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コラム:インフレ期待と連動する円安、いずれ基調転換も=内田稔氏

[26日 ロイター] - 長らく110円近くでこう着していたドル/円相場が9月下旬以降、急騰劇を演じ、10月20日にドル114.69円と約4年ぶりの高値に達した。この動きから再確認できたドルと円の論点と先行きについて分析していく。

 10月26日、 長らく110円近くでこう着していたドル/円相場が9月下旬以降、急騰劇を演じ、10月20日にドル114.69円と約4年ぶりの高値に達した。都内で8月撮影(2021年 ロイター/Fabrizio Bensch)

<上がり切れないドルの弱さ>

ドル/円の上昇が9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後に始まった。そのため、ドル/円上昇の要因が、日米の金融政策の違いや金利差拡大観測と映る。実際、市場参加者が注目するドルの名目実効相場、ドル指数も10月12日に年初来高値を更新した。

しかし、FOMC声明発表前日の終値(9月21日)とドル/円が直近高値を記録した10月20日を比較した主要10通貨(ドルを除くと9通貨)の対ドル変化率をみると、円が約4.4%、ユーロが約0.6%下落したほかは、残る7通貨(豪ドル、ニュージーランドドル、スイスフラン、ノルウェークローネ、スウェーデンクローナ、英ポンド、加ドル)はいずれも上昇している。

この間の強弱をランキングすると円が最下位だが、9番目のユーロに次いで、ドルも8位と弱い。このことから、ドル/円急騰のほとんどが円安によるものと言え、まずはここをしっかりと押さえておきたい。先のドル指数がドル高方向に動いたのは、算出する際のウェートに関して、ユーロと円が約7割も占めているからに過ぎない。 

重要な点は、幅広い年限の米国債利回りがこの間、上昇したにもかかわらず、総じてみればドル安が進んだことだ。最近のテーマはインフレであり、ほぼ一貫して利上げの織り込みが進んだ。

これを受け、短期から中期の金利はもちろん、インフレ期待上昇にもけん引され、米長期金利も1.7%まで上昇した。こうした中でのドル安進行は、筆者が過去のコラムで指摘してきた数点について、概ね妥当性があることを示唆している。

1点目は、過去最大規模にまで拡大しつつある経常赤字をファイナンスするには、金利水準が全く魅力に乏しいこと。2点目は、実質実効相場でみたドルが既に割高な領域にあるため、金利上昇に対する感応度が低下していることだ。3点目は、概ね好調な企業決算を背景に、米国の株式相場が堅調に推移しており、リスクオンによるドル安圧力も加わる公算が大きい点だ。

今後とも、金融政策の正常化は、必ずしもドル高の到来を意味しないだろう。ドル/円がさらに力強く上昇していくためには、「円安」のみならず「ドル高」も必要とみられる。逆に言えば、ドル高が見込み薄ならば、ドル/円の続伸余地もそれほど大幅にはなりにくい。

<健在なインフレ期待と円相場の関係>

一方、円についてみると、今年に入ってほぼ独歩安の様相を呈した年初から6月までの期間と、9月下旬以降の局面のいずれも、インフレ期待が顕著に上昇した点が共通項だ。

どちらの場面も、日本の実質金利の低下が円安に波及したとみられる。もともと筆者は、コロナ禍の長期化に伴い、日本ではインフレ期待が高まりにくいばかりか、さえない景況感も加わって、低下する可能性が高いと予想。異次元緩和によって、名目金利が低く抑え込まれても、実質金利が上がりがちとなって、年末に向けて円高傾向が強まると予想してきた。

ところが、実際には、北米を襲ったハリケーンによる影響から供給制約が強まり、原油先物相場が9月以降、じり高に推移。天然ガスも冬場に向けて需要が高まる時期に、ロシアからの欧州向け供給が細るとの懸念から高騰した。電力不足に陥る中国を起点に、石炭市況も跳ね上がるなど、国際的な商品市況の急騰が世界的なインフレ圧力として顕在化しつつある。

6月から7月にかけてピークアウトしていた米国の消費者物価指数も、9月に再び伸びが加速。インフレ期待が円相場を大きく突き動かす波及経路の存在が、改めて確認された格好となっている。

実際、今年の年始からインフレ期待の上昇とともに円安が進んだ場面でも、6月以降、新型コロナウイルス・デルタ株の急拡大とともにインフレ期待が低下に転じると、円は幅広い通貨に対して、急反発した。

例えば、年始の79円台から85円台まで上昇した豪ドル/円は、8月にかけて反落し、一時は77円台まで沈む場面もみられた。ここからの円相場を展望する際、世界的に、あるいは日本のインフレ期待がさらに上がるとみるなら円安予想を、反対にインフレ期待が落ち着きを取り戻し、しぼんでいくとみれば円の反発予想を立てることが合理的となるだろう。

<侮れないインフレ期待の上昇>

インフレについてみておくと、国際的な商品市況の急騰を主因としつつ、グローバルなサプライチェーンの乱れや経済活動に対する行動制限の緩和も加わり、世界的にインフレ期待が上昇している。これは、消費や投資の前倒しを促し、自己実現的にインフレ圧力を高める効果を持つ。

8月27日、米ジャクソンホールでの講演でパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、インフレを一時的とみなす5つの要因に言及。その1つにインフレ期待の安定を挙げていた。

しかし、その後の米国でもインフレ期待は高まっており、パウエル議長も最近、インフレを一時的とする総論を維持しつつ、長期化するリスクへの警戒を強めている。経済規模の大きい北半球が冬場のピークへと向う年内は、国際的な商品市況も騰勢を保つ可能性が高く、その観点で言えば、まだ円安圧力が残る可能性が高い。

先に指摘したとおり、ドル高は見込みにくいため、ドル/円の大幅な続伸は想定しづらいが、それでも115円を上抜けし、116円程度に達する場面は想定する必要がある。無論、年明け以降もインフレ高進が続くなら、一段の円安も視界には入ってこよう。

<インフレ期待のピークがドル/円のピーク>

一方、今年の6月以降と同様に、インフレ期待が低下に転じる場合、円も持ち直すだろう。国際的な商品市況が反落する場合はもちろん、インフレがかえって需要を抑制し、経済活動への強い逆風となれば、インフレ期待も沈静化へと向うはずだ。実際、国際通貨基金(IMF)は、10月に2021年の世界経済見通しを引き下げたが、その要因に新型コロナウイルスの感染拡大と政府債務の膨張に加え、インフレも挙げた。

足元では、米長期金利が上昇したが、まだ今年のピーク(3月30日の1.77%)には及んでいない。理屈で言えば、長期金利は、インフレ期待と期待潜在成長率とリスクプレミアムから構成されている。

このうち、インフレ期待は上昇しており、米国の財政赤字の拡大に照らせば、リスクプレミアムも上昇しているはずだ。それでも長期金利が伸び悩んでいるのは、期待潜在成長率が低下しているためだろう。

インフレに対するネガティブな面がより重視されるようになれば、期待インフレが年内のより早い時期に低下に転じる可能性も浮上する。衆院選を控える日本でも、供給側の要因を除けば、インフレ圧力が高まる環境とはなりにくいだろう。その点を考慮すれば、インフレ期待がいずれはピークを迎え、そこからドル/円相場も110円方向に向って反転していくがい然性が高いと考えられる。

編集:田巻一彦

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査で2013年より9年連続個人ランキング1位、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定アナリスト、経済学修士(京都産業大学)、証券アナリストジャーナル編集委員。

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