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コラム:ドル120円維持は困難、日銀発の円高リスクはあるのか=内田稔氏

[20日 ロイター] - 毎年11月の終わりをめどに、筆者は翌年のドル/円相場見通し、ハウスビューを対外的に公表してきた。この2022年に関しては、米国の金融政策の正常化とともにドル/円が上昇するとのコンセンサスに反し、緩やかな下落予想を示した。

 1月20日、毎年11月の終わりをめどに、筆者は翌年のドル/円相場見通し、ハウスビューを対外的に公表してきた。写真は米ドル紙幣。2009年11月撮影(2022年 ロイター/Rick Wilking)

これまで本稿でも指摘してきた通り、割高なドルの一段高には限界があるとみているためだ。加えて過度なインフレ懸念の後退によって、インフレに対するぜい弱さを露呈した円も多少は持ち直すと見込んだ。

翻って、ここまでのドルは、概ね予想に沿った動きをみせている。ドル指数は、昨年11月24日に直近の高値を記録した後、頭打ちとなり、今年1月19日時点では1%以上も安い。この間、米連邦準備理事会(FRB)による利上げの前倒しが意識され、2年物国債の利回りが40bp以上も上昇。長期金利(10年物国債の利回り)も1.9%台を記録したが、それを横目にドル安が進んだことになる。

経験則上、金利の動きに対する為替相場の感応度をみる上で、Value判断が欠かせない。特に米ドルの場合、実質実効相場(国際決済銀行、Narrowベース)は、過去20年間の平均より約15%、対円相場も昨年末の購買力平価(IMF調べ、98.25円)から約17%、それぞれ高い。今後も利上げを横目にドルは、円やユーロといった対経常黒字国通貨を中心に緩んでいく可能性が高いだろう。

<依然として円は軟調推移>

対照的に、今のところ円は全く期待外れだ。昨年10月以降、資源価格の騰勢が一服し、インフレ期待の上昇に歯止めがかかると円は反発。名目実効相場(対主要10通貨、均等ウェート)でみて、昨年年初からの下げ幅の6割を回復する局面もみられた。

ただ、オミクロン株への過度な警戒が和らぎ、再び石油価格をはじめとするコモディティ相場の騰勢が強まると反落。年明け早々にはドル/円も円安にけん引されて一時116.35ドルまで上昇した。今年の円相場も、昨年同様にインフレの動向がカギを握ることは間違いない。足元では地政学リスクも一因に石油価格が高騰しており、当面、円の独歩安に警戒を要する。

<大幅円安、過去も長続きせず>

もっとも、市場でささやかれる1ドル=120円説には懐疑的だ。これは、昨年末時点での購買力平価から2割以上もドル高・円安水準に相当し、そうしたドル高・円安水準の持続性が過去において乏しかったためだ。

例えば、1980年代半ばにかけて、インフレ退治に注力したボルカー議長率いるFRBの高金利政策を発端にドル高が進行。ドル/円は当時の購買力平価から2割以上もオーバーシュートした。ただ、そのドル高に悲鳴をあげた米国主導の下でプラザ合意による協調介入が実施され、ドル/円は人為的に引きずり降ろされた。

2015年6月にも日銀の異次元緩和による円安効果と利上げを期待したドル高によって、ドル/円は126円に接近。やはり同程度の購買力平価からのかい離が生じた。しかし、日本銀行の黒田東彦総裁が同月の国会答弁で、実質実効為替レートを引き合いに一段の円安進行に対する懐疑的な見方を示したことでドル/円は反落。以後、5年以上に及ぶドル/円下落のきっかけを作った格好となった。

<一段の円安は国内で警戒感も>

現在の状況を踏まえると、仮に120円付近に達した場合でも、米国がドル高・円安をけん制してくる可能性は低い。保護主義色が強い民主党は、本来ならドル安を志向しているが、中間選挙を控えたバイデン政権はインフレに神経をとがらせているからだ。インフレを抑制する効果のあるドル高に対し、敢えてけん制してくるとは考えにくい。むしろ、一段の円安進行には、日本国内でその是非をめぐる議論が活発化しそうだ。

仮に、円が続落すると既に最安値圏に達した実質実効相場に続いて、名目実効相場でも円は最安値圏に迫る。輸入物価指数の伸びが、前年比で4割以上と第2次オイルショック以来の高い伸びをみせる中、さらなる輸入品価格の上昇を助長する円安に対する警戒は強まる可能性が高い。

特に日本では物価の伸びに賃金の上昇が追いついておらず、実質賃金の前年割れが続く。日銀による最新の「生活意識に関するアンケート」でも、8割以上の回答者が物価上昇を困った現象としており、インフレに対する家計の不満や不安は根強い。

ここからかなりの賃上げが実現しない限り、インフレ高進は次第に家計の財布のひもを堅くする恐れが強く、それは政治サイドからの円安けん制につながるおそれもあるだろう。

<黒田総裁後任人事の影響>

1月18日の金融政策決定会合後の記者会見をみる限り、黒田総裁の任期中に日銀の緩和継続スタンスが揺らぐことはなさそうだ。ただ、今年の半ばを過ぎれば、次第に来年4月8日に任期を迎える黒田総裁の後任人事に市場の関心も集まっていくだろう。

また、総裁交代に前後して、10年間に及ぼうとする異次元緩和に対する見直しが検討される可能性も低くない。政策の不連続に対する警戒が高まれば、若干ながらも長期金利に上昇圧力が加わるかもしれない。

今年もある程度のインフレ警戒がくすぶるとみられ、派手に円高が進む地合いには全くない。それでも、ドルのパフォーマンスがさえなければ、年末にかけてドル/円が小緩んでいく可能性の方が高い。

また、地政学リスクや供給制約への不安が和らぎ、石油価格の騰勢も落ち着きを取り戻せば、円の持ち直しも期待できる。このため、総じてみれば、年末に向けてドル/円が110円方向に向かって緩むとのシナリオを維持することが現時点では妥当だろう。

金利の動きに対する為替相場の感応度合いは、Value判断とセットで考慮すべきと指摘したが、円はドルと逆の位置づけだ。つまり、円はかなり割安な水準まで値下がりしているだけに、わずかな日本の長期金利の上昇にも、円高方向へ動意づく可能性が低くないということだ。

その点、日銀の金融緩和の連続性に対する疑念が生じることにより、ドル/円がドル安・円高方向に勢いづく可能性にも、一定の留意は必要だろう。

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査で2013年より9年連続個人ランキング1位、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定アナリスト、経済学修士(京都産業大学)、証券アナリストジャーナル編集委員。

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