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コラム:欧米に劣後する日本株、4つの要因でキャッチアップの可能性=藤戸則弘氏

[東京 12日] - 今年7月に国際通貨基金(IMF)が発表した世界経済見通しでは「ワクチンへのアクセスが、世界経済の回復を二分する主要な断層線として浮上している」との興味深い見解を掲げた。

今年7月にIMFが発表した世界経済見通し では「ワクチンへのアクセスが、世界経済の回復を二分する主要な断層線として浮上して いる」との興味深い見解を掲げた。藤戸則弘氏のコラム。写真は東京証券取引所で2012年9月撮影(2021年 ロイター/Yuriko Nakao)

それが2021年成長率見通しにも反映されており、4月時点の予想と対比してみると、コロナワクチン接種が進展する先進国を0.5%ポイント上方修正して5.6%としたのに対し、ワクチン対応が出遅れた新興国は0.4%ポイント下方修正して6.3%にした。まさに「2つのブロックに分かれた」状況である。

<コロナ感染が世界経済を二分割>

2021年の成長率予測を国別に見ると、米国は0.6%ポイント上方修正されて7.0%、ユーロ圏が0.2%ポイント上方修正され4.6%、英国が1.7%ポイント上方修正され7.0%と、先進国は軒並み成長率が加速すると予想されている。

一方、「デルタ株」による感染が急拡大する東南アジア諸国連合(ASEAN)の原加盟国5カ国の成長率は、0.6%ポイント下方修正され4.3%となった。東南アジア諸国のワクチン接種率は低く、これが感染者増のみならず、死者数の急増にもつながっている。

さて肝心の日本だが、IMFの見通しでは、0.5%ポイント下方修正され2.8%となった。先進国の中では、例外的に下方修正の対象国となっている。

その最大の要因は、「デルタ株」の感染者が急増し、足元では1日当たり1.5万人前後の新規感染者を記録していることだ。

また、欧米諸国のワクチン接種率(2回完了・対人口比)が5─6割に達しているのに対し、日本ではようやく進展したものの約3割に留まっていることも懸念されているようだ。

「ワクチン接種率」を基準に考えれば、欧米に劣後し、東南アジア等の新興国よりは進ちょくしているといった中間的な位置づけである。先進国の中においても、日本は「2つのブロック」に分断された特異な状況と言えるだろう。  

日本が置かれた特殊な状況は、購買担当者景気指数(PMI)にも反映されている。マークイットの7月PMI・総合指数は、米国が59.9、ユーロ圏が60.6と、平時ならば好況と言っても良い高水準だ。

ところが、日本は48.8と景況判断の分岐点である50割れの状況が続いている。製造業は53.0と健闘しているが、サービス業は47.4と「デルタ株」の感染拡大を受けて低迷が続いている。政府は緊急事態宣言等の規制措置を地域的に拡大し、実施期間も延長しており、内需サービス業の「ビジネス・ノーマル化」がいつになるのかは、判然としない状況と思われる。

<海外勢が買いから売りに転換>

こうした成長率見通しや景況感を背景に、日本株の年初来上昇率は、欧米に比較して大幅に劣後して推移している。米S&P500種指数がプラス18.4%、独DAX指数が同15.4%、仏CAC40指数が同23.5%、伊MIB指数が同19.0%となっているのに対し、日経平均は同2.3%とかろうじて水面上に位置している(8月11日時点。為替考慮なし)。

日本株のパフォーマンス格差は、グローバル・ポートフォリオのマネージャーにとって、到底無視できない状況と思われる。特に短期の期間収益を重視するファンドにとっては、日本株の組み入れ比率がアンダー・パフォームとなる要因にもなりかねない。

東証発表の投資主体者別売買動向において、6月第5週から7月第3週の4週間で、外国人投資家は現物株式と株式先物を合計して1兆5228億円と大幅に日本株を売り越していた。

夏の停滞相場を株式需給面から見ると、昨年10月から今年4月まで合計4兆0512億円の大幅買い越し(現物株式)を続けた外国人投資家のスタンス転換が、主な要因と思われる。おそらく夏場から秋口にかけては、「デルタ株」の感染状況や景況感の停滞が重しとなり、低水準の往来相場を継続する可能性が高いと思われる。

<ワクチン進展効果>

しかし、中長期的に見た場合には、異なった展望を描くことも可能と想定している。日本の景況感や株価の最大のネックは、欧米に劣後するワクチン接種率だが、菅義偉首相は「8月下旬にはワクチン接種率(2回完了)で4割を超えるように取り組む」と表明している。

多大な努力もあってワクチンの量的確保にめどが付きつつあり、徐々にではあるがコロナ防疫体制が改善される可能性がある。「欧米並みの5─6割接種完了」に近づけば、次第に日本経済や株価はコロナ感染症に対する抵抗力を持つと思われる。

<割安な日本株の魅力>

第2には、株価の低迷自体が、バリュエーション面の魅力を増していることだ。足元ではTOPIXの予想PER(株価収益率)が15倍台、日経平均は13倍台に過ぎず、株価高騰から割高感が指摘される米国株式に対して、相対的にリーズナブルな状況と思われる。

特に内外のペンション・ファンド(年金基金)等の長期資金運用者は、このバリュエーションを重視する傾向が強いと言われている。ヘッジファンド等の短期トレーディング志向とは全く異なった観点で、長期的な逆張り投資家が静かに日本株を拾い始めることは、十分想定できると思われる。

<グローバル企業の好決算>

第3に、業種によってばらつきがあるものの、グローバル展開企業中心に、好決算企業が少なくないことだ。米国、中国がけん引役となり、世界経済がコロナ禍からの回復傾向を強めているのは否定できない。出遅れていたユーロ圏も、ワクチン接種率の進展とともに景況感の改善が顕著である。

この世界的回復を追い風に、半導体、電子部品、デジタル・トランスフォーメーション(DX)・ソフト、電気自動車(EV)・自動運転化関連、高品質のFA関連、医療機器等には最高決算企業が少なくない。景気敏感でも海運、鉄鋼等の業績好転には目を見張る内容がある。

<衆院選と株価>

第4に、「政治の秋」を迎えることだ。実は、過去3回の衆院選を振り返ると、株価に強烈なインパクトを及ぼしていることが分かる。2012年12月選挙では自民党が294議席を獲得し、第2次安倍晋三政権の成立となった。

安倍政権は、財政出動による思い切った景気浮揚策と日銀の超緩和策の一体化というアベノミクスを前面に打ち出し、日経平均は2012年11月安値8619円から2013年5月高値1万5942円まで85%という記録的上昇となった。

2014年12月選挙は、安倍政権の消費増税先送りの是非を問うことが大義名分となったが、この選挙でも自民党は291議席を獲得し、安倍政権長期化を決定づけた。日経平均は2014年10月安値1万4529円から2015年6月高値2万0952円へ44.2%の上昇となった。

最も注目できるのが2017年10月選挙である。前2回の選挙とは異なって、いわゆる「森友学園・加計学園問題」の影響が自民党に大きな逆風となった。NHKの世論調査では、安倍政権の支持率は2017年7月に35%まで急低下し、逆に不支持率は48%に達していた。

この状況は、現在の菅政権と同様である。事前には自民党大敗との予測もあったが、自民党は選挙前議席と同じ284議席を獲得し、逆風を跳ね返す形となった。大都市圏では「政治の風」によって自民党苦戦もあったが、地方を中心にベテラン議員が強固な地盤を持ち、「危機バネ」で支持層も引き締まって事前予測を覆した。日経平均は、2017年9月安値1万9239円から2018年1月23日の高値2万4129円へと25.4%の上昇を記録した。

つまり、2012年から直近の2017年衆院選まで、全て株価大幅高の展開となっている。日銀との協調体制によるアベノミクス発動をはじめ、政策期待の増大が株価の刺激要因として機能していると思われる。

すでに自民党の二階俊博幹事長は「30兆円規模」の景気浮揚策に言及しているが、下村博文政調会長も低所得者層向けの「10万円定額給付を政府に求める」と表明している。過去の衆院選と株価の関連性を見れば、年末に向けて浮揚シナリオを描くことも可能と思われる。

日本のワクチン接種率進展、割安なバリュエーション、グローバルな好業績企業の存在、そして「政治の秋」を考えれば、夏場の停滞相場で安値を丹念に拾うことが、パフォーマンス向上につながると想定している。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

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