for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

コラム:膨らむ非銀行分野のリスク、FTX破綻は世界的動揺の始まりか=大槻奈那氏

[東京 8日] - 12月1日、米大手投資会社・ブラックストーンが傘下の非上場不動産投資信託―“BREIT”と呼ばれる―の解約制限措置を発表した。預かり資産は690億ドル。ブラックストーンの旗艦不動産ファンドだ。

 米国では2020年10月以降、銀行は1件も破綻していないし、米証券会社の資本比率は過去最高レベルとなっている。従来型の金融システムには、不安のかけらもみられない。ただ、こうした従来型の金融機関の市場プレゼンスは低下している。大槻奈那氏のコラム。写真はイメージ。11月撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

少し前から、他の様々な投資の不調を理由に現金化を必要としたアジアの投資家が資金を引き出し始めていたが、ついに引き出し額が純資産の2%に達したことに伴い解約制限が発動された。

同ファンドの今年これまでのトータルリターンは9.3%と順調で(12月7日現在)、利益確定の売りが出やすかったとみられる。従って、REIT市場全体の問題ではないものの、世界のリスク資産の連動性を象徴する動きとして注目される。

<膨張するNBFI>

米国では2020年10月以降、銀行は1件も破綻していないし、米証券会社の資本比率は過去最高レベルとなっている。従来型の金融システムには、不安のかけらもみられない。

ただ、こうした従来型の金融機関の市場プレゼンスは低下しており、BREITのような投資ファンドや保険会社等のNBFI(Non-Bank Financial Institutions、銀行以外の金融会社)の投融資額は、世界の金融資産の48%にも上る(2020年)。

残高でみると、リーマン・ショックの頃の2倍近くに膨れ上がっている。ざっくりい言えば、銀行や証券の財務が盤石だといっても、世界の金融フローの半分が安泰だと言っているに過ぎない。

<実態がつかめないリスク>

NBFIにはどんな問題があるのか。第1に、レバレッジがどの程度かけられているのかが不明瞭だ。米連邦準備理事会(FRB)の今年11月のリポートによれば、NBFIのレバレッジは過去より上昇しているとみられるが、それらの全体像をタイムリーに把握するのは難しい。

昨年破綻したアルケゴス・キャピタルは約100億ドルの元手に対して、差金決済取引(CFD取引)を通じ5倍のレバレッジをかけていた。しかし、直前までそのリスクについて、市場等で語られたことはほぼなかった。

欧州連合(EU)のデータによれば、ヘッジファンドでは300%強、不動産ファンドで130%強のレバレッジがかけられている(2021年10─12月期)。金利上昇から当然、大きな影響を受けているとみられるが、その実態は必ずしも明らかではない。

<オフバランス取引の裏側と高まる相関>

第2に、デリバティブ取引である。国際決済銀行(BIS)の今年12月5日付四半期リポートによれば、米国外のNBFIが持つ通貨デリバティブのドル債務は合算で26兆ドルとなっている。過去5年半で1.5倍に膨張した。

しかし、これらはオフバランス取引であり外部からは見えにくく、問題が明らかになるのは、決まって市場で混乱が発生した後だ。今年9月には、英国の年金基金が国債とポンドの下落から多額のマージンコール(追加担保要求)に見舞われ、手持ちの英国債の売却を余儀なくされた。その結果、英国債価格の急落を招き市場を混乱させたが、そのようなリスクが事前に市場参加者に共有されることはほとんどなかった。

さらに問題なのは、NBFI間の相関が上昇している点である。今年9月に発表された日銀のワーキングペーパーによれば、金融機関、特にNBFIの保有するポートフォリオのオーバーラップは過去よりも増している。何らかのショックが発生した場合、リスクの波及度が深刻な問題となる可能性がある。

<時間がかかる規制の本格化>

このようなNBFIのリスクについて、今年11月、金融安定化委員会はシステミックリスク回避に向けた施策を提言した。これには流動性の管理強化、デリバティブ取引のプロシクリカリティ(悪い時に売りが出てさらに悪くなること)への対応、レバレッジの脆弱性対策などが含まれる。

しかし、こうした提案内容の具体化にはまだ時間がかかりそうだ。そうした中、当面、注意すべき分野は、暗号資産業界である。もちろん、暗号資産はNBFIの主要な投資先ではないが、足元で発生していることは、あまりに大規模であり、まだ、収束点が見えないためだ。

暗号資産市場の時価総額は現在120兆円程度と株式市場の1%に過ぎない。しかし、かつて「ごくわずか」と市場が高をくくったサブプライム・ローンの残高と概ね同規模である。 “優良”とされていた暗号資産取引所・FTXのずさん経営発覚から11月末までの約1カ月間で、暗号資産投信残高の14.5%に当たる196億ドルが引き出された。

暗号資産の価格は現在のところ小康状態にあるが、議論が始まった規制強化などを引き金にさらに下落した場合、NBFIを経由して、想定外の影響が生じる可能性は否定できないだろう。

1800年代初頭、独立から間もない米国では、400行を超える銀行がそれぞれ独自の銀行券を発行し奔放な投融資を行っていた。その後、幾多の銀行倒産ラッシュと規制強化を経験し、現在のような堅牢な銀行システムができるまで、2世紀以上かかった。

NBFIも、近い将来に市場混乱の火種となる可能性もあるが、より健全な金融市場形成のためには避けては通れない道なのかもしれない。

(編集:田巻一彦)

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*大槻奈那氏は、ピクテ・ジャパンのシニア・フェロー。東京大学卒業、ロンドン・ビジネス・スクールでMBA、一橋大学ICSで博士(経営学)。スタンダード&プアーズ、UBS、メリルリンチ、マネックス証券などでアナリスト業務に従事。2022年9月より現職。名古屋商科大学大学院教授を兼務。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up