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コラム:円高阻む複数の経路、リスクは次第にドル高・円安へ=内田稔氏

[25日 ロイター] - 3月上旬に138円台に迫ったドル/円は、米銀の相次ぐ経営破綻を受けて反落した。ドル指数は4月に入ってからも続落しているが、ドル/円はそうではない。3月下旬に130円を割ったものの、そこから持ち直しに転じると一時135円台に戻すなど、むしろ底堅く推移している。ドル安が円高には結びつかないようだ。

 ドル/円は3月下旬に130円を割ったものの、そこから持ち直しに転じると一時135円台に戻すなど、むしろ底堅く推移している。ドル安が円高には結びつかないようだ。写真は円紙幣と日本の旗。2017年6月撮影(2023年 ロイター/Thomas White)

実際、この間、クロス/円が堅調に推移しており、ユーロ/円やスイスフラン/円はドル/円が150円大台に達した昨年秋ごろの高値圏で推移している。ドルに限れば、債務上限問題や年末にかけての利下げ観測が意識され、続落するとの見方も多い。

ただ、日本固有の円安材料に照らせば、ドル安に頼る円高には限界がある。また、ドルと円の状況を踏まえれば、ドル/円のリスクはややドル高・円安に傾斜していくとみられ、以下でポイントを整理する。

<不整合な利下げと資産圧縮>

米国の金融政策を展望すると、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で25bpの利上げが濃厚で、そこから様子見に転じそうだ。米連邦準備理事会(FRB)の四半期次シニアローンオフィサーサーベイによれば、貸出態度が厳格化しており、融資時の上乗せ金利も拡大している。利上げを止めても、じわりと金融引き締め効果が広がる可能性が高い。

また、FRBが重視する四半期次の共通インフレ期待指数も昨年の第2四半期をピークに3四半期続けて低下した。もっとも、4月11日に米ニューヨーク地区連銀が公表した年次報告書によれば、FRBの保有資産の縮小は続く見通しで、2025年半ばにはピーク時より約2.5兆ドル少ない6兆ドル程度に達するとされた。

量的な引き締めと利下げは例えるなら、景気へのブレーキとアクセルを同時に踏むことに近く、組み合わせとしては不整合だ。利上げの休止後も利下げのハードルは高そうだ。

もちろん、金融政策の行方はデータ次第とされる。そこで3月の消費者物価指数(CPI)を振り返ると、総合の前年比の伸びが縮小した一方、コアの伸びは前月を上回った。

クリーブランド地区連銀が公表するインフレの事前推計値、インフレーションナウキャストによれば、4月はヘッドラインの伸びも3月をわずかに上回ると見込まれている。このほか「住居費を除くサービス業」、いわゆるスーパーコアも前年比プラス5.81%とインフレ目標には遠い。

労働市場をみても、賃金はまだ伸びている。2月時点の求人件数も失業者数の約1.7倍と高水準で、かつてパウエルFRB議長が好ましいとした1倍程度と次元が異なる。

さらに厄介なのが、石油輸出国機構(OPEC)の減産方針だ。原油価格は一時に比べて持ち直したが、仮に1バレル80ドル台が定着すれば、9月以降、前年比でプラス圏に再浮上する可能性が高い。米国のインフレ期待がガソリン価格の影響を受けやすい点を踏まえれば、ますます利下げは遠のこう。

年末に向け、市場での利下げの織り込みが後退する可能性が高いとみられ、ドルも持ち直しに転じるか、少なくともドル安には歯止めがかかるだろう。

<円高阻む複数の経路>

円相場についても、金融政策が重要となる。これまでの植田和男・日銀総裁の発言からすれば、2%の物価安定目標は堅持されよう。ただ、その達成が見通せておらず、今年度についてはインフレ率の低下が見込まれている。マイナス金利を含むイールドカーブコントロール政策(YCC)の継続が適切とされ、日銀の緩和スタンスは続く見通しだ。

その点、今月の「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」に注目が集まる。新たに示される2025年度の物価見通しが2%近傍となれば、YCCの修正観測が円高圧力となる。

反対に、目標達成が見通せていない場合でも、YCCの長期化を見据え、副作用の軽減を狙った上限金利の引き上げや撤廃といった決定が、早い時期に下されても全く不思議ではない。

とは言え、いずれの場合でも日本の長期金利は0.7─0.8%止まりとの見方が市場では多い。日本経済の低成長が見込まれており、縮小傾向にあるデフレギャップもその解消には不確実性を残しているためだ。

また、為替ヘッジコストの急騰によって外債投資が敬遠される中、本邦勢の旺盛な長期国債への投資需要も見込まれる。さらに、日銀が大量の国債を保有し続けることによる金利上昇抑制効果も働く。

このため、YCCの修正が号砲となって円高地合いに転じていくわけではあるまい。例えば、ドルが天井を打った昨年11月以降のドル/円と日米長期金利差との関係に照らせば、10bpの金利差縮小は約1円50銭のドル安・円高を招く。仮に、日本の長期金利が0.8%まで上昇し、金利差が30bp縮小してもドル安・円高は5円以内にとどまる計算だ。しかも、当面の円高材料の出尽くしが意識された途端に円は反落する可能性が高い。

<輸入以外の需給不安>

こうしたさえない値動きを見込む根底にあるのは、根強い円売り需要だ。2022年度の日本の貿易赤字は、約21兆7285億円と比較可能な1979年以降で過去最大を記録した。原油相場の値下がりも期待しにくく、輸入額の高止まりが懸念される。

また、その陰で見過ごされがちだが、輸出も数量ベースですう勢的な減少が続いており、今年度も高水準の貿易赤字が見込まれる。訪日外国人の増加は旅行収支黒字の拡大を通じた円高圧力になるが、過去最高を記録した2019年でも約2.7兆円だ。貿易赤字の規模に照らせばその影響は限られよう。

さらに、米銀の経営破綻後の投機筋の動向をみると、リスク回避の円買いも以前に比べて起こりにくくなっているようだ。例えば、3月上旬まで拡大基調にあった円ショートはその後、縮小に転じた。一方、円ロングは横ばい圏にとどまっており、年初よりもむしろ低水準だ。

日本からみた対外金利差が近年みられなかったほどに拡大しており、金利の逆ザヤを招く他通貨ショート・円ロングの構築は容易ではないのだろう。これからもリスク回避の円買いは起こりにくいか、起こったとしてもその効果は限定的とみられる。

<リスクはドル高・円安に傾斜か>

YCC修正への思惑が昨年のようなフリーフォールの円安を阻む上、米国の利下げ期待もドル/円の上値を抑えよう。向こう1、2カ月を展望すると、3月に失敗した138円台乗せは引き続き容易ではなさそうだ。

一方、その利下げ期待が台頭し、米銀破綻といったリスク回避の円買い材料が浮上した後も、ドル/円が底堅さを保っている点は重要だ。絶対的な金利水準と原油に絡む交易条件において劣勢に立たされる円が、対ドルで持続的に上昇することの難しさの表れと映るからだ。

依然としてドル/円は130円台前半でのレンジ内で推移しそうだが、底堅い値動きが長引くほど、リスクはドル高・円安サイドに傾いていくのではないか。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*内田稔氏は、高千穂大学商学部准教授、ALCOLAB外国為替アナリスト。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。マーケット業務を歴任し、2012年から2022年まで外国為替のチーフアナリスト。22年4月から現職。J-money誌の東京外国為替市場調査では2013年より9年連続個人ランキング1位。国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、経済学修士(京都産業大学)。

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