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コラム:円安の潮流変わらず、増える長期的な押し下げ要因=内田稔氏

[18日 ロイター] - ドル/円相場は5月9日に131円35銭まで上昇し、2002年以来の高値を更新した。投機筋の円売りが膨らんだほか、日本勢のヘッジ付き外債処分に伴う円売りも相場を押し上げた可能性が高い。

 5月18日、ドル/円相場は9日に131円35銭まで上昇し、2002年以来の高値を更新した。写真は円紙幣と日本の旗。2017年6月撮影(2022年 ロイター/Thomas White)

例えば、日本勢は3月から4月にかけて中長期の外債をグロスで約81兆円も処分したが、低く見積もってもその半分は円買いのヘッジ為替を伴っていたとみられる。10年米国債(価格)で言えば、下げ幅は年初来1割を超えており、売却した外債にドル売り・円買いのヘッジ為替を充当しても数兆円が未消化のまま残った計算だ。厳格なひも付けではないにせよ、その解消には同程度のドル買い・円売りを要したはずで、ドル/円急騰の一翼を担ったとみられる。

翻って足元では、外債の処分も一巡したとみられ、市場が荒れ模様となれば円の買い戻しも入りやすい。ドル/円の騰勢はしばらく影を潜め、短期的には125円程度までの押し目があっても不思議ではない。

<インフレは長期化のおそれ>

一方、内外の金融政策格差は変わりそうになく、円安期待は根強く残ろう。

また、フィンランドやスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を決定したことで、ロシアの態度硬化は必至とみられ、ウクライナとの戦争終結も見通せない。

このため、対ロシアの経済制裁も相まって、輸入元をロシアやウクライナに依存する幅広い資源やコモディティの供給制約が世界的なインフレ圧力を助長する構図は不変だ。

主要国では中国など一部を除き、コロナとの共存へ向いつつある。経済活動の活性化に伴い、幅広いモノやサービスへの需要も高まっていこう。4月の米消費者物価指数をみても、食品とエネルギーを除いたコア指数の伸びが前月から加速した。

昨年を振り返ると、夏場にかけてインフレ圧力が和らいだものの、9月以降、米国を襲ったハリケーンによる供給制約と冬場を迎える欧州の暖房需要などから、再び幅広い資源価格が高騰。米連邦準備理事会(FRB)がタカ派へ傾斜する伏線となった。

世界的にみれば、金融政策の正常化や引き締めは今年末まで続くとみるのが妥当だ。市場では、欧州中央銀行(ECB)についても年央に利上げに着手し、マイナス0.50%の中銀預金金利を年末までに0.25%まで引き上げるとみている。

<ユーロ/円急騰の場面も>

加えてECBの資産買い入れも7─9月期中に終わる見込みで、イタリア国債など相対的に格付けの低い債券が軟調に推移しそうだ。実際、今年に入ってドイツ国債とイタリア国債の利回り格差は拡大傾向にある。

利上げの過程で、日本勢からみたユーロ/円のヘッジコストも、これまでのマイナス(受取り)からプラス(払い)へ転換する見通しだ。日本勢が欧州債の圧縮に動くと、オーバーヘッジとなった未消化のユーロ売り・円買いを解消するためのユーロ買い/円売りがユーロ/円を押し上げる場面も見込まれる。ドル/円の上昇圧力ともなるため、一定の留意が必要だ。

<日銀は動かず、円安容認か>

こうした中、日本でも4月分の生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価指数(コアコアCPI)の伸びが、前年比でプラス圏に浮上する見込みだ。ただ、欧米に比べてインフレの程度は鈍く、失業率もパンデミック前の水準まで下がっていない。金融政策の転換を時期尚早とする黒田東彦日銀総裁の主張は妥当と言え、在任期間中に緩和スタンスが変わる可能性は低い。

ただ、こうしたスタンスは、世界的にみればやはり特異と映る。過去最大規模に膨らんだ輸入総額と並んで、市場の円安期待を刺激し続けるだろう。

<経験則は一時棚上げ>

経験則に従えば、購買力平価(昨年末ドル96円51銭、国際通貨基金)から3割を超えるかい離を抱えた現在のドル/円は、既にオーバーシュートの領域だ。本来なら続伸はおろかその維持も困難であり、反落リスクを警戒すべきだ。

しかし、パンデミックや紛争、インフレと過去数十年間に起こらなかったことが、同時進行している上に長引く見通しだ。こうした状況下では、経験則もその妥当性を問われる。

しかも、日本でさえインフレに見舞われており、市場のインフレ期待も上昇傾向にある。実質金利の低下が、引き続き円安圧力となりかねない。

このため、調整局面を経て投機筋の円売りポジションが軽くなった後、再び騰勢を回復。年末にかけて2002年の高値135円15銭付近を上抜けしていく可能性が引き続き高いように思われる。

<介入はあるか>

この流れが反転する要因として協調(ドル売り)介入が挙げられる。実際、インフレを助長するユーロ安に対し、フランス中銀総裁などECB高官も苦言を呈している。参院選を前に、日本でもインフレを懸念する「悪い円安論」が根強い。人民元も対ドルで6.8元付近まで下落しており、インフレ圧力がじわりと高まってきた。仮に7元まで続落すれば、トランプ大統領(当時)が中国を為替操作国に認定した2019年以来だ。

中間選挙を控える米国でも、ドル高に対して何らかの政治的配慮が働くかもしれない。一段とドル高が進んだ場合、一定の歯止めをかけようとする国際的な合意が形成されやすい環境とは言える。各国高官から為替相場の動きに関して、「懸念(Concern)が共有されている」といったフレーズが出ないか、要注意だ。

もっとも、現在の動きは各国・地域の経済情勢と金融政策を映じたものであり、合理的だ。仮に通貨安を嫌うのであれば、金融政策の見直しが必要であり、それを無視したまま、協調介入が行われても、相場の潮流を変えることは難しいだろう。

<長期的な円安材料>

この間、国際通貨基金(IMF)からは、特別引き出し権(SDR)を構成する通貨バスケット比率の見直しが発表されている。向こう5年間の比率は、ドル43.38%(プラス1.65%)、ユーロ30.93%(マイナス1.62%)、円7.59%(マイナス0.74%)、ポンド7.44%(マイナス0.65%)、人民元12.28%(プラス1.36%)とされた。(カッコ内は見直し前との比較)

SDRの最大の狙いは、複数の通貨を参照することで、特定通貨の影響による価値の変動を抑制することだ。各国の中央銀行も、自身の外貨準備の通貨別アロケーションを検討する上で、SDRのバスケット比率を考慮しよう。

その点、デフレ脱却のためなら通貨安もいとわない日銀に対し、中国人民銀行は政策目標に経済成長を促すための「通貨価値の安定維持」を据える。

昨年末の世界の外貨準備(Allocated Reserves)に占める人民元の割合は約2.8%と円の半分だが、それでも着実に上昇しつつある。仮に6月末に発表される今年3月末のデータで両者が接近していれば、円と元の将来的な逆転も現実味を増す。自ずと相場にも反映されていくのではないか。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*内田稔氏は、高千穂大学商学部准教授、ALCOLAB外国為替アナリスト。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。マーケット業務を歴任し、2012年から2022年まで外国為替のチーフアナリスト。22年4月から現職。J-money誌の東京外国為替市場調査では2013年より9年連続個人ランキング1位。国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、経済学修士(京都産業大学)。

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