for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

コラム:ドル円続伸の条件は何か、年末は今より円高の公算大=内田稔氏

[24日 ロイター] - 6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を経て、米国の金融政策の正常化プロセスはやや早まる見通しとなった。これに伴い、期間7年までの米国債利回りの上昇がドル買いを誘っており、ドル/円も15カ月ぶりに111円台まで上昇した。

6月の米FOMCを経て、米国の金融政策の正常化プロセスはやや早まる見通しとなった。これに伴い、期間7年までの米国債利回りの上昇がドル買いを誘っており、ドル/円も15カ月ぶりに111円台まで上昇した。写真は2013年2月、都内で撮影(2021年 ロイター/Shohei Miyano)

しばらくの間、ドルの先高感にけん引され、ドル/円の続伸も見込まれる。昨年3月の高値である111.71円や昨年2月の高値の112.23円付近が意識されそうだ。もっとも、ドル/円の騰勢の維持や続伸に求められる条件が、満たされる可能性は高くない。ドル/円のバリュー判断に照らしても、上振れ余地は広くないように思われる。そこで、ドル/円の現状や続伸に必要な条件を整理した上で、バリュー判断でみた上値めどのヒントを示したい。

<持続的な上昇の条件>

今年のドル円/相場は、大きく分けて3つの局面に分類できる。まず、年初から3月までの時期についてG10(主要10カ国)通貨の強弱をみると、ドルが4番手だった一方、円は最下位と低迷した。

米経済の正常化への期待を受け、米長期金利が上昇してドル買いを誘発。同時にリスク選好地合いが円安に波及した。ドル高と円安のコントラストにより、ドル/円は最大で8円以上も上昇した。

4月に入るとリスク選好地合いがドル安にも波及し、ドルが最下位に転落した。円も引き続き第9位で低迷したが、円安とドル安の拮抗(きっこう)により、ドル/円も109円台から110円でもみ合った。やはりドル/円上昇にドル高は欠かせない。

最後は、6月以降だ。金融政策正常化への期待からドル高期待が再び高まり、ドルが最上位に浮上した。ただ、相場の不安定化を受けて円も2番手を維持している。ドル/円は年初来の高値を更新したとは言え、5月末からの上昇幅は1円台にとどまっている。当然のことではあるが、ドル/円が続伸するためには、年初にみられた通り、ドル高と円安という対照的な動きの同時並行が条件となろう。

その点、金融政策の正常化を巡っては、進展ペースが市場の想定を上回ると懸念されれば、ドル高をしのぐリスク回避の円高によってドル/円は下落しかねない。6月のFOMC後、いったん110円を割り込んだのはこのためだ。

反対に、緩和的な政策が続くことに変わりはないとの楽観的な見方が強まれば、円安とともにドルにも調達通貨に対する下落圧力が加わるとみられる。そうなれば、やはりドル/円が上値を追うだけの浮力は得られないだろう。ドル/円はしばらく騰勢を保つとはみられるが、その持続性は乏しいと考えられる。

<バリュー判断のヒント>

一方、仮にドル高と円安が持続する場合、ドル/円はどの程度まで上昇し得るか。ヒントとなるのは相対的購買力平価(以下、PPP)だ。これは、ある時点で一物一価の考えに基づく絶対的な購買力平価が成立していたことを前提としている。そして、その後のインフレ率の格差に応じて、高インフレ通貨安/低インフレ(またはデフレ)通貨高が進むとの考えだ。

従って、起点の置き方が重要となるが、2017年時点をドル105.4円とした上で、その前後のインフレ格差からPPPを求めるのが妥当だろう。これは、世界銀行が主導する世界最大規模の統計事業、「国際比較プログラム」において、幅広い財やサービス価格及びそれらに対する総支出額のデータによって算出されており、究極の絶対的購買力平価とみて差し支えない。

問題は、年末時点のドル/円が、このPPPからどの程度、ドル高・円安方向にかい離し得るかだ。近年、ドル高と円安が同時かつ持続的に併走したのは、アベノミクスや異次元緩和による円安期待と米国の利上げ観測によるドル高が共存した2014年だ。

この年のドル/円は、当時のPPP、約103円から16%程度も高い120円付近で年末を迎えた。同じかい離幅と仮定すれば、今年の年末のPPP、100.3円に対し、年末のドル/円が116円付近まで上昇してもおかしくない計算になる。

もっとも、2014年のケースでは翌年6月、国会で黒田東彦総裁が「ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れていくということは、普通に考えるとなかなかありそうにない」と答弁。ドル/円はその時期を天井に反落し、米国の利上げが続く中、2016年から5年続けて(年足)陰線を記録した。

ドル/円に直接言及した発言ではなかったが、円安を支えにデフレ脱却を目論んだ日銀にさえ、当時の円安は行き過ぎと映っていたはずだ。従って、PPPから15%程度のかい離が生じた水準の持続性は乏しいだろう。

一方、「ドル高」と「円安」のどちらかのピースが欠けた2016年以降についてみれば、年末時点のPPPからのかい離は2016年の約11%が最高で、あとは6%台と広くない。今年に置き換えた場合、ドル高と円安がそろわない限り、年末の上値めどはせいぜい111円付近となる。無論、それまでのオーバーシュートは否定し得ないが、ここからの上ブレ余地がそれほど広いとも考えにくい。

<ドル高の持続性に疑問符>

そもそも米国の金融政策の正常化が、ドル高をもたらすのかどうかも疑わしい。米ドル金利の上昇自体はドル高期待を高める一因だが、それ以外のドル安材料が目立つからだ。

足元で長期金利の低下が示唆するのは、次の政策金利の天井がそれほど高くない可能性だ。過去40年間、米国の政策金利と長期金利はどちらもすう勢的に低下している。前回の政策金利のピークが2.25─2.50%、長期金利が3.25%であったことに照らせば、次の政策金利のピークは2%台前半にとどまり、長期金利も3%に届かない公算が大きい。

しかも、前回指摘した通り、長期金利の上昇は株式相場の調整(下落)を誘発しかねず、特に2%乗せはかなりの難所となりそうだ。長期金利が1%台で推移するなら、過去最大規模に拡大した経常赤字から生じるドル安圧力を跳ね返すことは難しいだろう。

また、金融政策の正常化が始まった後も、バランスシートの正常化、即ち緩和マネー総量の吸収が始まるのは、複数回の利上げを経た数年先のことだ。つまり、それまではドルの潤沢な流動性は残るため、ドル高圧力もそれほど強くはならないのではないか。

さらに、米ドルの実質実効相場(BIS、ナローベース)は、過去20年平均よりもまだ1割程度も高い。このことが、経常赤字のさらなる拡大と保護主義色の濃い民主党政権によるドル高の政治問題化を招くおそれもある。

為替相場をみる上で、金利や金利差は重要な指針の1つだが、その精度は高くないことが知られている。これは、金利要因以外の材料にも目を向ける必要性を強く示唆している。しばらくの間、ドル高期待を支えにドル/円も底堅く推移するとみられるが、その勢いが年末まで続くわけではないだろう。率直に言えば、前回のコラムで示した年末105円は遠退いたとみられるが、それでも現在よりドル安/円高の水準で年末を迎える可能性の方が高いだろう。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査で2013年より8年連続個人ランキング1位、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定アナリスト、経済学修士(京都産業大学)、証券アナリストジャーナル編集委員。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up