60円まで下落し、昨年3月以来の安値を記録した。写真は米ドル紙幣のイメージ。2018年2月撮影(2021年 ロイター/Dado Ruvic)

米国で民主党主導の政治的基盤が形成されるいわゆる「トリプルブルー」が実現する見通しとなり、大型財政出動への期待とともに米国の長期金利が1.2%に迫る上昇をみせ、ドル安圧力が緩和されたためだ。

この現象を受けて、ドル安・円高観測が後退し、ドルが持ち直すとの見方が台頭しつつある。しかし、筆者は引き続きドル安の大きな流れが継続し、年末に100円割れが定着している可能性が高いとみている。

これは、ゼロ金利政策を含む米連邦準備理事会(FRB)の緩和姿勢がそう簡単に揺らぎそうにない上、長期金利の上昇余地も限定的とみられるからだ。この結果、拡大した経常赤字が引き続きドルの重しとなり続ける公算が大きい。

<長期化するFRBの緩和姿勢>

まず、金融緩和スタンスの持続性について考えてみよう。FRBは昨年8月、「長期的な目標と金融政策の戦略」を公表し、その中でインフレ目標を「平均2%(Average 2% over time)」に変更。インフレ率の一時的な上振れを許容し、労働市場が十分に改善するまで、積極的な金融緩和姿勢を維持する方針を示した。

その労働市場について、コロナショック以降の非農業部門雇用者数(NFP)の変化をみると、昨年の3月と4月を合わせて、約2216万人分の職が奪われた。そこから、急回復したものの昨年12月の段階で984万人が依然として失職したままだ。

昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、2023年第4四半期に失業率が3.7%まで低下し、完全雇用が達成されるとの見通しが示された。単純に計算すると、失われた雇用を取り戻すには、毎月27万人を上回るペースで雇用が伸び続けなければならない。

ところが、昨年12月のNFPは、早くも8カ月ぶりに前月比14万人のマイナスに転じた。このことに照らせば、労働市場が3年で元に戻るとは考えにくい。実際、金融危機後、FRBが「量的緩和の縮小」(テーパリング)を決定した2013年12月は、失われた雇用が完全に解消した時期にほぼ一致する。

それまでに金融危機の発生から5年以上が経過していた。初の利上げは、テーパリングが終了した2014年10月からさらに1年以上も遅い2015年12月だ。失業率は、当時のFRBが完全雇用とみなしていた5%台半ばを下回る5%まで低下していた。

現在、FRBが当時よりも労働市場の改善を重視している点を踏まえると、彼らの緩和姿勢が米政府による財政出動の実行によって、早々と転換されるとは考えにくい。確かに未曾有のコロナ禍がゆっくりとした足取りながらも収束へと向えば、毎月1200億ドルにのぼる資産買い入れを対象にしたテーパリングに踏み出すタイミングが、金融危機後のケースと比べて早まるかも知れない。それでも、FRBは事前に市場との充分な対話期間を設けるとみられる。

また、過去に行った毎月850億ドルの資産買い入れのテーパリングに10カ月を費やしたことをみれば、今回のテーパリングも1年程度を費やすだろう。ゼロ金利政策の解除となると、2020年代の半ば以降へとずれ込むのではないか。

<米長期金利とドルの関係>

次に、長期金利の上昇余地について、およその見当をつけておく。FRBの緩和姿勢が続いても長期金利が上昇すれば、ドル高シナリオの現実味は増す。

しかし、長期金利が1%台の半ばを超えて上昇する可能性は低いとみられる上、仮にそこを超えた場合、ドル/円上昇シナリオとつじつまが合わなくなり、かえってドル/円の上昇は阻まれよう。

理論的な長期金利の水準は、期待潜在成長率と期待インフレ率、リスクプレミアムの合計となる。ここで、潜在成長率と概ね近似する自然利子率の推計値をみると、ゼロ%近辺まで低下している(Holston-Laubach-Williamsの推計)。経済を過熱も冷ましもせず物価に対する中立的な金利水準である自然利子率がここまで低下したのは、もちろんコロナショックの影響が大きい。

しかし、自然利子率はもともと金融危機を境に2%以上で推移していたそれまでの水準から大きく落ち込み、0.5%程度で低迷していた。ここで、期待インフレ率を2%とし、リスクプレミアムを無視すると足元の長期金利の理論値は2%程度となり、自然利子率がコロナショック以前の水準を回復した場合でも2%台半ばにとどまる計算だ。

また、2017年にFRBのエコノミストらが示した試算によれば、いわゆる1回目の量的緩和(QE1)から3回目の量的緩和(QE3)までの資産買い入れによる長期金利の引き下げ効果は、2016年末の段階で約1%とされた。当時に比べ、現在の資産買い入れの方が、毎月の購入額(フロー)、残高(ストック)ともに大きいが、長期金利の引き下げ効果を同じ1%とみると、長期金利はここから上昇してもせいぜい1%台半ばまでとなる。

特に気をつけたいのは、トランプ政権の下で、減税などの財政出動が講じられた後も、自然利子率がそれほど高まらなかった点だ。同様に、バイデン政権による財政出動を以て、直ちに長期金利が上がるとは考えにくく、後々の増税も考慮すればなおさらだ。そもそも、周到な準備を踏まえ、テーパリングが進んだ2014年、米国の長期金利がむしろ低下傾向をたどった点にも留意が必要だ。

こうしてみると、長期金利が1%台後半を通過して、2%台乗せを視界に捉えるとすれば、それは何らかの要因によってインフレ期待がさらに高まるか、国債増発に伴ういわゆる「悪い金利上昇」(即ちリスクプレミアムの上昇)による現象と考えられる。

前者は、金融緩和の早期打ち切り懸念につながる恐れが強まり、株式相場への強い逆風となりやすい。特に、米国のS&P500株価指数の予想PER(株価収益率)が現在23倍程度となっており、その逆数である益回りは約4.3%。仮に、長期金利が2%に迫ると、両者の格差(イールドスプレッド)は、株価急落に見舞われた2018年10月頃と同様、2%台半ばを下回る。緩和マネーに支えられているとは言え、相対的な株式投資の妙味が薄らげば、株式相場が値幅を伴う調整を迫られかねない。

金利上昇によるドル高と株式相場の下落を受けた円買いが重なれば、クロス円が急落するとみられ、ドル/円にも下押し圧力が加わろう。後者の場合も、ドル高を促す金利上昇とはならないだろう。

以上を踏まえると、実質トリプルブルーの実現は、米経済にとって朗報であることに違いないが。しかし、過去最大規模に迫る経常赤字に起因するドル安圧力は根強いとみられ、それを跳ね返すだけのドル高を誘発する金利上昇までは見込みにくい。

しばらくの間、ドル/円は上下とも決定打を欠き、ややこう着するかもしれないが、依然としてリスクバランスはドル安・円高方向に傾いているのではないか。現時点では、年内にドル/円が最大で97円程度まで下落すると予想している。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査におけるリサーチ部門で2013年より8年連続個人別ランキング第1位、国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員。

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