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コラム:今年度末のドルは105円台か、米労働市場のスラック影響=内田稔氏

[13日 ロイター] - ドル/円は今年2月ごろからより騰勢を強め、3月31日に一時110円97銭まで上昇した。その後、109円台まで反落するなど失速しているが、底堅さも保ち、再び上昇する機会をうかがっているとの見方も根強い。そこで、本稿では年初来のドル/円上昇の背景と今後の米国の金融政策なども踏まえ、年度内のドル/円相場を展望する。

 4月13日、ドル/円は今年2月ごろからより騰勢を強め、3月31日に一時110円97銭まで上昇した。その後、109円台まで反落するなど失速しているが、底堅さも保ち、再び上昇する機会をうかがっているとの見方も根強い。内田稔氏のコラム。写真は米国の5ドル札。2015年3月撮影(2021年 ロイター/Gary Cameron)

<ドル/円上昇、けん引役は円安>

はじめに、年初来8円以上のドル高・円安が進んだ背景を確認しておこう。今年の第1四半期、円を除くG10(主要10カ国・地域)通貨に対し、ドルは平均して約2.3%上昇したのに対し、ドルを除くG10通貨に対し、円は平均すると約4.6%も下落した。それぞれの算出に際し、円とドルを除くのは、同じ8通貨を対象としたドルと円の変化率を比べるためだ。こうしてみると年初来のドル/円上昇には、ドル高を大きく上回る円安が影響したことが見て取れる。

この背景には、日本からみた対外金利差の拡大がある。市場では、世界経済が正常化に向うとの期待が高まりつつある。これを受け、第1四半期は、カナダを筆頭にG10通貨の長期金利が上昇した。

加えて、折からの緩和マネーも加わり、引き続きリスク選好地合いも継続。投機筋による円の先物ポジション(ネット)も、昨年までのロングからショートへ転じており、リスク選好の円安も連想されているようだ。こうした期待が持続する限り、名目実効相場でみた円は、まだ続落余地を残している。

<ドル/円の上昇は限定的>

一方、ドル/円に限ると、ここからの上昇は限定的とみられる。年末に向けては、再び緩んでいく可能性が高いだろう。以下でその要因をみておく。

リスク選好地合いが続く場合、ドルも調達通貨となりやすい。次第にドル安相場へと転じれば、ドル/円も下落するだろう。最近の例としては、2017年が該当する。当時、「適温相場」と評され、市場のセンチメントは良好な状態が続き、恐怖指数で知られるVIX指数も一貫して低下。為替市場では円が軟調に推移したものの、それを上回るドル安により、ドル/円は年間を通じて下落した。過去、統計的にみてもドル安相場の時、ドル/円も素直に下落することの方が圧倒的に多い。

次に、米国の貿易赤字は今年2月、過去最大規模を記録した。経常赤字も拡大基調にあり、その円滑なファイナンスに必要な対内米国債投資を誘引するために必要な金利水準は高まっているとみられる。

実際に年初来、米国の長期金利が約80ベーシスポイント(bp)も上昇した割に、幅広い通貨に対するドル高の程度が限定的であるのは、経常赤字の規模に照らし、金利水準が不足しているせいだろう。

安定的なドル高には、2年から5年ゾーンの国債利回りの上昇も重要だが、いずれの年限でみても、ここからの金利上昇はドル高を促すとは考えにくい。それは、利上げ開始時期がまだ遠く、利上げの天井も高くないとみられるからだ。

<テーパリングは2022年開始か>

米国では、3月の非農業部門雇用者数が91万6000人も増加した。コロナショック後に14.8%まで跳ね上がった失業率も6.0%まで低下した。また、前年比プラス0.5%まで落ち込んだPCE(個人消費支出)ベースのインフレ率も、2月には同1.6%までじわりと高まってきた。

3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で示された参加者らの政策金利の予想分布図(ドットチャート)は、中央値こそ2023年末までのゼロ金利継続を示唆したが、利上げを主張する参加者が増えていた。以上を踏まえ、市場では2022年中のテーパリング(債券購入額の段階的縮小)開始と翌2023年中のゼロ金利解除といったシナリオが意識されている。

確かに、米連邦準備理事会(FRB)は、補完的レバレッジ比率(SLR)に関する緩和措置を予定通り、3月末で打ち切った。緊急措置として始まった性格の強い資産買い入れだけに、市場との対話を経て、FRBが2022年のどこかでテーパリングに着手する可能性が高い。とは言え、コロナショック前の労働参加率(63.3%)で計算すると、失業率は8.7%とまだ高く、昨年3月以降に失職し、まだ復職できていない人も、今年の3月時点で840万人にのぼる。レジャー・宿泊業での大幅な雇用の増加が一巡すると、ショック前の平均的な雇用の増加ペース(毎月20万人程度)に落ち着いてくるだろう。

800万人規模の失職者がこのペースで復職する場合、元に戻るまでに40カ月を要する計算だ。また、インフレ率に関しても、4月ごろまでは原油先物相場が前年比でプラス200%を超えるため、幅広い物価に上昇圧力が加わりそうだが、そうした効果は5月以降、徐々に衰える。このため、年後半に入ると利上げ時期は、2024年以降に後ずれするとの見方が次第に強まっていく可能性が高い。

<スラックは長期間残存>

現在、米経済はかつてない危機を乗り越え、未曾有のショックからの回復途上にある。その行く先には以前の力強い米経済が待ち受けているとの期待が強い。

しかし、コロナショック前の米経済を振り返ると、失業率が3%台まで低下した好況期でさえ、インフレ率が安定的に2%台を上回ったのは、原油先物相場が前年比で大きく伸びた時期に概ね限られる。

その上、2018年9月に政策金利が2.00─2.25%まで引き上げられた時点で株式相場の上昇が一服。同年12月の追加利上げの後、S&P500株価指数が10月の高値から約2割も下落した。結局、そこが利上げの天井となって、FRBは正常化(利上げ)路線の撤回を余儀なくされた上、翌19年には利下げに転じた経緯にある。

労働市場のスラックが長期間、残存する可能性を踏まえると、インフレ圧力は高まりにくいはずだ。利上げ開始後の天井が、2018年の水準を下回るとの見方が優勢となれば、自ずと米ドルの金利上昇は控え目な範囲にとどまろう。

<ドルは経常赤字が重しに>

ドル金利の上昇が限定的な範囲にとどまることは、米国の株式相場のみならず、新興国を含むグローバル経済にとっても追い風だ。ある程度のリスク選好地合いが続くと期待でき、あまり極端なドル安/円高とはなりにくいだろう。

しかし、その場合、あまり上がらない金利水準と拡大傾向をたどる経常赤字が重しとなって、ユーロや円、スイスフランのほか人民元といった経常黒字国通貨に対し、緩やかなドル安が再開する可能性が高い。

このため、今年の年末から2022年3月の年度末に向けて、ドル/円も105円程度に向け、徐々に軟化していく可能性が高いとみる。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査におけるリサーチ部門で2013年より8年連続個人別ランキング第1位、国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員。

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