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コラム:米利上げと高まる景気後退懸念、株式市場が直面する下落リスク=藤戸則弘氏

[東京 6日] - 米国のリセッション(景気後退)は概念上のリスクではなく、リアル・リスクとなりつつある。

 米国のリセッション(景気後退)は概念上のリスクではなく、リアル・リスクとなりつつある。藤戸則弘氏のコラム。写真はニューヨーク証券取引所前で2020年3月撮影(2022年 ロイター/Carlo Allegri)

米国の1─3月期実質国内総生産(GDP)成長率(前期比・年率、以下同)は、確報値で内容が大きく修正された。全体はマイナス1.6%と改定値のマイナス1.5%と僅少な差で、この程度の修正はよくあることだ。

<警戒すべき米個人消費の減速>

ところが、個人消費の伸びは改定値のプラス3.1%からプラス1.8%に大幅下方修正された。これは、昨年7─9月期の同2.0%、10─12月期の同2.5%と比較しても下回る水準で「足元の個人消費は堅調」との見方を覆すことになる。

今回の確報値では、在庫投資のマイナス寄与度が改定値のマイナス1.09%からマイナス0.35%に修正され、逆に個人消費の寄与度はプラス2.09%からプラス1.24%に下方修正されている。

これでは、米経済に対する評価が全く異なったものにならざるを得ない。個人消費は堅調どころか「既に1─3月期から高インフレ、サプライチェーンの混乱、ウクライナ戦争の影響等で鈍化していた」との見解が妥当と思われる。

足元の個人消費関連の統計を見ると、6月のミシガン大学消費者マインド指数は、50.0と統計開始以来の最低である。2020年4月のコロナショックの71.8、2008年11月のリーマンショックの55.3、1980年5月の第2次オイルショックの51.7といった歴史的な大変動時さえ下回っている。

また、5月の個人消費支出は前月比プラス0.2%と4月のプラス0.6%から鈍化しているが、特に重要なのはインフレを考慮した実質ベースで、4月のプラス0.3%からマイナス0.4%へと水面下に沈んでいることだ。米消費者の財布のひもは締まり始めている。

<米GDP、2期連続マイナスの可能性>

一方、堅調を継続して来た米製造業も、鈍化傾向が顕在化して来た。6月ISM製造業景況指数は5月の56.1から53.0に急低下したが、問題なのはその内訳である。先行性を有する新規受注指数が49.2と景況判断の分岐点である50を下回り、5月の55.1から急速に悪化している。

また、受注残指数も53.2と2月の65.0から急低下した。中国ロックダウン(都市封鎖)の悪影響、サプライチェーンの混乱は尾を引いており、製造業の先行きが急速に悪化することを示唆していると思われる。

こうしたことから、アトランタ地区連銀が発表している「GDP NOW」は、7月1日時点でマイナス2.078%まで落ち込んだ。「GDP NOW」はGDPを構成する13の要素から足元のGDP成長率を予測するものだ。通常のGDP統計に見られる大幅なタイムラグを是正して「現在はどうなのか」を主要統計の発表のたびに反映させるリアルタイム指数である。つまり、1─3月期に続いて、4─6月期もマイナス成長となるリスクが台頭したことになる。

<リセッションに言及したパウエル議長>

重要なのは、こうした状況にもかかわらず、米連邦準備理事会(FRB)が「高インフレ抑制」を第一の命題とし、大幅利上げとQT(バランスシート圧縮)の強い引き締め策の継続方針を鮮明化していることだ。パウエルFRB議長は「ソフトランディング(経済の軟着陸)は、ここ数カ月で困難さを増している」と認め、米議会公聴会で「リセッションの可能性」にも公的に言及した。つまり、「高インフレ抑制」の命題達成のためには「景気減速を代償としても引き締め策にまい進する」と宣言したにも等しい内容だ。

通常の金融政策は「景気拡大・過熱局面」で引き締め策、「景気減速・後退局面」で緩和策を実施するのが一般的だ。このセオリーを逸脱した代表例は、1979年の第2次オイルショックに対して、当時のボルカーFRB議長が政策金利を20%にまで引き上げた局面だ。サウジアラビアの代表的油種であるアラビアンライト原油価格は、1977年安値1バレル=13.0ドルから1981年高値38.3ドルに高騰した。

米国の消費者物価指数(CPI、総合・前年比)も、1980年3月には14.8%まで上昇したハイパー・インフレである。やはり、今回と同様に「高インフレ抑制」が最大命題になった局面だ。

ボルカー議長の超引き締め策によって、米実質GDP成長率(前期比・年率)は1980年4─6月期のマイナス8.0%まで急速に悪化した。その後も景気停滞が続き、1982年7─9月期もマイナス1.5%で、景気・物価がノーマル化して株価も上昇トレンドに回帰したのは、結局、1983年以降のことである。つまり、第2次オイルショック勃発から回復まで4年の歳月を要したことになる。

<今後のインフレを左右する原油価格>

今回の高インフレの要因は、コロナ禍に対して供給サイドが生産設備・人員の大幅削減を実施したが、想定以上に需要が急回復して需給が極めてタイトになったことがベースにある。サプライチェーンの混乱は現在も継続しているほどだが、そこにウクライナ戦争という地政学的リスクが加わったため、世界的な物価上昇が続いている。WTI原油先物価格は、今年3月高値1バレル=130.05ドルを記録した後も、相対的に高水準で推移している。

しかも、欧州連合(EU)はロシア産エネルギーの禁輸を志向しており、石油輸出国機構(OPEC)が増産に慎重姿勢を維持していることを考えると、今後も高止まりの可能性があろう。欧州天然ガス先物価格はロシアが欧州向けの供給を絞り、不需要期の夏場にもかかわらず高騰しているのも気になる点だ。

高インフレの脅威は世界に及んでおり、米国のみならず各国中央銀行は引き締め策を継続するのが濃厚と思われる。つまり、「景気減速覚悟の上での利上げ」である。

<景気減速・金融引き締めと株価>

株式をはじめとするリスク・アセットは、この景気減速下での金融引き締めに極めてぜい弱である。今年上半期のダウ工業株30種平均はマイナス15.3%と60年ぶりの低迷となり、S&P500種指数はマイナス20.6%とさらに落ち込み、ナスダック総合指数に至ってはマイナス29.5%と過去最悪だった。

また、ビットコインに象徴される暗号資産は今回の過剰流動性相場の象徴だったが、一部暗号資産の行き詰まりや関連ヘッジファンドの破綻が話題になっている。格付けの低い債券を中心にしたハイ・イールド債も調整色が濃い。

問題は、各国中銀の引き締め策は始まったばかりであり、今後も高インフレに明瞭なピークアウト感が見えるまでは、相当期間続く可能性があることだ。したがって、今後も「高インフレ」と「景気減速・後退」の狭間で、リスク・アセットのボラタイルな動きは継続すると想定されよう。

株式においてはまず、キャッシュ・ポジションを通常より高めに維持しつつ、景気変動の影響を受けにくい安定業種をオーバー・ウェイトすることが重要だ。

S&P500種の産業グループ株指数(24業種)の今年上半期騰落率を見ると、1)エネルギーがプラス29.2%、2)電気通信サービスがプラス4.4%、3)食品・飲料・タバコがプラス0.5%、4)公益事業がマイナス2.0%、5)保険がマイナス2.9%、6)医薬品・バイオがマイナス5.5%─のセクターが上位である。

エネルギーは性格が異なるが、他のセクターはS&P500種全体がマイナス20.6%の大幅調整だけに、いわば「守りに徹してアウトパフォーム」したのが鮮明だ。

逆にワーストには、1)自動車・同部品がマイナス38.1%、2)耐久消費財・アパレルがマイナス36.3%、3)半導体・同製造装置がマイナス36.2%、4)メディア・娯楽がマイナス34.8%、5)小売がマイナス32.7%─と景気敏感・消費関連が並んでいる。

TOPIXの上半期騰落率でも、1)鉱業42.9%、2)電気・ガス23.1%、3)石油・石炭19.1%、4)保険17.8%、5)水産11.7%、6)不動産11.3%、7)倉庫・運輸10.5%、8)銀行9.1%─など、米国同様にエネルギー関連を除けば、海外経済の影響を受けにくい内需・ディフェンシブ系や金利敏感株の活躍が目立っている。

やはり、脇を固めた守りのスタンスを重視しながら、リスクはエネルギー株で取るのが妥当な戦略のように思える。おそらく下半期は、一段と世界経済の減速感が強まり、状況によっては景気後退の可能性もあろう。やはり「ディフェンシブ・シフト」が選好されると想定している。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。

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