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コラム:ドル高誘発の「バイデンラリー」はあるのか=内田稔氏

[14日 ロイター] - 民主党のバイデン前副大統領は11日、副大統領候補者として中道・穏健派とされるカマラ・ハリス上院議員を指名した。いよいよ大統領選まで3カ月を切ったこともあり、市場でもその結果を巡る様々な考察が飛び交おう。そこで今回は4年前のトランプラリーとの比較も交えながら、選挙結果に応じたドル/円の動きを考察しておきたい。

8月14日、民主党のバイデン前副大統領は副大統領候補者として中道・穏健派とされるカマラ・ハリス上院議員を指名した。デラウェア州ウィルミントンで13日撮影(2020年 ロイター/Carlos Barria)

<トランプ勝利でも、ねじれ議会の副作用>

現在、支持率ではバイデン勝利が有力視されている。新型コロナウイルスの感染拡大と甚大な人的被害がトランプ政権への逆風となっており、人種差別問題を放置または助長したとの非難も聞かれる。トランプ大統領だけでなく、上下両院選でも共和党は苦戦を強いられる可能性が高い。

仮に、現職有利との経験則に従い、トランプ氏が大統領選を制した場合でも、議会選挙では現状と同じく下院の過半数を民主党が握る可能性が高い。また、上院も民主党の改選議席12議席に対し、共和党では23議席にも及ぶことから、上院でも共和党が過半数を失う可能性も低くないだろう。

ねじれ議会の帰結は、「決められない政治」だ。今も追加の景気対策を巡る与野党の攻防は、長期化の様相を呈している。業を煮やしたトランプ氏の大統領令によって失業保険の給付上乗せの失効こそ回避されたものの、現在のままでは9月中旬にも予算が底をつく見込みだ。

議会での主導権を握れなければ、大統領選を制したところで早晩レームダックとなる恐れが強い。そうなればコロナ禍長期化に伴う景気対策のしわ寄せは、おのずと米連邦準備理事会(FRB)の追加緩和へと向かうだろう。既に低水準となっている米国の金利に一層低下圧力が加わるとみられ、経常赤字国通貨であるドルにとっては重しとなりそうだ。

もちろん国債増発による金利上昇圧力が加わる可能性もあるが、その場合こそ、FRBが現在検討しているYCT(Yield cap and target、いわゆるイールドカーブコントロール)を講じ、金利上昇の抑制に乗り出すだろう。

一方、バイデン勝利ならどうか。高齢による健康不安説や失言癖が指摘されることも多いが、初の女性副大統領誕生への期待も相応に高まろう。何より共和党への逆風は民主党への追い風となりやすく、上下両院も民主党が過半数を握る可能性は低くない。共和党と民主党の違いはあるが、ホワイトハウスと上下両院の過半数政党とが一致するなら、4年前のトランプラリーならぬ「バイデンラリー到来」への期待も高まると予想される。  <トランプラリーとドル高のからくり>

ここで4年前のトランプラリーを簡単に振り返っておこう。当時、共和党の予想外の完勝を受けて、共和党が公約として掲げていた財政拡張策の実現が急速に意識された。

S&P500株価指数.SPXが選挙明けから年末までに最大で約9.2%、長期金利(10年米国債利回り)US10YT=RRも約87ベーシスポイント(bp)それぞれ上昇し、為替市場ではドルが急騰。中でもドル/円JPY=EBSは、開票作業中のザラ場安値101円19銭を底に12月半ばには一時118円66銭を記録する大相場を演じた。

ただ、結論から言えば、バイデンラリーの再来は期待しにくい上、仮にドル/円が上昇する場合も当時を超えることはないだろう。理由として以下の3点を指摘しておく。

<ドル高にならない3つの理由>

トランプラリーにおける対主要通貨でのドル高は3─6%前後に過ぎず、ドル/円も本来なら110円付近で上昇が一服したはずだ。それが対米関係の悪化が懸念され、大幅な対ドルでの急落に見舞われたメキシコペソをしのぐ円安に見舞われた一因は、投機筋の円ロング(買い)から円ショート(売り)への大転換だ。

当時、米経済の減速が見込まれ、株式相場の低迷とドル/円の軟化が予想されていた。このため、為替市場では円高を期待した円ロング(ネット)が積み上がっていたところ、米長期金利の上昇によってドルが反発。このサプライズが円ロングの解消と円ショートへの転換を招き、円の急落をもたらした。

現時点では、今年の大統領選の直前におけるポジションの傾きや規模は不明だ。ただ、そもそもバイデン勝利なら概ね事前の予想に沿った結果と言え、サプライズ感は乏しい。しかも前年に記録した125円台から100円割れに至るドル/円の急落を目の当たりにして臨んだ当時に比べ、ドル/円のボラティリティは低下している。円ロングが造成される場合も、その規模は当時には及ばないだろう。円ロングからショートへの転換が起きても、そのインパクトは当時を下回ると考えられる。

次に、ドル/円急騰には本邦勢のドル資金のひっ迫も影響した可能性が高い。米国では2015年から金融規制が強化され、米国の大手金融機関はドル資金の放出を渋りつつあった。2016年10月には、これにマネー・マーケット・ファンド(MMF)の規制改革も加わり、ドルの供給が急縮小。マイナス金利に苦しむ本邦勢を含めた非居住者のドル需要の高まりもあって、ドル資金の需給はひっ迫していた。

そこに年末を控えたタイミングも相まって、ドル/円急騰を助長したとみられる。実際、ドル資金の需給ひっ迫度合いを表すベーシススワップのスプレッド(円投・ドル調達、3カ月物年率換算)は2016年10月下旬から11月末にかけて42bpほど拡大。これと似たドル/円の急騰劇は今年の3月、101円台から111円台まで急反発した場面でもみられている。

しかし、FRBはコロナ対策の側面もあって、ドルの供給を強化してきた。米大手金融機関も概ね金融規制への対応を一巡させており、当時ほどのドルの流動性懸念はなさそうだ。これもバイデンラリー下でドル高が到来しても、当時には及ばないとみる一因だ。

また、ドル高を招いた長期金利の上昇も限られるのではないだろうか。ワクチンの実用化にめどが立っていれば別だが、新型コロナウイルスを巡っては、その終息を見通せていない。その上、11月と言えば、冬場に突入する北半球での感染拡大が加速している可能性が低くない。

政権交代が実現した選挙直後こそ一時的なご祝儀相場にも似た株高・債券安(長期金利上昇)が見られても、そこまで景気の先行きに楽観的になれるわけではないだろう。そもそもトランプラリーの起爆剤となった財政拡張による景気刺激策とは対照的に、バイデン氏は法人税を引き上げる方針を掲げている。政策の不連続が嫌気されることも踏まえれば民主党の政権奪還とねじれ議会の解消により、株高と長期金利の上昇がもたらされるのか不確実性が高い。

唯一、期待できるのは米中関係の改善だ。かねてバイデン氏は対中制裁関税には反対の立場であり、ハリス上院議員も同調しているからだ。とは言え、人権問題にまで踏み込んだ対中強硬姿勢は、今や共和・民主両党が唯一共有できる領域と言える。トランプ続投の場合に比べると、いくらか緊張が和らぐと期待されるにせよ、劇的な米中関係の改善は見込みにくい。

このように民主党が完勝した場合も、ドル/円の急騰は想定しづらい。今後、必要に応じてシナリオの再考は必要だが、コロナ禍の長期化をメインシナリオに据える限り、米ドル金利の低迷が見込まれ、ドル/円の上値は徐々に重くなろう。年末に向けてドル資金の需要に支えられる場面も想定されるが、総じて105円割れが定着する展開を見込む。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から19年まで個人ランキング1位。国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員。

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