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コラム:2022年のドルは緩やかに下落、1年後の対円は110円割れも=内田稔氏

[7日 ロイター] - 2021年も残すところわずかとなったところで、新たな変異株「オミクロン株」が市場に混乱と動揺をもたらした。これに限らず、今年は経済活動の正常化が期待されたものの、コロナ禍の収束には至っておらず、サプライチェーンの正常化は想定されたほど進んでいない。秋口以降の資源価格の高騰も、世界的なインフレ懸念を巻き起こした。それに伴い為替相場もめまぐるしい動きをみせた。本稿では、2021年の円相場を振り返るとともに、2022年の主要10通貨(G10)の先行きを概観しておく。

12月7日、2021年も残すところわずかとなったところで、新たな変異株「オミクロン株」が市場に混乱と動揺をもたらした。内田稔氏のコラム。写真は11月撮影(2021年 ロイター/Murad Sezer)

<円の持ち直し続く>

今年の円相場は独歩安となる場面が目立った。G10通貨に対する円の名目実効相場(均等ウェート)は、年初と比べて10月に最大で約9%も減価。実質金利(名目金利-インフレ期待)の影響を受けやすい円は、インフレ期待が上昇する場面で軟調に推移した。今年は、世界経済の正常化機運が高まる中で供給制約が長期化。原油価格を筆頭にコモディティ価格が上昇し、インフレ懸念を助長した。

このため、生鮮食品とエネルギーを除けばデフレが続く日本でも市場のインフレ期待が高まった。もっとも、米WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)がピークアウトした10月下旬を底に円も反発し、足元では下げ幅の約6割を回復している。

11月もドル高によって115.52円まで上昇したドル/円を横目に、クロス円では円高が進行。円相場に関するインフレ期待による説明力は依然として高い。

一方、原油価格の先行きを展望すると、北半球が冬場の峠を越すことで需要は落ち着いていくだろう。米シェール企業の稼働リグ数も増加傾向をたどり、ハリケーンで被災した米メキシコ湾の石油施設の復旧も進む。来年の原油価格は今年よりも緩む可能性が高いだろう。

2022年もインフレ率の高止まりが見込まれるが、多くの国が金融政策の正常化に踏み出しており、インフレ期待は落ち着きを取り戻す可能性が高い。力強さと主体性を欠くにせよ、幅広い通貨に対する円の持ち直しが続く公算が大きい。

<ドルは緩やかに下落>

今年、堅調に推移したドルは、既に割高な水準にあり、その度合いも増した。一段高のハードルは高いだろう。今年8月のリポート(External Sector Report)で国際通貨基金(IMF)は2020年の実質実効相場ベースでドルが約8%、過大評価されていたと指摘した。12月3日に米財務省が公表したいわゆる為替報告書では、その度合いがさらに増したことが示されている。

本来、割高なものが一段と上昇することは容易なことではなく、むしろその是正が進んでも不思議ではない。例えば、当時の購買力平価から約16%もドル高・円安水準で米国の利上げ局面を迎えた2015年12月、市場では「ドル/円130円説」がコンセンサスであった。しかし、9回目の利上げが行われた2018年暮れ、ドル/円は約10円も低い111円台で推移していた。

しかも、2016年には一時99円まで急落する場面もみられた。米国の利上げはドルに対する支援材料には違いないが、その後のドル急落は、割高感の是正圧力が勝った結果だ。

特に米国の場合、過去数十年間にわたって、政策金利、長期金利ともに低下傾向をたどってきた点も見逃せない。生産性の鈍化や人口動態(高齢化)に加え、格差の拡大などにより、自然利子利が低下してきたことが指摘されている。自然利子率とは、経済を過熱も冷ましもしない中立的な金利水準を指し、その低下は、米国経済が許容できる金利水準の低下を意味する。

現在、市場の関心はテーパリング(資産購入の削減)のペースと利上げの開始時期に集まっているが、米連邦準備理事会(FRB)のコミュニケーション能力に照らせば、それらが相場に強く影響するとは考えにくく、市場の関心は金利水準の天井に向っていくだろう。

その点、テーパリングに伴い、米長期金利には上昇圧力が加わるとみられるが、長期的な低下傾向を踏まえると、2%台への到達は難しいだろう。過去最大規模に迫る経常赤字をファイナンスするには不十分とみられ、2022年のドルは、コンセンサスに反して下落軌道を描く可能性が高い。ドル/円については2022年の年末に向け、110円を割り込んでいく可能性が高いだろう。

<ドル安の受け皿は経常黒字国通貨>

資源価格が軟化する場合、資源価格との相関が高い豪ドル、ニュージーランドドル、ノルウェークローネ、加ドルは総じてドルよりも弱含む可能性が高い。このためドル安の受け皿は、資源価格による直接的な影響を受けにくい円のほか、ユーロ、スイスフラン、スウェーデンクローナといった経常黒字国通貨群が担うことになりそうだ。

中でも、インフレ率が低い円とスイスフランがトップ争いを演じることになるが、スイスフランは割高と評価されており、円に軍配が上がるだろう。相対的にインフレ率が円やスイスフランよりも高いユーロとスウェーデンクローナが3位、4位に入りそうだ。

<資源国通貨、総じて軟調>

他方で、資源国通貨の多くは、利上げが見込まれているが、既に織り込みが進んでいる。加えて資源価格が軟化すれば、利上げの織り込みも後退しそうだ。

中でも2022年のカナダは辛うじて経常黒字を確保できるかどうかだろう。IMFのレポートでも加ドルは割高と評価されており、為替報告書でもその程度が今年に入って増したことが指摘されている。経常赤字が拡大傾向にあるニュージーランドドルと並び、G10通貨の中の最下位争いを演じる可能性が高い。

一方、豪ドルは若干割安と評価されているだけに、金融政策の正常化に対する見方によっては、下げ幅は抑制されよう。GDP比で7%の経常黒字が見込まれているノルウェークローネと7番手、8番手を競いそうだ。

<割高な英ポンド、上値重く>

残る英ポンドについてみておくと、インフレ率は米国よりも低く、利上げは米国に先行する可能性が高い。実質金利の観点で言えば、ドルに対するアドバンテージを維持しそうだ。欧州連合(EU)離脱後も、世界の中央銀行の外貨準備に占める比率に顕著な変化はみられていない。

ただ、英ポンドも米ドルと並んで割高な領域に位置している。2022年に関して言えば、対ドルでの伸びは期待しづらく、ドルとともに中盤に並びそうだ。

<インフレ高進ならドル120円も>

こうした見方が大きく外れるとすれば、2022年も引き続きインフレへの警戒が続く場合だ。例えば、新型コロナウイルスの新たな変異株に対しても、既存のワクチンや経口治療薬の効果が実証され、重症化するリスクが低ければ、2022年の世界経済は一段と加速する。その需要に対して、サプライチェーンの正常化は追いつかないだろう。

この場合、円には再び強力な下押し圧力が加わる見込みで、ドル/円も今年末における購買力平価(98.25円、IMF算出)から2割を超えるオーバーシュートを演じても不思議ではなく、120円も視界に捉えそうだ。

もっとも、強いリスク選好の下では、次第にドルも軟化する。このため2022年末には、115円割れまでゆっくりと反落する可能性が高いだろう。

編集:田巻一彦

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査で2013年より9年連続個人ランキング1位、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定アナリスト、経済学修士(京都産業大学)、証券アナリストジャーナル編集委員。

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