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コラム:ドル円、トランプラリー再現の可能性はあるか=内田稔氏

[10日 ロイター] - いくつものオシレーター系のチャートは、急ピッチで上昇したドル/円に対し、以前のトランプラリー(トランプ氏の米大統領当選で2016年11月から続いた株価急上昇)時に匹敵する「買われ過ぎ」を警告している。もちろん、足元の水準で日柄調整をこなせば、その警告も解消され、新たな高値圏へと浮上することも可能だが、問題は今のドル/円にそこまでの上昇力があるかどうかだ。

 3月10日、 いくつものオシレーター系のチャートは、急ピッチで上昇したドル/円に対し、以前のトランプラリー(トランプ氏の米大統領当選で2016年11月から続いた株価急上昇)時に匹敵する「買われ過ぎ」を警告している。写真は米ドル紙幣。トルコ・ディヤルバクルの両替商で2017年11月撮影(2021年 ロイター/Sertac Kayar)

<トリプルブルーでドル/円反転>

トランプラリーの発端は、大統領および上下両院の過半数を全て共和党が占めるトリプルレッドの実現だった。予想外の選挙結果を踏まえ、市場も巨額の減税を織り込みにいった。景気回復と利上げペースの加速が意識され、2年物や10年物の米国債利回りが上昇し、これがドル高を招いた。

しかも、それまで停滞感が強かった株式相場まで息を吹き返して堅調に推移。その後の1カ月あまりでS&P500指数も6%以上の値上がりをみせた。

一方、最近のドル/円急上昇も、今年1月5日の米ジョージア州での上院議員選の決選投票を経て、民主党が大統領と上下両院を制し、トリプルブルーを実現するという予想外の展開になったことが大きい。バイデン政権の大規模な財政支援策の実現を織り込む過程でやはり米長期金利が上昇し、ドル/円の反転をもたらしたためだ。

こうしてみると、足元のドル/円上昇は、さしずめバイデンラリーとみることもでき、トランプラリーにも匹敵するドル/円の急騰劇が、これから待ち受けているのかもしれない。

<2016年のマネー構造>

ただ、ドル/円相場を取り巻く環境を細かくみると、2016年当時と今とでは、大きく異なっている。そのことを確認するために、まず、トランプラリー時のドル/円急騰の突出ぶりを振り返っておこう。

ドル/円は、大統領選挙の投票日前日(2016年11月7日)の終値104.46を起点とすると、12月15日の終値118.17まで13.1%も上昇した。同じ期間に2年物国債の利回りは0.82%台から約46bp、10年物国債の利回りも1.82%台から約77bpとそれぞれ上昇。これらがドル高を招いたとされる。

とは言え、それで説明できるのは、せいぜい110円程度までだ。なぜなら、円を除く他の主要通貨に対する当該期間中のドルの上昇率は、平均5.1%に過ぎなかったからである。しかも、加ドルと英ポンドに対しては、ドルは下落している。

国境の壁建設の可能性が嫌気され、為替市場で特に弱かったメキシコペソに対してでさえ、ドルの上昇率は9.3%とドル/円を下回った。当時のドル/円上昇率の異様さが明らかであり、それだけにそのかなりの部分に関し、日本固有の要因によるドル買い/円売りが出回ったとみるのが妥当だ。

<ドル/円急騰の真相>

2016年の市場では、ドル資金の需給が逼迫していた。米連邦準備理事会(FRB)は金融政策の正常化に着手しており、既にマネタリーベースの拡大を停止していた。その上、金融危機の教訓から米国では2015年より、金融規制が相次いで強化され、大手米銀を中心にドル資金を出し渋る動きがみられていた。さらに2016年10月のマネーマーケットファンド(MMF)規制改革も加わって、市場に対するドル資金の供給が細っていたからだ。

これに対し、同年2月にマイナス金利政策が導入された日本では、それまでの国債投資の代替策として、為替ヘッジ付き外債投資が活発化。本邦勢のドル資金に対する調達需要は以前にも増して旺盛になっていた。そこに年末といった季節要因も加わり、2016年11月に入ると、ドル資金の調達コストが急騰。為替ヘッジ外しも含め、スポット市場における巨額のドル買い/円売りが、一段とドル/円を押し上げたとみられる。

<2021年の特徴>

現在のFRBは毎月1200億ドルの資産買い入れを継続し、ドルの調達環境にさほど緊張はない。また、労働市場を重視する方針に転じているだけに、金融政策の正常化までに、かなりの時間を要する見込みだ。このため、全体的なスティープ化は進んでいるものの、為替相場への影響が強い2年債の利回りに足元で顕著な変化はみられていない。

また、長期金利が1%台半ばを超えて上昇する場面では、株式相場が不安定な動きを繰り返している。いずれ市場の目が慣れていく可能性もあるが、2016年との違いは株式相場の割高感だ。例えば、S&P500指数の益回り(予想株価収益率の逆数)と長期金利との格差(イールドスプレッド)は、このまま長期金利が1%台後半へと上昇し、2%に迫れば、一段と縮小し、株式相場の急落がFRBに金融政策正常化方針を翻意させた2018年10月の水準と一致する。

つまり、長期金利の一段の上昇は、ドル高/円安ではなく、リスク回避的な環境をもたらす公算が大きく、その場合、ドル高とともに円高圧力も高めよう。必然的にクロス円の反落が見込まれ、ドル/円への下押し圧力となりそうだ。

特に、ここ最近の米長期金利上昇とドル高を受け、新興国ではトリプル安の様相を呈している。コロナ禍から脱却する途上にある世界経済にとって、当面の間、米長期金利上昇とドル高は、「不都合な現実」をまき散らすため、持続性に乏しい。

こうしてみると、バイデンラリーによるドル/円の上昇率は、トランプラリー時の円以外の通貨に対するドルの上昇率である概ね5%から、そう大きくかい離しないはずだ。今の相場の騰勢を考慮すれば、一時的に110円の大台を回復する可能性も否定できないが、さらなる続伸は考えにくい。上昇が一服した後は、再び緩やかなドル安・円高へと戻るだろう。

しかも、長期金利の上昇が和らぎ、リスクオン相場に回帰するなら、円安を上回るドル安によって、適温相場であった2017年と同じくドル/円はやはり軟化する可能性が高い。

<ドル/円が続伸する条件>

結局、このままドル/円が上昇軌道を描き続ける条件は、トランプラリー時と同様、長期金利のみならず、利上げを織り込みながら、短期ゾーンの金利も上昇し、それでいて株式相場も底堅さを保つことだろう。

おりしも2月の米雇用統計は、市場予想を大きく上回り、市場も米経済の先行きに対する自信を深めたはずだ。また、原油先物相場(WTI)が現在の水準を保つだけで、3月以降の前年比でみた伸び率は100%を大きく超えてくる。一般物価の上昇にも波及するとみられ、しばらくの間、景気好転によるインフレ圧力の台頭と映る可能性もあるだろう。

以上の点を踏まえると、今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)における政策金利見通し(いわゆるドットチャート)は重要だ。昨年12月時点に比べ、2022年末、2023年末までの利上げが妥当であるとする回答者が増えていた場合、市場でも利上げの前倒しが意識されそうだ。こうした点を念頭に、予断を持たず緊張感をもって臨んでいくほかないであろう。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査におけるリサーチ部門で2013年より8年連続個人別ランキング第1位、国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員。

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